『協う』2007年2月号 特集

座 談 会  こどもたちの食と学校給食


食に対する不安と期待が交錯するなか、 「食育基本法」 が施行され、 都道府県では 「食育推進計画」 が作成されつつある。 本座談会は、 命を育み、 心を支える食と食育のあり方を考え、 学校給食や生協に期待されることについて話し合った。


(プロフィール)
大谷貴美子氏: 京都府立大学人間環境学部助教授。 一人の人の食生活をどのようにデザインするのか、 サイエンスとアートの側面から研究を行っている。
金井多恵子氏: 京都市の学校栄養士。 「より豊かな学校給食をめざす京都連絡会」 事務局長。
安田 則子氏: おおさかパルコープ組合員、 地域活動委員。 『協う』 編集委員。
望月 康平氏: 京都大学大学院博士課程。 『協う』 編集委員。
井上 英之氏: 大阪音楽大学教授。 当研究所理事、 研究委員会運営委員。

 

脱脂粉乳、 飲みましたか?
――年代によって異なる学校給食体験

【井上】まず自己紹介ですが、 学校給食は 「脱脂粉乳を飲んだかどうかで年齢がわかる」 といわれるように、 年代によって体験が違うので、 ぜひご自身の学校給食体験も含めてお願いします。
【大谷】京都府立大学で、 食が生活や人間関係に与える影響を研究し、 あるべき食のデザインをめざして、 小学校での食育の実験授業にも取り組んでいます。 私自身の学校給食の思い出では、 硬くて噛み切れない豚肉や焦げくさい脱脂粉乳が印象に残っています。 脱脂粉乳は、 温める時によくかき混ぜていないと焦げるんですね。 まだ捕鯨が盛んだったので、 鯨肉も出たし、 ビタミン不足を補うためにと肝油も配られました。 社会全体が貧しい時代でしたので、 欠席した子がいるとその子の家に給食のパンを届けましたね。 いまなら 「食品衛生上、 問題だ」 なんて言われそうですが (笑)。
【金井】京都市の学校で栄養士を約30年間続け、 学校給食の変遷を現場から見てきました。 ご想像のとおり、 私も脱脂粉乳を鼻をつまんで飲んでいた世代です (笑)。
  1960年代脱脂粉乳から牛乳に変わったことは学校給食にとって大きな前進で、 この背景には 「子どもたちに本物の牛乳を」 と求める父母と教職員の大きな運動があります。 そこで私たちもより良い給食の実現を求め、 京都で学校給食連絡会をつくり、 「より豊かな学校給食をめざす京都集会」 を26年間にわたって開いています。 みなさんもぜひご参加ください (笑)。
【安田】おおさかパルコープの組合員です。 以前は生協の理事をしていましたが、 いまは退任して、 若い組合員さんと一緒に組合員活動に取り組んでいます。 小学生の頃は鳥取県にいたので冬にはカニの身入り味噌汁もごく普通の給食メニューでしたが、 子ども心に焼きそばのほうがうれしかった記憶があります。 いま思うと、 とても豪華な給食だったんですね (笑)。
【望月】京都大学の大学院博士課程1年で、 家畜排泄物の堆肥化や食品廃棄物の有効利用など、 有機性廃棄物の循環論を研究しています。 出身は大阪府寝屋川市で、 給食は楽しい時間でした。 自校方式の給食で、 チャンポン麺や焼きそばなどメニューも豊富だったので、 2週間おきぐらいに発表されるメニュー予定表は熱心に読んでいました。
【井上】大阪音楽大学で教育学を担当しています。 私は東京都で学校給食が始まった翌年に都内の小学校に転校して、 初期の学校給食を体験しました。 当時は、 食器は生徒が自前で用意し、 卒業時には学校に寄付しました。 もちろん、 脱脂粉乳も有料の肝油も経験しました。 給食は大好きで、 特配 (おかわり) も3回、 早食いの習慣が今日まで身につきました。 特に揚げパンなどには感激したものです。

 

飢えを満たす学校給食から、
体と心を健やかに育てる学校給食へ――

【井上】学校給食の体験は年代や地域によって違うことがわかりましたが、 そもそも学校給食はどのように始まり、 どんな変遷をたどってきたのでしょうか。
【金井】明治時代に当時の山形県鶴岡町で、 飢えた子どもたちに食事を与えたのが学校給食の始まりだとされていますが、 現在のような給食の始まりは戦後です。 あの食料難の時期に、 子どもを飢餓から救うことを目的に、 ララ物資など国際的な援助を受けて、 学校給食が全国に広がりました。 子どもたちが学校に来られる条件をという教職員や父母の大きな要求運動の成果でもあったのだろうと思います。 (P7の表参照)
  その後、 食料が少しずつ行き渡ってくると、 成長期に必要な栄養で家庭では不足しがちなものを補うということで、 学校給食の食パンにリジンが添加されたりしました。 いわば、 「必要な栄養は、 添加してでも摂らせよう」 という給食です。
  現在はそれがさらに発展して、 「よりよい食事を学ぶ」 という面から学校給食の役割が求められているのではないでしょうか。 現代は、 タンパク質・脂肪・塩分などが過剰摂取される一方で、 鉄・カルシウム・食物繊維などは不足しがちですから、 当然、 それを補う給食が必要になっています。 同時に、 給食を通して食文化や食べる喜びを子どもたちに伝えることも大切で、 個食 (孤食) が食の風景として日常化しつつあるいま、 みんなで楽しく味わえる給食を通して、 子どもたちが体も心も健やかに育つように…という期待も高まっているのではないかと思います。
【井上】学校給食は、 歴史とともに、 その役割も変わってきたわけですね。
【大谷】国の食生活指針も、 時代によって変化していますね。 当初はカルシウムやビタミンといった栄養素に基づく指導が中心でしたが、 それは複雑でわかりにくいというので、 緑黄色野菜・魚介類・肉類など食品群に基づく指導に転換しました。 その後、 人の食事に近い 「一汁三菜」 などがいわれましたが、 05年に厚生労働省と農林水産省が示した 「食事バランスガイド」 では表向き料理となっていますが、 再び栄養素の要素が入ってきています。

 

医療費抑制、 食料自給率向上、 食への信頼回復
――食育の政策的背景

【井上】食育基本法のもと、 初めての 『食育白書』 も発表されましたが、 そもそも食育が政策として出てきた背景にはどんな事情があるのでしょうか。
【大谷】端的にいえば、 生活習慣病が国民の間で広がって、 国の医療費負担が増大しているから、 それをなんとか抑制したいというのが本音でしょうし、 食料自給率向上のために地産地消を推進したいというねらいもあるでしょう。 また、 O157事件や食品の偽装事件、 BSE問題などが続発して、 「食の安全・安心」 に対する国民の信頼が失われたため、 信頼を取り戻したいという思惑もあると思います。
【井上】食をめぐる問題が大きくなっているわけですね。 とりわけ子どもたちの食をめぐっては、 朝食を食べない子が増えていて、 最近いくつかの新聞がキャンペーンを張りましたし、 食育推進計画で 「朝食欠食児童をゼロにする」 「学校給食での食材として、 野菜を100%地場産にする」 という目標を立てる自治体も出ています。
【大谷】岡山県のように、 学校で乳製品のみですが朝食を提供するというところも出てきています。 そうすると数値的には欠食児童はゼロになりますが、 朝食を食べない背景に何があるのか、 それを見過ごしたまま、 単に数値だけを追求するのはナンセンスだと思います。
【金井】乳製品だけでもまたお菓子的なものも朝食としてカウントされれば、 たしかに数値目標が一人歩きしてしまいますね。 朝食が用意されない子は、 食べたくても食べることができない家庭事情を抱えているわけで、 そういう子に朝食の有無を言いすぎると、 かえって子どもを傷つけることにもなります。 ですから、 数字にとらわれるのは危険ですね。
  私たちは、 いままでも 「朝ごはんは大切だよ」 と言ってきましたし、 これからも言い続けたいと思っていますが、 朝食の中身も大事ですから、 成長期にふさわしい朝ごはんについて子どもたちと一緒に考えていきたいと思っています。 また、 発達段階に応じた働きかけが必要ですので、 高学年になれば家庭科の授業も利用しながら、 朝ごはんを自分でつくる学習にも発展させたいですね。

 

子どもの偏食から見える親子の姿
――子どもの食は大人社会や親子関係を映す

【井上】朝食を食べない子ども、 食べられない子どもにはそれなりの理由があって、 子どもの食は大人社会や親子関係を如実に反映します。 それを大谷先生のテーマである 「食のデザイン」 という観点で考えると、 何が見えてくるでしょうか。
【大谷】基本的に、 誰々ちゃんのためにデザインされた食事というのは家庭にしかありません。 食事時間は、 単に料理の味を味わっているのではなく、 そこで繰り広げられる家族の人間関係を味わっているのです。 また、 そういった料理には親の愛情のメッセージが伴います。 子どもが 「自分は親に愛されている、 かけがいのない存在なのだ」 と、 理解する場でもあるのです。 適切な食事が提供される、 食べることができることは、 最も大切な基本的人権であり、 人間の尊厳にもかかわる部分です。 従って食の質はすなわち生活の質なのです。 家庭で提供される食は家族関係や子どもの心の発達に大きく影響するし、 高齢者の食の問題も含めると、 そうした家庭の食が提供できるために周囲がどれだけサポートできるかも問われているのではないかと思っています。
【安田】食と親子関係という点で気になるのは、 子どもの偏食を親があまり直そうとしないことです。 私は生協で若いお母さんたちと接する機会が多いのですが、 2歳の子どもを持つお母さんが 「うちの子は野菜が嫌いで、 お肉しか食べない」 と言うのを聞いて、 私のほうが 「2歳の子に肉しか食べさせていないのか」 と驚きました。 食への関心が高いといわれる生協組合員ですらこんな状況なのかと思うと、 暗澹とします。
【大谷】昔の親は、 子どもが好き嫌いすると叱ったものですが、 いまは 「嫌やったら無理に食べんでもいいよ。 ラーメンでも食べとき」 とか 「スパゲティつくってあげよか」 で済ませてしまいます。 食べ物があふれる便利な生活のなかで、 かえって親の愛情や思いを伝える場が減っている気がします。
【金井】親のほうが、 子を叱ることにストレスを感じる場合もありますね。 親は、 自分が消耗したくないから、 子どもと対立することを避けてしまうわけです。
【大谷】そのツケが子どもの思春期以降に出てきます。 子にとって親は 「お金さえ運んでくれたら、 いてもいなくてもいい人」 になってしまう。 つまり、 家族の風景化です。
【安田】その意味では、 食育は家庭や親に任せておいて大丈夫という時代ではありませんね。 学校も地域も、 そして生協も、 いろいろな体験と学びの場を提供して、 家庭の食の力を伸ばすサポートをする必要があると思います。

 

学校給食で味わう温かさ
―― 「大事にされている」 という実感

【井上】学校給食は、 何度も行政改革の対象になったこともありましたが、 素材を大切にしたメニューなどを通して、 偏食や欠食という問題を抱える子どもたちに対して大きな役割を果たし、 したたかに発展してきました。 そうした到達点はしっかり見ておく必要があると思います。
【金井】そうですね。 京都市でも米飯給食を導入したり、 調理済み加工食品の使用をやめて、 意識的に素材から手づくりするように努力してきたので、 安全でおいしい給食という点では充実した内容になっていると思います。 保護者対象の試食会でも 「自分の子どもの頃に比べてすごくおいしい」 という反応がほとんどです。
  それに学校給食は集団で食べるので、 他の子が意欲的に食べる姿に刺激されたり、 子ども同士で 「もうちょっと、 がんばれ」 と励ましたり、 学んだりして、 子どもたちの食べる力を育てることができます。
【大谷】同じ小学生でも、 保育園から来た子と幼稚園から来た子では食経験に違いがあって、 保育園から来た子のほうが給食の経験を通して食の範囲が広いし、 概して好き嫌いも少ないようですね。
【金井】いまは家庭で食事をつくる親の姿が見えにくくなっているので、 私は学校では意識的に給食がつくられる様子を子どもたちに知らせたいと思っています。 たとえば、 給食時間の前に子どもたちに手紙を書いて、 担任の先生に読んでもらうと、 子どもたちも味わった感想を書いてくれます。 人気メニューだった日は、 わざわざ給食室に来て、 大きな声で 「今日はおいしかったよ! またつくってね」 と言ってくれるんですね (笑)。 それは調理員さんの励みにもなりますし、 「明日もおいしい給食をつくろう」 という気持ちにつながります。
【井上】子どもたちは、 学校の先生を見ても 「自分たちのために働いてくれている」 とは思いませんが、 給食の調理員さんに対しては 「自分たちのためにつくってくれている」 という実感があるんでしょうね (笑)。
【金井】調理員さんの作業の様子をビデオに撮って、 子どもたちに見せると、 たとえばキャベツを刻むのもとても速いので、 子どもはそれだけで調理員さんを尊敬するようになるんですね。 それに、 寒い冬に水で野菜を洗ったり春巻きをひとつずつ丁寧に包む場面を見ると、 「ぼくらは大事にされてるんやなあ」 と実感できるようです。 家庭で手づくりの食事を味わう機会が減っている時代だからこそ、 特に意識して 「見せる」、 「伝える」 ことが大事だと思っています。
【大谷】保育園の給食のメリットも、 その場でつくっているところにあります。 保育室や運動場にまで匂いが漂ってきて、 子どもたちは 「今日のごはんは何かな」 と楽しみにしながら遊ぶことができます。
【金井】その意味では、 センター方式は給食をつくる姿が見えないので問題があります。 子どもたちときちんとコミュニケーションできる調理員さんを確保したり、 栄養士・調理員・教職員の連携という点では、 民間への業務委託も望ましくありませんね。
【大谷】せっかく京都市は単独・自校方式で、 各校に給食室があるのですから、 ぜひ栄養士を全校に配置してほしいですね。
【金井】栄養士は、 まだ3分の1の学校にしか配置されていません。 「食育は大事」 「給食は教育」 と言うのなら、 その前提として、 必ず各校に栄養士を配置して、 自校で給食をつくるシステムにしてほしいと思います。

 

お寿司の時も、 ドリンクは牛乳!
――学校給食の功罪

【大谷】たしかに学校給食の役割は大きいのですが、 米飯給食でさえ飲み物は牛乳だけというのはどうなのでしょうか。 私などは試食していてとても違和感があるのですが。
【望月】ぼくは、 高校生ぐらいまで、 お寿司に合うのも牛乳、 夕食の飲み物も牛乳という感じで、 何を食べる時も牛乳を一緒に飲んでいました。 やっぱり給食の影響でしょうね。 いまは牛乳が酒に変わってしまいましたが (笑)。
【大谷】ある小学校では、 お茶を沸かすタンクや配管の衛生管理が難しいということをおっしゃっていましたが、 現在の学校給食の実状をみていますとなんだか 「行き過ぎた安全管理」 という気がしないでもありません。 和食に牛乳という組み合わせに違和感がないというのは、 日本型食生活への味覚を育てるうえでも問題ではないかと思います。
【井上】学校給食には、 大きなプラスの側面とともに、 マイナスの面もあって、 やり方しだいでは子どもたちの味覚を変え、 食文化の伝承を難しくさせることにもなりかねません。 学校給食の影響が大きいだけに、 そこは注意が必要ですね。

 

3歳児が魚の三枚おろしに挑戦
――福井県小浜市の実践から

【井上】いま各地で食育が動き出していますが、 具体的にどんな実践が行われているのでしょうか。
【大谷】福井県小浜市は幼児を対象に 「キッズ・キッチン」 を開いておられ、 3歳児にも魚の三枚おろしを教えておられます。 親は見ているだけで、 手出しは一切無用。 食育サポーターの力を借りて教えておられるようです。 地域の人たちの力を上手に活かしている例ですね。 子どもの様子に刺激を受けた親もスキルアップできるように、 休日には 「キッズ・キッチン」 をバージョンアップした教室も実施しておられます。
【望月】包丁が使えるようになると、 料理してみようかという気になりますね。 ぼくは大学に入るまで料理の経験が皆無で、 それが自分でも嫌だったので、 好物のお好み焼き屋さんでアルバイトしました。 おかげでキャベツの千切りだけは異常に速くなって、 料理の自信がつきました (笑)。
【安田】生協では、 組合員活動の一環として大人の男性の参加を意識した料理教室を開いていますが、 ある時、 小学生の兄弟を連れたお母さんが参加されたんです。 班に分かれて作業するので、 お母さんは兄弟とは別のグループに入ってもらい、 兄弟は他の大人と一緒にクッキングしました。 メニューはサバの味噌煮です。 二人とも積極的に料理して、 試食も 「おいしい」 と言いながら食べていましたが、 実は弟さんのほうは家ではサバなんて食べたことがなかったらしく、 お母さんはびっくりしていました。
  他人の大人と一緒に料理して、 食べるというのは、 家庭では体験できないことですし、 偏食を克服する意味でも、 心の発達という意味でも、 子どもにとって次のステップにつながるのではないかと思っています。
【金井】私の学校では、 菜園でさつまいも、 かぼちゃ、 大根、 田んぼでは、 もち米などを栽培し、 子どもたちは田植えや稲刈りにも参加します。 1月には収穫したもち米で餅つきもありますし、 学年に応じてとれた野菜を使い、 いろいろな料理を作っています。 一種の体験学習ですが、 食べる楽しみがあるので、 子どもたちは生きいきと取り組みます。
【大谷】育てる楽しみ、 食べる楽しみを味わわせるのは大切ですね。 私も、 同じ食べさせるのならもっと楽しくと思っています。 たとえば大根なら、 大根炊きで終わらずに、 大根のフルコースに挑戦したり、 保護者も巻き込んで、 メニュー提案に参加してもらったり。 そうすると、 もっと楽しく、 もっとおもしろい食育になるのではないかと思います。
  それと、 食育というと、 とかく 「農業体験をさせたらいい」 となりがちで、 子どもたちは田植えや稲刈りといった 「点」 の作業に参加して終わりという学校も少なくありません。 でも、 私は、 草引きや水やりなど日常のしんどい世話を子どもたちに体験させてあげたいと思います。 それが 「命を育てる」 ということですから。

 

いまがチャンス!
お互いの連携で、 よりよい食育を

【井上】最後に、 家庭の食の力を育て、 子どもの生きる力を引き出す食育のために、 学校給食は何ができるのか、 何をすべきなのか、 あるいは生協が取り組むべき食育についてはいかがでしょうか。
【大谷】子どもたちも、 おいしいものはわかります。 京料理店で料理のプロセスを見せてもらった後に、 その料理をいただくと、 「ぼくの人生のなかでこんなおいしいかぼちゃは初めてや」 なんて感想をいう子どもがでてきます。 嫌いな子が多いナスも、 ほとんど全員が 「完食」 します。 ですから、 素材から手づくりしたり、 給食をつくる過程を見せたり、 子ども同士の刺激や学び合いを促したりする取り組みは、 まさに学校給食の強みだろうと思います。
【安田】子育て世代の親は、 知識として栄養のことを知っていても、 家庭の食が親子の信頼関係の醸成に大きな役割を果たすという認識があまりなかったり、 親自身も体験として希薄なのかもしれません。 だとすれば、 生協においても家庭の食をサポートする活動が大きな意味を持っていると思います。
【金井】先ほどもお話ししたとおり、 子どもの苦手な食材をおいしく食べられるように工夫したり、 食べ方を教えたりといった努力をあまりしないという親が増えていますし、 なかには食事そのものを作らない親もいます。 そういう状況のもとでの学校や学校給食における食育は、 子どもたちの心身を健やかに育てるとともに、 家庭でも食が大事にされる取り組みも考える必要があるだろうと思っています。
【大谷】食育といえば地産地消や地域の生産者との連携がいわれますが、 学校給食は食材の購入ルートがきっちり決められているので難しいですね。 例えば、 京都の西賀茂地域の小学校では、 地元で 「賀茂なす」 がとれるのに、 京都市の給食で使用する 「賀茂なす」 の全量を供給できないという理由で、 地元産が使えないのです。
【金井】京都市の統一献立・一括購入方式では限界がありますね。 周りを田畑に囲まれた学校と、 中京区のど真ん中の学校では地域性が違うので、 まずは地元産を供給できる学校から地産地消を始めたらいいし、 各学校の自主性が尊重されるべきだと思います。 そうすることで、 子どもたちは自分たちの地域を知り、 すばらしさを発見し、 守っていくことにつながると思います。
【安田】 「食の安全・安心」 にとっても地産地消は意味があると思いますし、 生協は生産者との連携や産直に取り組み続けてきました。 産地交流に参加して、 農業や食への理解を深める親子も増えていますので、 こうした地道な活動を今後もしっかり続けていきたいし、 食品を中心に扱う生協として、 食のあり方を提案できる生協でなければとも思っています。
【大谷】先ほど、 国が食育を言い出した本音についてお話ししましたが、 いずれにせよ、 いまは食育に光が当たっているのですから、 私たちとしてはそれを上手に利用しながら、 お互いに連携して、 よりよい 「食育」 をめざしたいですね。
【井上】京都市では中学校給食が 「親の愛情弁当論」 で実現していなかったので、 中学校給食の実現をめざす運動をしました。 現在は京都市が学校給食再編の中心になっている様ですね。
【金井】残念ながら完全給食ではなく、 選択制になってしまいました。 また養護学校へは全国初のクックチル方式 (加熱調理した食品を急速冷却し、 チルド状態で保存しておいて、 給食の時間にあわせて再加熱し提供すること) の導入、 2つの大学付属小学校の開校によって 「ホテル給食」 という状況も生まれています。

【井上】大変貴重なお話をしていただき、 ありがとうございました。 今日は食育基本法自体については時間の関係でやや限定しなければならず、 主に学校給食との関係、 地域や家庭における食育についての論議をおこないました。
  地域における生協の発展は牛乳をはじめとした安全・安心な食べ物の追求であり、 学校給食への牛乳の導入もその成果でしょう。 そして組合員のPTAや学校への関与の入口が給食委員会等の活動であったことは重要でしょう。
  ですが残念なことに、 学校給食における行政改革の受難期に生協は腰が引けたといえます。 食育基本法という追い風の中で、 今後生協は学校・地域・家庭での食育をどの様に追求出来るのかが、 問われているように思います。

 

『食育白書』 とは
  「食育基本法」 (2005年7月施行) の15条により、 毎年国会に提出することとされている年次報告 (法定白書) で、 今回初めて提出されたもの。 今回の 『食育白書』 は、 「食育推進にいたる背景と取組の本格化」 と 「食育推進施策の実施状況」 の2部構成。 書店で販売、 内閣府のホームページに掲載。

 

「学校給食の変遷 (初期)」
<(財)消費生活研究所編集 『学校給食ハンドブック』 より、 抜粋し一部編集>
1889年 山形県鶴岡町の私立小学校で仏教各宗派連合により、 貧困救済のため学校給食を実施。
1947年 ララ (LARA、 アジア救済委員会) 物資の供給を受け、 全国都市の小学生児童 (約20%、 300万人) に学校給食を開始。 同年、 アメリカから給食用脱脂粉乳約7千㌧輸入。
1951年 国際公教育会議の勧告 (学校給食に関する国際的に合意された唯一の文章) が出される。
1952年 全国すべての小学校で完全給食 (主食・ミルク・おかずのある給食。 2004年度で全小学校数の約96%実施)。
1954年 MSA (日米相互援助) 協定提携によりアメリカより余剰小麦と粉乳の輸入。 「学校給食法」 公布。
<以下、 略>