1999年6月号
書評2

協同組合の基本フォームを改めて確認

宮本 茂樹 京都生協職員



 私は現在 「コープしもがも」 で農産担当をしております。 労働実態としては、 朝8時前後に出勤して午後9時前後に退勤するという状況ですが、 私より働いている正規職員がまだいるのがこの店の実態です。 現場は 「矛盾のるつぼ」 という表現がぴったりというなかで、 この本を読ませていただきました。
 私が読み終えての感想は、 この本に現在の不調から脱出する糸口があると確信いたしました。 自分がバッティングで悩んでいる野球の選手とするならば、 どの位置にどの比重で足場 (スタンス) を構え、 腰を備え、 どのポイントで球を見定めて打つべきか?バットの振り出し位置から角度までを詳しく分かり易く分析されており、 スランプ脱出の必読書といえます。 今までに出版された同種の本は、 野球でいうならば 「カーブの打ち方」 「フォークの打ち方」 といった類が多かったと思います。 結果、 いろいろ目の前に現れた球筋に打ち方を合わせているうちに基本的なフォームを見失ってしまったと言えます。
 この本は全体を通してのひとつの大きなテーマ 「非営利・協同組織のコーポレート・ガバンナンス」 を柱に、 実務に携わる私たちにとっての基本的なテーマ (経営戦略・民主的管理・人材開発と労使関係・資本調達と資本形成・社会的報告・マーケティング・市民的専門性・法制度等) を網羅しています。 読者各々の担当分野での問題解決におおいに役立つと思われます。
私個人として学んだ点は、 営利企業が資本の結合体として、 資本を主体とし人間を資本に従属させているのにたいして、 非営利・協同組織は人間の結合体として、 人間を主体とし資本を人間に従属させたものであり、 営利企業の対立物である、 ということです。 そして協同を通じ人間発達と社会改革を意識的にめざすという意味では、 非営利・協同組織は営利企業に対してオルタナティヴ性、 経済民主性をもつという点を、 自分の中で再整理することができました。
そして協同組合の目的は、 協同組合原則に明記されているように、 所有者である組合員の 「共通の経済的、 社会的、 文化的ニーズ」 の充足にあります。 その点では、 営利企業が基本的に利潤極大化を目的に行動するのとは大きく異なり、 ここに一般の企業と区別される協同組合の特性があるはずです。 しかしながら実態として 「同質化の競争」 に終始している現在、 再度ICAの協同組合原則を読み直すとともに、 みんなで足の位置 (基本的スタンス) から確かめていくような自発的な取り組みが重要だと感じました。 我々がめざしている 「差異化」 の本質も、 そこに眠っているような気がします。
 最後に、 「野村監督」 は嫌いですが、 私の所属する京都生協が今年の阪神タイガース並みの快進撃をする 「種」 にこの本がなりうると確信し、 みんなで読んで、 もっとみんなで 「生協について」 話し合いましょう。

非営利・協同組織の経営
角瀬保雄・川口清史編著
ミネルヴァ書房
1999年3月 3000円


前のページに戻る