1999年6月号
書評1


デンマーク・ノルウェーの体系的紹介

大塚 陽子 立命館大学非常勤講師



   世界の社会福祉6
   デンマーク・ノルウェー
   西澤秀夫、 真弓美果、 上掛利博編
   旬報社 1999年3月 8,200円

  『世界の社会福祉』 全12巻の中の1分冊として、 デンマーク・ノルウェー編が刊行された。 北欧福祉というと、 スウェーデンによって代表されてきた感があるが、 北欧諸国はそれぞれ固有の歴史と風土にねざした特徴ある文化・社会をもっており、 福祉についても、 多くの共通性を持っている一方、 具体的な制度や施策では、 デコボコがある。 日本では、 デンマークについては、 紹介が行なわれてきたが、 紹介者の関心に即したものが多く、 体系的に制度全体を俯瞰できるものは少なかった。 ノルウェーにいたっては、 ほとんど紹介すらなかったことを考えると、 本書の刊行の意義はおおきいといえる。 日本でのノルウェー研究が手薄であることを反映してか、 ノルウェーの研究機関・福祉現場からの研究者・専門職の参加があることも特徴である。
 本書はデンマーク編、 ノルウェー編に別れており、 いずれも第一部において社会福祉の現状を 「児童福祉」 「障害者福祉」 「高齢者」 「アルコール依存症」 などを領域別に紹介し、 第二部において、 それぞれの国における社会福祉の基盤を形成してきた基本理念や政治的・社会的・歴史的背景、 雇用や教育などの関連諸制度の特徴、 そして福祉の行財政をとりあげている。 第一部においては、 難民や移民、 国内少数民族への援助や開発途上国への援助プログラムなども紹介され、 両国、 とくに、 ノルウェーの福祉を支える連帯の精神が国際的にも発揮されていることがわかる。 また、 地方分権下のコミューネの活動についてのリレサン・コミューネ (ノルウェー) の事例は、 執筆者の参与観察による 「地域まるごとの福祉コミューネ」 の貴重な報告である。
 評者の関心から欲を言わせていただけば、 これらの国の福祉が対象とする 「家族」 について、 デンマーク編の 「コラム」 でしか触れられていなかったのは残念である。 同棲と婚外子、 ステップファミリーの一般化、 同性同士の結婚など、 「個人」 の生き方の変化を尊重し、 それをサポートする福祉が、 「多様化する家族」 を支えていること、 また、 福祉の前進には男女の平等が前提されてきたことも、 すっきり打ち出していただきたかった。 同時に 『北欧はパラダイスか?』 と女性たちが問いかえさざるを得ない現実があること、 その中で誰がどう頑張っているのかも紹介していただきたかったと思う。 これは、 むしろ、 評者らの課題なのかもしれないが。
 本書は全体として 「こういう場合にはこうなる」 というように、 実に具体的で、 イメージを得やすい記述が目指されていて、 「読者にやさしい」 つくりになっている。 本の厚さにめげず、 是非一読されることをお薦めしたい。



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