『協う』2007年2月号 生協・協同組合研究の動向


地域社会の変化に協同組合はどう対応するか
日本協同組合学会・大会シンポジウムから

北川 太一
福井県立大学
当研究所研究委員

1. 大会シンポジウムの概要
  第26回日本協同組合学会が、 2006年9月30日~10月1日にかけて新潟大学で開催された。 大会シンポジウムのテーマは、 「地域社会の変化と協同組合の組織問題」 であり、 座長、 報告者ならびに各テーマは次のとおりである。
   座  長:青柳 斉 (新潟大学)、 岡安喜三郎 (協同総研)
   第1報告:栗本 昭 (生協総研) 「日本の協同組合組織の制度的特質と展望」
   第2報告:山内明子 (日本生協連) 「生協における組合員活動と組合員組織の課題、 今後の改革方向」
   第3報告:石田正昭 (三重大学) 「組合員構成の多様化と農協の運営体制の再編方向」
   第4報告:増田佳昭 (滋賀県立大学 *本研究所研究委員)
            「組合員の事業利用構造と協同組織性の展望―最近の農協批判との関連で―」
  また、 コメンテーターとして、 本研究所研究委員の杉本貴志氏 (関西大学) と北川が議論に参加した。

 

2. シンポジウムのねらいと報告内容
  座長 (青柳) の解題によれば、 本シンポジウムの目的は、 少子・高齢化が進行し、 組合員の絶対的減少が起こりつつある状況の下で、 協同組合組織への 「求心力」 をいかに再構築していくのか、 そのためにはどのようにして組合員の多様なニーズを意思反映システムとして把握し、 協同組合の事業活動として応えていけばよいのか、 こうした課題の解決に向けての方策を明らかにすることである。 各報告の要旨は、 次のとおりである。
1) 栗本報告
   ~岐路に立つ 「日本型」 協同組合
  日本の協同組合法制度が 「業種別協同組合法」 であり、 組織法のなかに事業法が取り込まれているところに特徴があるという認識のもとで、 「日本型農協」 と 「日本型生協」 の制度的特質とその形成要因、 今後の展望について考察された。 その結果、 農協については、 「日本型」 の発展を支えた諸条件は失われており欧米型の法制度を視野に入れる必要があること、 生協については、 組織・事業を支えている女性有業率の高まり、 ライフスタイルの変化や個人主義化の傾向が、 班組織を中心とした組合員組織や組合員活動のあり方の変革を迫っていることが指摘された。
2) 山内報告
   ~社会に開かれた生協組織であるために
  生協の組合員活動の意味を、 ①成長・学びの機会を提供し協同の規範を生み出す、 ②地域活動の担い手を育む、 ③消費者を代表する市民リーダーを育む、 ④NPO・コミュニティビジネスの担い手を育てると整理したうえで、 組合員活動とそれを実践する組合員組織の改革方向について検討された。 そして、 「くらしと地域を語り、 つながる活動への参加拡大」 に向けて、 組合員が自らの関心に応じて仲間を増やし活動できる条件作りのための支援をすすめ、 同時に高齢化に対応した在宅で可能な活動提案や 「団塊世代」 を対象とした男性の参加促進など、 生協を社会に開かれた組織としていくことの重要性が強調された。
3) 石田報告
   ~求められる 「ユーザーシップ制」 への転換
  総合農協を考察の対象として、 それが組合員農家の暮らしと営農を守るためのセーフティネットとしての使命・役割を持つという認識に立って、 組織・事業基盤の再構築の課題が論じられた。 そして、 これからの総合農協は、 食を軸とした 「豊かなくらし」 「安全な暮らし」 を願う人たちが広範囲に (正准組合員の区別なく) 結集する組織への転換、 その具体的形態として、 組織基盤が固定的になる 「メンバーシップ制」 (出資が利用を包含するヨーロッパ型の協同組合) から、 事業利用者が適宜変化する 「ユーザーシップ制」 (利用が出資を包含するアメリカ型の協同組合) への転換、 そのための組合員制度の改変 (複数議決権制度の導入や総会制の復帰など) が必要であると結論づけられた。
4) 増田報告
   ~多様性を活かした総合農協の展開を
  最近顕著な 「農協批判」 (総合農協による農業構造改革の阻害、 信用・共済事業の他事業からの分離、 独占禁止法への適用除外などの主張) とも関連づけて、 協同組織性のあり方が論じられた。 特に、 総合農協における組合員の利用構造が零細兼業農家向けにのみ供給されているのではなく、 「多様な組合員のニーズに応じた多様な事業」 の上に成り立っていることを示し、 農協批判者が主張する 「組合員がその事業利用を通じてメリットを受ける組織」 という協同組合観への反論がなされた。 そして、 これからの総合農協のあり方として、 事業と利用者を限定するのではなく、 むしろ多様性を活かした 「豊かな農村地域社会づくりへの貢献を期待する」 協同組合としての方向が展望された。

 

3. 「地域社会と協同組合」、 関係再構築の方向は?
  このように各報告の内容は、 これからの協同組合を展望するうえで重要な論点を多数含むものであり示唆的であった。 さらなる研究の深化が求められよう。
(1) 地域社会をめぐる状況をどう認識するか
  しかしながら、 シンポジウム全体を通してみたとき、 特に次の点で不満が残った。 それは、 主題である 「地域社会と協同組合」 との関係再構築の方向性が必ずしも明らかにされなかったことである。 このことを論じるためには、 何よりもまず現段階の日本の地域社会が置かれている状況をどう認識するかについて触れる必要がある。 一連の地域をめぐる政策的な基調をどのように捉えるのか、 あるいは 「少子・高齢化」 「組合員の多様化」 という現象が地域社会にどのようなインパクトを与えているか、 といった点である。
  最近の地域社会をめぐる状況として、 「地域にできることは地域に」 という流れのなかで行政がこれまで担ってきた各種サービスの移譲が進みつつある。 と同時に、 農業政策において典型的なように、 国からトップダウンに近い形で画一的な要件が設定され政策の対象が特定化されつつある。 また、 市町村行政合併の進展は、 地域の声が反映されなくなる、 小地域での多彩な取り組みが見えにくくなるという事態を生み出している。 さらには、 マスコミも含めた 「官から民へ」 の大合唱の中で、 協同組合の存在そのものが見えなくなる傾向にあり、 協同組合の否定・解体論も顕著である。
  しかしその一方で、 「危機感」 をバネにした地域住民による 「主体的」 「内発的」 な取り組みがみられつつあり、 こうした地域主体の形成と既存の協同組合とがどのような関係を構築していくのかが問われている。
(2) 求められる 「横糸」 を通すしくみ
  「非営利・非公益」 の団体である協同組合が、 半ば公益的な性格を有する地域社会に関わる諸活動に取り組みながら、 その組織・事業基盤を組み立てていくことが必要になっている。 換言すれば、 協同組合の内外を問わずさまざまな形で 「縦割り」 的な傾向が強まることに直面しながら、 その一方で地域や組合員をキーワードにした 「横糸」 を通すしくみを構築していくこと、 このことを通じて、 当該の協同組合の組織・事業基盤を拡大していくことが厳しく求められている。 そして、 この点についての地域性も踏まえた実証的な検討、 協同組合の組織論と事業論をつなぐ活動論の構築、 組合員や職員による協同組合教育 (人材形成) のあり方が明らかにされなければならない。
  レイドローによる 「協同組合地域社会の建設」 という問題提起から30年近く (前出の杉本氏の言葉を借りれば、 オウエンが構想した 「協同の村」 の建設構想から200年近くと言うべきかもしれない)、 地域社会と協同組合のあり方をめぐって議論すべき点はまだまだ多い。 このことを改めて実感した学会のシンポジウムであった。
  


プロフィール
北川 太一 (きたがわ たいち)
福井県立大学大学院 経済・経営学研究科・助教授 (本研究所研究委員)。 兵庫県生まれ、 鳥取大学、 京都府立大学の勤務を経て2005年4月より現職。 専門分野:農業経済学、 農村地域経営論、 協同組合論。