1998年10月号
人モノ地域1

生協再創立運動と位置づけて
     ならコープ特別養護老人ホーム建設の取り組み

ならコープはかねてより特別養護老人ホームを建設しようと、 取り組んできた。 先般、 社会福祉法人 「協同福祉会」 の認可と厚生省の 「あすなら苑」 の建設にたいする国庫補助が確定した。 いよいよ着工となる。 募金目標は、 建設資金の2億2千万円、 土地取得のための1億5千万円にたいし、 予約分もあわせて、 それぞれ2億8百万円、 1億3千5百万円に達しており、 残りはあわせて5千万円となった。
取り組みをはじめて4年、 「ほんとうにできるの」 というところから、 いくつもの壁をのりこえ、 実現が目に見えてきた。 いま来年9月オープンにむけて準備に忙しい伊藤次栄さん (社会福祉法人 「協同福祉会」 理事長) と仲宗根迪子さん (ならコープ副理事長) にお話をうかがったので紹介する。

地域社会に貢献できる生協に
これまで、 ならコープの福祉活動は 「くらしの助け合いの会」 をはじめとして、 日赤介護講習会や食事の会などをおこなってきましたが、 生協設立20周年を迎えた1994年に、 それまでならコープを育ててもらった 「奈良」 という地域に役立つ福祉活動をおこなうための福祉政策を立案することになり、 福祉政策プロジェクトがスタートしました。 そこでは、 障害者の問題、 高齢者の問題、 配食活動など、 福祉に関するさまざまな分野の意見がふきだし、 議論がかわされ、 ひとつにまとめにくい状況になりました。
そこで、 生協として何ができるのかを明確にしようということのなかで、 生協が母体をなった福祉法人により特別養護老人ホームを建設することを提案しました。 生協がなぜ特養の建設なのかというと、 現在の在宅介護は女性の大きな負担でなされていること、 重度の障害をもった一人くらしの高齢者には24時間の介護が必要なこと、 こうした課題が福祉の活動では最も困難であり、 しかも最も求められていると考えたからです。
また、 生協でこれまでおこなってきた 「くらしの助け合いの会」 活動では、 介護のために家に閉じ込められている人をささえることは、 組合員の互助的活動だけでは解決できないのではないかということも考えました。 専門的な高齢者施設をもつことで得ることができる技術や経験は、 組合員活動とは比べものにならないくらいの質・量であり、 将来必ず自分たちの役に立つと考えました。

自分たちの募金でつくろう
福祉政策プロジェクトでは、 「参加型福祉」 をめざし、 組合員からの募金で特養を建設することに決まりました。 しかし、 「50人しか入れない特養をつくったとして、 あとの17万人の組合員はどうするの」 などの意見もだされてきました。 そこで、 ならコープの組合員や職員の意識を変革するために、 「あすなら塾」 という学習会をふくめて、 数え切れないくらいの学習会をもちました。 そこでは、 在宅介護経験者や特養の職員、 研究者などをまねき、 これからの高齢社会の実態や福祉の現状などを学びました。
最初は、 生協が特養を建設することに疑問を抱いていた組合員も、 「いずれおとずれる自分自身の問題」 として福祉をとらえるようになり、 積極的に募金活動に取り組むようになりました。
1996年から約1年間、 組合員を中心に募金を集めていましたが、 5000万円程度しか集まりませんでした。 そのような状況を転換させるために理事会では、 この募金活動を業務の一環とすることを決めました。

組合員・職員がともにすすめる活動に
今年の2月から6週間、 特養建設への理解と募金を組合員に求める活動を、 共同購入の配達の際におこなうことになりました。 そのため、 職員の間で 「生協で特養建設をおこなう意味」 について議論が始まりました。 「募金とは任意性をもったものではないのか」 などの意見もでましたが、 学習や組合員との対話のなかで意識が変化し、 積極的によびかけるようになった職員もあらわれてきました。
1班あたりの平均対話時間が2~3分程度という共同購入の配達の短い時間のなかで、 ビラを入れるとか、 毎回少しずつ説明するなどの工夫をしてきました。 「ふだんはあまり声をださない組合員が、 このことになると二つ返事で募金をしてくれた」 など、 組合員の反応をみて、 自分たちの活動に自信をもつ職員が多くでてきました。
しかし、 なかなかうまく組合員に説明できない場面もありましたので、 これまで特養建設にむけて活動してきた組合員122人が、 共同購入のトラックに延べ700回以上乗って、 一緒に訴えました。 トラックのなかで会話することで、 職員は福祉活動の意味をより深く理解することができ、 同乗した組合員は職員の仕事のたいへんさを知ることができました。
こうした共同購入の際の取り組みにより、 7000万円の募金協力を得て、 今までの組合員活動の波が大きな波となったのです。 4月末の時点で1億8000万円に到達し、 建設にむけて財政的な目処を立てることができました。
ならコープはこの活動を 「生協再創立運動」 と位置づけました。 職員は、 多忙な日常業務のなかで、 商品以外の話題で組合員と話す機会が少なく、 生協運動を実感できる場面はあまりありませんでした。 この特養建設を通じて、 職員と組合員がきちんと対話し、 相互の理解と参加を得る、 こうした活動を通じて、 ならコープの事業と活動の基礎を強化することができると考えたからです。

「ありたい福祉」 をめざして
多くの市民の理解と参加を得て、 9月4日付で知事の認可を受け、 特養が建設されることになりました。 今後は特養における 「参加型福祉」 の具体化が始まります。 学習会で特養の現場の話などを聞きましたが、 福祉の現場の状況は一般にはあまり知られていません。 多くの組合員がこの施設に注目しています。 そこで、 現在の福祉の状況を明らかにし、 「ありたい福祉」 を一つずつ築いていきたいと考えています。


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