1999年6月号
人モノ地域1
第2回ICAアジア太平洋地域キャンパスコープ青年セミナーに参加して
アジア各国の青年と協同組合
龍谷大学大学院修士課程 中島 達弥
はじめに
4月15日から18日にかけて、 フィリピンのケソン市にあるフィリピン大学INNOTECH研修センターにおいて、
ICAアジア太平洋地域キャンパスコープ青年セミナー
が開催された。 フィリピン、 インドネシア、
タイ、 シンガポール、 カナダ、 日本の6カ国から150名が参加していた。
セミナーのテーマは"Future Leaders
Leading Now"で、 アジア太平洋地域のキャンパス生協から学生および青年リーダーが集まり、
現在の経済危機やその国における青年と協同組合の関係を交流し、
青年と協同組合全般の発展を進めるアクションプランをつくり、
アジア地域全体の青年開発プランを作成することを目的にしている。
国を越えて問われる 「生協のアイデンティティ」
日本の青年の大学生協への関わりと、 他の国のそれとはだいぶ趣を異にしている。
タイの学生は、 自分たち青年の課題を 「いかにして商品を安く安定的に仕入れるか。
生協の連合会をいかにして強めるかである」
と話していた。 それぞれの国の社会状況や協同組合の状況によって、
青年の持つ課題意識はずいぶん変わってくるものである。
分散会では、 生協は単なる経済組織ではなく、
社会的な目標を持つ組織であるが、 ややもすると経済組織としての側面が先だって、
「何のための、 誰のための協同かを見失いがちになる」
ことが議論された。 多くの青年参加者が、 生協はビジネス組織との違いを明確にしていく必要があると感想を出していたし、
フィリピンの参加者からは、 「何のために協同するのか」
という協同の価値を広く議論していく大切さを発言していた。
そのためには、 まず青年が自覚をもって協同の価値を明らかにし、
弱点を強みに変革していく必要があるなど、
積極的な意見交換が行われた。
国を越えて、 協同組合の持つアイデンティティや組合員が主体の生協運営のあり方を問う流れは共通しているようである。
交流の持つ意味
交流の場としてのセミナーの役割は非常に大きく、
それぞれ独自の歴史的背景と社会環境の中で、
どのように協同組合は発展できるかを、 個々人の持つ協同体験や協同組合観を出し合いながら考えていくことを通じて、
当事者の協同組合への認識を見つめ直す機会になる。
日本の開発プラン
このセミナーを通して、 参加国それぞれは協同組合と青年の開発プランを策定した。
日本においては、 個々の協同組合 (漁協、 農協、
生協など) の枠を越えて、 そこに関わる青年同志の交流の場を作り、
青年から見た協同組合の課題や展望について議論しあうこと、
新しく生まれつつある新たな形態の協同組合やNPO・NGOにも参加を呼びかけてみてはどうか、
アジア地域の生協と日本の生協でインターンシップを進め、
人材交流を促進する、 などがその中身である。
大学生協の役割と可能性
今や日本は、 少子化の影響で大学の過剰供給が生じる時代である。
大衆化された日本の大学は、 社会に巣立つ前のモラトリアムだと言われる。
そのモラトリアム期の大学にある生協は人と人との関わりを通じて学生自身が人間的に成長する場であると思う。
逆に、 日本や韓国ほど、 他のアジア諸国の大学は大衆化されていない。
大学に自分の子供を進学させる家庭は、 かなり経済的に豊かな、
いわゆるエリート層なのである。
つまり、 少数エリートである彼らがキャンパスコープに関わることは、
日本とはまた異なった可能性を持っているのではないだろうか。
大学生協-未来の協同の担い手の学びと成長の場-
未来は、 現在の青年によって創造される。
21世紀の協同組合を展望したとき、 協同組合を企業とは違った非営利協同の経済主体として、
それぞれの国・地域において強め、 高めるにはどうすればよいか。
キャンパスコープは、 いわば大学社会の中の協同組織であり、
実際の社会のミニマムとして、 メンバーシップと協同活動を通して民主主義を経験する意味を持っている。
そのことに、 青年と大学生協専従役職員が価値を見いだし、
日常の活動をすすめていけるかどうか。
きわめて実践的な課題だが、 大学生協には、
その役割があると考える。