『協う』2007年2月号 ブックレビュー1

 NHK放送文化研究所世論調査部 編
崩食と放食
-NHK日本人の食生活調査から-

NHK出版、 2006年12月、 740円+税

江藤 淳一
エフコープ生活協同組合
北部区域本部本部長

 2005年7月に 「食育基本法」 が施行され、 私たちの身の周りでも食育という言葉をよく耳にするようになりました。 少子高齢化に伴う世帯当たり人数の低下、 共働き世帯の増加など、 社会環境やライフスタイルが大きく変化したことによって食卓を囲む家庭生活も様変わりしていると感じます。 また 「朝食をとらない人が増えている」 「包丁とまな板を使わない家庭が増えている」 「塾通いの子どもがコンビニで夕食を済ませている」 「食事とキレる若者の増加に因果関係がある」 など、 マスメディアの取り上げ方も手伝い、 多くの人が食が乱れていると感覚的にとらえているのではないでしょうか。
  このようなイメージが先行しているなか、 本書では、 2006年3月にNHK放送文化研究所が実施した 「食生活に関する世論調査 (16歳以上の男女3,600人を対象)」 の結果を中心に、 さまざまな角度から分析が行われています。 この調査は、 日本人全体の傾向を把握できるような方法を用いているので、 客観的なデータとして説得力があります。 また、 調査による事実に基づき、 属性やライフスタイル別に現在の食生活や食に対する価値観の変化を客観的に分析しているので、 意外な気づきや発見もあります。
  例えば、 この調査によると、 ある日の朝 「朝食をとらなかった」 と答えた人は全体の9%しかいませんから、 残りの91%の人は 「朝食をとった」 ということになります。 これは 「朝食をとらない人が増えている」 というイメージからすると意外な事実です。 一方で、 20代の男性は27%と、 4人に1人が朝食をとっていないという事実には納得させられます。 朝食の内容では、 近畿地方だけがごはん食よりもパン食の比率が突出しているという地域特性があることなど、 イメージではなく客観的事実でつかむ大切さも感じさせられます。 また、 本書の章題は、 第Ⅰ章 「豊食のなかの崩食」、 第Ⅱ章 「飽食のなかの放食」、 第Ⅲ章 「趣食と守食」、 第Ⅳ章 「崩食と放食の連鎖」、 第Ⅴ章 「共食と孤食」 というように造語がうまく使われ、 アンケートの分析内容とともに興味深く読み進むことができます。
  私の住む福岡県をみても、 世帯を構成する人数は1人が最も多く全体の約30%を占め、 1~3人世帯までで75%を超えています。 いわゆる一昔前までの家族4人で食卓を囲む風景は、 今や少数派といえます。 ましてや二世代、 三世代間での食の知恵の伝承は、 少なくとも日常の台所や食卓の場面では皆無に等しいと容易に想像がつくところです。 また、 福岡では多くの地域で人口の増減にかかわらず世帯数が増え続け、 この現象は更にスピードを増してきています。
  そんな激しい時代の変化のなかで、 私たちは生協の役割を改めて考えさせられます。 時代とともに変わっていく暮らしをしっかりと見つめ、 日々の暮らしの中から大切にしたいものを伝えあったりつなぎあったりすることで、 一人ひとりが心豊かな暮らしを実感できる場面を増やしていきたいものです。 世代間や人と人とのつながりが分断されていくなかで、 食を通してどんな情報や商品を提案できるのか。 同時に、 あってよかったと思える 「場」 をどのように創っていくのかが、 生協の役割としても求められていると感じます。
  実際に、 私たち生協の産直活動のなかで、 体験農業に参加した子どもが帰りのバスの中で大嫌いだったピーマンを生でかじってお母さんをびっくりさせ、 感激させたという事例も生まれています。 産直活動というこのひとつの場面からでも、 食育の今後の方向性や大切にしたいものが見えてきます。
  エフコープの方針のなかで 「一人ひとりの暮らしを豊かにする (家族の笑顔が増える) さまざまな生活の知恵を知り、 つなぎあうくらしづくりに徹します」 とうたっていますが、 本書を読んで改めてその具体化と実践のスピードが問われていると感じました。 ただイメージではなく、 地域ごとの違いも踏まえて暮らしの実態と想いをしっかりと捉えること。 そして、 それらの事実から仮説を立てて実践と検証を繰り返すことで、 暮らしの変化に対応していきたいものです。
  本書は、 生協がその役割を果たすうえで最も大切にすべき 「常に暮らしを真正面からしっかりと見る」 ということを改めて学べる一冊です。

(えとう じゅんいち)