1999年6月号
視角


「染物と木材のまち」 の再生と生協の役割
   ―京都生協二条駅店 (仮称) の立地関連調査の結果を中心に―

  岩佐 和幸


転機にたつ 「染物と木材のまち」
 京都市中京区西部のJR山陰線二条駅を中心とする一帯は、 東部の都心地域とは異なり、 染色関連業の集積と木材の集散地として発展してきた、 いわば 「染物と木材のまち」 である。 長い間この地域では、 木造長屋が立ち並ぶ住工混在のコミュニティが保たれてきたが、 1970年代以降のインナーシティ特有の産業衰退と人口減少・高齢化の過程で、 地域の維持・再生をどう図っていくかという課題に直面している。 また最近では、 地下鉄東西線の開通や二条駅周辺地域の再開発、 市内への大型小売店の進出ラッシュなどの余波を受ける中で、 地域全体が新たな転換期を迎えるに至っている。
 私たち地域経済研究会のメンバー6人は、 今回、 くらしと協同の研究所と京都生協から委託を受け、 二条駅前に出店を計画している 「京都生協二条駅店 (仮称)」 の立地に関連して、 この中京区西部地域の実態調査を行なった。 具体的には、 ①地域特性・住民特性の把握、 ②公共・民間双方の開発動向の追跡、③商業構造と購買行動の分析、 という3つの視点から、 バブル期以降の地域内部における構造変化や再開発の影響について多角的に探ることを試みた。 以下では、 調査から見えてきた地域の現状と今後の見通しについて簡単に紹介し、 あわせて地域再生という観点から生協の役割について考えてみることにしたい。

「まち」 変貌の実態:調査結果の概要
 まず、 地域特性についてみてみると、 中京区西部地域の人口がこの10年間で8.6%減と、 京都市全体 (1.0%減) と比べて大幅に減少している。 また65歳以上層の占める割合は、 16%から19%へと、 市全体 (11%から15%へ) よりも高齢化が進展している様子が改めて確認された。
 それとともに、 注目すべきは、 製造業や卸小売業・飲食店を中心に、 事業所数がこの10年間でマイナス19%と、 市全体 (8%減) と比べて著しく減少している点である。 特に、 自営業者で20%、 家族従業者で約30%もの減少を記録しており、 従来地域を支えてきた染色関連業や木材関連業、 小売業などの自営業が後退し、 就業機会が大きく縮小していることをうかがわせる結果となった。
 第2に、 地域の変化をもたらしている開発動向に関しては、 駅前再開発の核施設である 「二条文化施設」 が、 事業主体である松竹の撤退で白紙に戻るなど、 順調に進んでいるとはいえない状況が見出された。 もっとも、 JR二条駅利用客数が10年間で2.7倍に伸びていることが示すように、 宅地開発の進む亀岡盆地と市内都心部とを結ぶターミナルとしての二条駅およびその周辺地域は、潜在的には発展が見込める可能性を有していると予測できる。
 他方で、 視点を民間の開発動向に移すと、 高層建築物の立地は大通り沿いに限られており、 表通りから一歩入ると昔ながらの木造長屋の家並が残っているというのが、 現時点の状況である。 ただし、 工場や倉庫の跡地では、 駐車場やマンション建設が一部展開されていることから、 こうした動きが住民構成においても物的景観の上でも今後大きな影響をもたらすという可能性も、 留意しておく必要があろう。
 最後に、 商業構造についてであるが、 ここでも急激な変動が生じていることが明らかになった。 最大の要因は、 大型店やコンビニエンス・ストアの立地展開である。 特に1990年代以降の流通規制緩和を背景に、 大型店の出店が相次いだ結果、 売場面積シェアでは今や4割を超えるに至ったことが判明した。
 その影で苦境に立たされているのが、 地域の零細商店であり、 過去5年間で商店数が16%、 販売額では実に28%もの減少を招き、 高齢者を中心に買い物の利便性の低下をもたらしていた。 また、 地元製造業の流出・転廃業に伴う住民の域外流出を背景に、 地元購買力が萎縮傾向にあることも確認された。

「まち」 再生と生協に求められる役割

 以上の調査結果が示すように、 中京区西部地域では、 「染色と木材のまち」 という姿が、 バブル期以降大きく変貌し、 地域の空洞化という構図が浮き彫りになったといえる。 したがって、 地域再生の方向性としては、 特に商業活動における販売力低下の阻止と、 地域購買力の域内再創出が重要な課題だと考えられる。 そのためには、 単に産業活動だけでなく、 高齢者の医療・福祉問題や子供の教育問題も含めた、 「まち」 再生への総合的な取り組みが鍵となろう。
 その意味で、 生協や地元商店街、 医療関係者などの間で、 先頃 「中京西部のまちづくりを考える懇談会」 が発足したのが注目される。 こうした伝統産業や商店街、 福祉・医療、 教育部門とのネットワーク形成を進めながら、 「まち」 再生と住民生活を支える中軸を担うことが、 生協に求められた重要な役割といえるのではないだろうか。

いわさ かずゆき
高知大学人文学部講師



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