『協う』2006年12月号 特集
生活協同組合の共済事業
押尾直志/小塚和行/川口清史/秋葉武
生活協同組合の共済事業
生協共済は大きく成長してきた。 保険業界における市場シェアは11.7%。 JA 共済や漁協など、 生協以外の共済団体も含めると保険市場での共済のシェアは32.5%にも達する。 保有契約件数でも、 上から2番目に JA、 5番目に全国生協連、 8番目に全労済、 日本生協連の CO・OP 共済は10番目に位置している。
しかも、 2004年度、 全国生協連 (いわゆる県民共済) は65万件、 CO・OP 共済は48万件、 全労済 (こくみん共済を中心にした契約件数) は34万件、 契約件数が伸びており、 アフラック、 アリコ・ジャパン、 朝日生命を除いて、 いずれも契約件数が減少している民間保険会社とは対照的である。
しかし、 その共済をめぐる外部環境が、 いま大きく変化している。 政府は外国からの圧力を受けて、 法改正により共済の存在意義そのものを問い直し、 保険と共済との区別をなくそうとしている。 共済も保険も、 詰まるところ同じものではないのかというのである。
そこで、 あらためて生協と共済を 「共助」 の観点から見てみようというのが今号の特集である。 ともすれば、 生協における 「稼ぎ頭」 としてしか認識されない共済事業であるが、 もう一度 「共済」 (ともにたすける) の意味を根本から考えてみたい。
*以下は、 当研究所の公開研究委員会 (テーマ: 「生活協同組合の共済事業」、 10/7実施) での報告や討議をもとに、 当日コーディネーターをつとめた秋葉武氏 (立命館大学助教授) に加筆・編集いただいた。
共済を取り巻く外部環境の変化
押尾 直志 氏 (明治大学教授/(社)日本共済協会共済理論研究会研究委員)
共済を取り巻く外部環境
まず保険業法改正とその背景からお話します。
小泉内閣は2001年度からスタートしましたが、 同年度末に666兆円であった財政赤字が2005年度末には774兆円に膨れ上がっています。 こうした政府支出を削減するために、 国民生活にかかわる社会保障や教育などさまざまな支出が、 市場原理のもとに削減されてきており、 今回の保険業法の改正も、 国民生活に密接にかかわる基本的な問題を含んでいることを申し上げたいと思います。
わが国は1970年代に2度のオイルショックを経験しました。 71年に 「福祉元年」 が宣言されましたが、 福祉国家政策や福祉国家体制そのものは見直しを図られました。 政府は、 保険事業に対する護送船団行政のもと、 従来は20社体制で新たな保険会社の参入を極力抑えてきましたが、 すでに70年代前半に、 福祉政策の見直しを図る一環として、 医療保険分野に特化した外資系生保会社の市場参入を認め、 さらなる社会保障分野への民間活力導入政策を図ってきました。
アメリカは83年以降 「双子の赤字」 に転落し、 最大の貿易輸入国であり、 同時に対米従属政策を採っている日本に対して、 市場開放要求を強化してきました。 政府・財界は、 アメリカの市場開放要求を受け入れながら、 それと一体となって市場拡大の機会を創り出し、 国民に犠牲を転嫁するような政策を進めます。 しかし、 すでに低成長経済に入り、 実体経済の成長が伴わないなかで規制緩和と金融自由化が進められ、 これがバブルにつながりました。
一方、 保険会社はわれわれ国民の生活保障の主要な担い手でなければならないわけですが、 バブル崩壊後は、 生損保会社9社が経営破綻しました。 保険会社の経営破綻については、 行政と保険会社に対し責任を問う厳しい声があがり、 信頼を失墜させる事態となりました。 最近では保険金の不払い問題も表面化しました。 また、 われわれの生活の根幹を成している社会保障・社会福祉の見直し・切り捨ては70年代以降ずっと続いていますが、 深刻な構造不況のなかで、 国民は生活・健康・老後に対する不安を高めており、 そのことが無認可も含めた共済が急増した背景ではないかと考えます。
また、 国民のニーズも死亡保障ではなく生存保障に切り替わってきているので、 国内保険会社もだんだん第3分野保険 (医療保険や傷害保険など) を扱いたいと考えるようになりました。 しかし、 国内の保険会社が本格的に第3分野を扱うようになると、 医療保険などを中心に事業を行ってきたアメリカの保険会社にとっては、 非常に厳しい競争を強いられアメリカには大きな脅威になるだけでなく、 「競争条件が同じにならない限り、 共済にも一定の規制を課すべきだ」 という要請をしてきています。
保険行政は、 「共済」 の名を語る出資法違反事件や無認可共済問題などを共済規制の絶好の機会と考え、 共済事業を魅力的なマーケットととらえ優遇措置の廃止を求めるアメリカの要請を利用しながら、 「契約者保護」 を大義名分にして、 共済事業を保険事業とのイコールフッティングで規制しようとしています。
新保険業法による共済規制
1995年の保険業法改正で初めて保険業の定義が下されてから約10年後の2005年の改訂では、 「無認可共済」 を規制するために 「不特定の者を相手方として」 という部分を削除しました。 また、 共済事業は保険業法とは根拠法が異なりまったく無縁であったのが、 今回は、 法律の適用除外と言いながら、 根拠法があっても、 保険業法の規程のなかに協同組合共済を入れてしまいました。 これだけを見ると協同組合共済は、 協同組合法に基づいていながら保険事業の派生的形態の一つのような意味合いを持ち、 協同組合共済も保険事業の一環として取り込まれてしまったのです。
新保険業法が、 今年4月に施行され、 9月末までに特定保険業者として届け出をし、 2年の猶予を置いて保険会社か、 あるいは今回新たにつくった少額短期保険業者として登録せよということになりました。
そうすると、 保険事業と同じような一定の規制を受けるので、 ソルベンシーマージン (支払い準備金積み立て) や専門のアクチュアリー (数理人) による保険料の計算、 募集の規制など、 さまざまな規制が加えられます。 特定保険業者として届け出をすることになると、 膨大な資料をつくって行政庁に出さなければならずそのために、 大きなコストがかかり、 共済掛金を上げざるを得なくなります。 日本 PTA 全国協議会が行政レベルでつくる 「安全互助会」 では、 すでに20団体ぐらいが解散を決定しているようです。
共済運動としての課題
共済を取り巻く法規制の動きと同時に、 協同組合や労働組合の組合員構成の高齢化という、 非常に大きな問題があります。 同時に労働組合も組織率が低下し、 農協・漁協なども次世代がなかなか育たないとか、 組織へのロイヤリティもなくなってきていると言われています。 組合員組織をどう維持していくかも大きな課題であり、 共済の役割も大きいと思います。 ただ、 共済事業についての教育や啓蒙活動は非常に弱く、 組合員への教育がおろそかにされていた面がありました。 また、 他の共済団体、 非営利・協同セクター、 NPO などとの協力関係も希薄で、 共済は地域社会との接点があまりありませんでした。 保険会社は社会保障を補完する関係にあるとはいえ、 保険料の負担能力のある人が入れるものですから、 真の補完的役割という点では共済事業の役割は大きな意味を持っています。 共済事業は、 さらに横断的な連携と団結を図りながら、 社会保障の拡充のための運動を展開していくことが望まれます。
CO・OP 共済事業の現状と課題、 および理論的研究課題について
小塚 和行 氏 (日本生協連共済企画部長)
生協共済をめぐる事業環境
押尾先生からは、 共済・保険をめぐるアメリカとの関係や法改正という観点からお話がありましたので、 私は国内の特徴的な動きを3点ほど挙げてみたいと思います。
ひとつは、 協同組合の共済事業をめぐる法制度の見直しが急速に進んでいるということです。 2年前には農協法が改正され、 農協が行う共済事業について法律上の規定が整備されました。 昨年は保険業法が改正され、 いわゆる 「無認可共済」 が規制対象となりました。 残っているのは生協と漁協の共済ですが、 厚生労働省では、 今年7月から生協法改正の検討が始められ、 来春の通常国会に上程されるだろうと言われています。
2つ目に、 隣接法である保険 (契約) 法の検討も始まろうとしています。 現在、 保険契約そのものは、 商法のなかに生命保険と損害保険についての規定があり、 その現代化と見直しということで、 法務省の法制審議会に諮問が行われました。 11月から検討が始まり、 2008年にはまとまると言われています。 このなかでは、 「共済契約も、 事業者と契約者の関係においては保険契約と何ら差がないはずであるから、 共済契約も含めて検討してはどうか」 という提起がされています。
3つ目は保険・金融改革です。 この点は、 保険自由化の流れのなかで、 この間、 保険会社の破綻なども起こりました。 現在、 金融庁では 「契約者保護」 ということでさまざまな指針を出し指導を行っています。 保険会社の保険金不払い問題や大量の支払い漏れという事態を受けて、 金融庁は、 適正で公正・厳密な保険金支払い審査のあり方など、 「消費者保護」 の観点から保険会社に対して厳しい指導を打ち出しています。 もうひとつのねらいとして、 日本の金融・保険を国際的レベルに対応できるようにしていこうとし、 国際会計基準を導入することやそれに対応できる会社体力にしていくことも検討されています。
このような状況のなかで 「協同組合の共済」 の果たしている役割や社会的存在をあらためてきちんと確認し、 社会的にそのことの理解を広げていく取り組みが重要になっていると思っています。 たとえば厚労省の生協制度見直し検討会の中で、 ある委員の方は、 「保険と共済の違いは何か。 保険業法の規定を生協の共済に当てはめて何が困るのか。 わかりやすく説明してくれ」 と発言されています。 ですから、 保険と共済はどこが違うのか、 どういう特徴があるのか、 われわれの中だけでなく、 社会や組合員の方々によく理解されなければ意味がないと思います。
保険と共済の違い
「なぜ共済が伸びて、 保険が伸びないのか」 という事実からも両者の違いを明らかにしていくことが大事ではないかと思っています。 外資系保険会社はいろいろ言っていますが、 医療保障の領域においては、 生協共済もかなり先行して商品を開発してきました。 CO・OP 共済で言えば、 1984年に認可を取って、 性別・年齢にかかわりなく一律の入院保障・ケガ通院保障の助け合い制度をスタートさせました。 加入者が拡大して、 組合員さんとの接点が増えるなかで、 主婦・女性の方々から 「もっと自分たちに合った保障がほしい」 という声を受けて、 女性コースを開発しました。 また地域生協では、 お母さん方にとって、 子どもさんのケガや健康への関心がいちばん高いので、 ジュニア18コースも開発し、 先進的な保障内容となっています。
もうひとつは、 「助け合い」 の精神に基づく加入推進の取り組みです。 もちろん、 日常的な推進は生協職員が声かけをしていきますが、 組合員さんから共済加入者を紹介していただいたり、 募集チラシに 「加入していてよかった」 という組合員さんの声を紹介しながら、 単なる保障商品ではないということを理解し、 加入していただいています。
もちろん、 生協ですから、 民主的運営を行い、 組合員さんの声を聴き、 事業状況をきちんと開示する取り組みもしてきています。 こうしたことが、 共済が伸びてきた大きな要因のひとつであるし、 民間保険との大きな、 かつ本質的な違いであると思っています。 ただ、 日本生協連、 全国生協連、 全労済のように、 加入者が数百万人規模になってくると、 社会的注目を浴びます。 その事業が健全であるかどうかという点では、 加入者のみならず社会的影響力と責任が発生します。 その意味では、 これからの事業を健全に運営していく責任があるわけで、 当然、 われわれは自主的な基準を作り努力していますし、 生協法や厚生労働省のさまざまな通知を守って、 健全にやってきています。
少し話はそれますが、 共済は利益を出しすぎて、 購買事業の赤字を埋めているのではないかという質問を聞くことがあるので、 少し触れたいと思います。 CO・OP 共済は2005年度で約151億円の剰余が出ていますが、 これは《たすけあい》と《あいぷらす》の共済掛金を加入者からいただいて、 共済金の支払い分と事業運営上の経費を引いた結果として出た剰余です。 それをすべて本体の決算につぎ込んで赤字の穴埋めをしているということではありません。 まず当期未処分剰余金のうち、 6割以上を組合員さんにお返ししています (例えば《たすけあい》については、 掛金の19%を加入者に割戻しました)。 2つ目は任意積立金を積んでいます。 これは、 将来の予期しない事態に備えて、 ちゃんと積み立てておいて、 支払いの余力をつくっておこうということです。 これらを差し引いて、 共済事業として残った次期繰越剰余金が7億5000万円 (うち、 法定の教育事業繰越金が7億4000万円) となります。 このように目的や根拠を持った処分内容となっています。
生協法改正と共済
生協法改正との関係で話しますと、 特に 「兼業規制問題」 が大きな論点となっています。 保険会社は保険事業をやる専業の会社ですから、 「保険事業以外をやってはいけない」 と保険業法で決まっていますが、 それ自身、 会社の事業運営上なんら問題になりません。 しかし、 生協は組合員の生活文化の向上のために必要な事業を行うことになっていて、 現在の生協法でも購買事業・福祉事業・医療事業・共済事業をすべて行えることになっていますから、 地域生協では現在、 購買事業とともに共済事業を行っています。
ところが、 「共済事業の性格から、 その健全性を保つためには他の事業と兼業してはならない」 という議論が出ています。 兼業規制問題というのは 「購買事業が赤字で、 万が一、 経営が行き詰まった時に、 共済事業にまで影響を及ぼして、 共済金が支払われなくなったら大変だ。 だから同じ組合が共済事業とそれ以外の事業を兼業すべきではない。 それは禁止すべき」 ということです。 たしかに保険事業・金融事業という性格から言えば、 共済事業は、 購買事業や介護事業とは性格が異なり、 将来に向かってお約束した共済金は必ずお支払いしなければなりません。 いつでもお金を払えるようにプールしておかなければならず、 その意味では、 兼業規制はリスク遮断のひとつであり、 考え方としては必要だと思っています。 ただ、 それを一律に地域生協に当てはめた場合、 生協の趣旨や現在の生協法の考え方との関係でどうなのかという問題があります。 ですから、 日本生協連は検討会のなかでは、 「リスク遮断の必要性は理解するけれども、 具体的な方法については生協の特質を踏まえ、 慎重に検討すべきだ。 仮に実施するとして、 全国規模の連合会 (たとえば全労済・全国生協連・日本生協連) ではあり得るとしても、 会員生協については兼業を認めるべきではないか」 という主張をしています。
最後に、 改めて 「共済と保険はどこが違うのか」 について、 3点から触れたいと思います。 ひとつは事業・組織の目的として、 われわれは 「非営利」 で、 組合員さんへの最大奉仕を基本使命にしています。 これは、 資本に基づいて、 株主への利益配当を目的にしている民間保険とは、 明らかに違うと思います。 2つ目の違いは 「相互扶助」 です。 保険も 「助け合い」 と言っていますが、 あれは保障の商品を売っているのであって、 加入者は助け合いの商品だとは思っていないと思います。 CO・OP 共済は、 保障の仕組みを持つ商品であると同時に、 組合員同士の助け合いであるということを、 運営のなかで大切にしてとりくんでいます。 3つ目の違いは 「組合員自治」 です。 この点でも明確に民間保険会社との違いがあります。
法律を整備するなかで、 この3点だけはつぶすようなことがあってはいけないし、 同時に、 いろんな法制度が整備されるなかでも、 われわれがこのことを日常運営として守らないと意味がなくなってしまうと思っています。
問題提起
川口 清史 氏 (立命館大学教授/当研究所理事長)
私は、 非営利・協同セクターについて勉強している者の観点から、 いくつか問題意識を述べさせていただきたいと思います。 今日の話の大きなポイントのひとつは、 生協共済も保険業法改正の対象になるかどうかということです。 これは、 「生協もまた市場原理に乗るべきか」 という話として一般化できますし、 共済に限らずいろんな局面で出てきています。 生協法改正も、 むしろ生協から要求している側面があって、 員外利用規制の緩和や県域規制の撤廃などは、 ある意味では 「市場原理に乗る」 という話です。 ですから問題は、 「市場原理に乗る」 けれども、 そのなかで 「協同組合である」 ということをどう主張するかということであって、 「一事業者である」 という限りは、 規制には市場のレベルで対応するわけで、 実は 「市場とは違うルールを適用せよ」 と言う根拠づけが迫られているのだろうと思います。 それが保険業法改正と生協共済の位置づけの問題だろうと思います。
したがって、 「協同組合、 生協とは何なのか。 一般的企業とはどこがどう違うのか」 ということについて、 改めて説得的に展開することが迫られていると思います。 その点で、 小塚さんからも提起され、 協同組合について整理されて、 「非営利、 組合員奉仕、 相互扶助、 組合員自治」 という点が挙げられました。 私はそのとおりだと思います。 問題は、 それを理念で対応するのみでなく、 現実の政策や運営、 マネジメントでどう具体化するかだと思います。 もちろん理念は大事ですから、 理念をどう具体化するかという議論が必要です。 それと同時に、 現状から出発して、 生協共済の現状をどう評価し、 民間保険業と対抗する上で何がどう問題なのか、 どこに課題があるのか、 どこから取り組むのか、 という観点からのアプローチも必要ではないかと思います。
まず理論的アプローチでは、 例えば、 組合員のガバナンスが共済について本当に貫かれているか、 あるいは仕組みとしてそうなっているかどうか、 ということが問われるのではないかと思います。 ですから、 「協同組合の保険はあくまでも助け合いである」 ということならば、 保険を掛けた人の意思が日常のマネジメントやガバナンスに反映する仕組みを持たないと、 本当の意味で自治とは言い切れないのではないかと思います。 「共済自体は一部の事業であって、 全体の組合員参加や組合員ガバナンスが貫かれればいいのだ」 という主張もまったく存在しないわけではないし、 議論の余地もあると思います。 しかし、 共済と保険の違いで対抗するならば、 やはり共済に助け合いとして関わっている人たちの意思が反映される仕組みを生協として用意するための制度設計をしていく必要があるのではないかと思います。 私は現実にそうなっていないのに理念だけで闘うのは不可能ではないか、 生協陣営は 「現実をどう変えるか」 という議論を真剣になってやらなければいけないだろうというふうに思います。
もうひとつは生協の現状からのアプローチです。 なんといっても生協は、 「生協だったら大丈夫。 生協なら安心できる」 という組合員からの信頼がベースになっていて、 だからこそここまで進んできました。 それは大変すばらしいことであるし、 いろんな組合員の要求に基づいた商品設計ができて、 これがまた良い循環を生み出しているのだろうと思います。 同時に、 助け合いであるということが、 ガバナンスレベルで実施されるとすれば、 現実の保障や共済の機能のレベルでもっと助け合いを実感できたり、 あるいはそのことがもっと広がっていく仕組みを考えなくて良いのだろうかという思いがあります。
非営利・協同セクターの観点から、 「ソーシャル・キャピタル」 という言葉があって、 ソーシャル・キャピタルによって、 共済が広がると同時に、 共済の活動を通じて新しいソーシャル・キャピタルが広がっていくという循環がとても大事だということです。 少なくとも購買事業では、 共同購入にしても、 さまざまな組合員活動にしても、 日本の生協はそういうことを努力してきました。 しかし、 共済ではそこはどうなっているのかがよく見えません。 共済こそ 「共同購入」 の商品であって、 「たすけあい共済」 という商品を買ったとすると、 それはただ自分のリスクを保障してもらうためだけに買うのではなく、 それを通じて 「みんなのリスクがカバーできるんだ」 という実感みたいなものが広がるような活動がとても大事ではないかと素人ながら思うわけです。
いずれにせよ共済の問題は、 いまの生協法改正問題にみられるように、 生協の存在価値が問われる問題でもあります。 したがって、 もちろん研究面でもやらなければいけませんが、 各生協の理事会では、 いまの共済の問題点と今後の方向についての議論を深めないと大変なことになるのではないか、 そういう危機感を持っているということで私の問題提起とさせてもらいます。
◆ 押尾直志氏からコメント
まず、 共済が生まれた経緯についてです。 多くの国民にとって保険が身近な生活を守る唯一の手段にはなり得ませんでした。 そのため地域や職域でその技術を使いながら、 自分たちの手で生活を守るための協同組織を基盤にした共済を始めざるを得なかったというのが、 共済・協同組合保険が生まれた経緯だと思います。
次に、 保険の仕組みについてですが、 保険料は“見込み”で計算しますので剰余が出て当たり前なんです。 基本的に保険料のなかにはあらかじめ利潤や剰余部分を含んでいますが、 共済はそうではありません。 もちろん、 共済も安全性を盛り込んだ掛金で計算していますから剰余が出ます。 ただ、 その剰余の処分のあり方については、 小塚さんが話された通りで、 組合員全体の理解を得て組合員のためのさまざまな事業に振り向けたり、 地域に還元したりすることが必要ではないかと思います。
また、 組合員自治や非営利を実感できることが必要ではないかというご指摘はその通りですが、 保険にしても共済にしても、 事故が起こり保険金・共済金を受け取って初めて、 「ああ加入していてよかった」 と実感するのだろうと思います。 ですから 「保険料 (共済掛金) は、 自分たちだけでなく地域にも活かされている」 と実感できるような取り組みや広報・教育・啓蒙活動がさらに必要ではないかと思います。 組合員の意思をどう経営に反映させていくのか、 あるいはガバナンスの面でそれを活かしていくのか、 チェック機能を持つのか、 参加意識を持つのか、 ということはとても大きな課題だろうと思います。
やはり組織が大きくなると、 職員の一方的な認識と理解が先行して、 組合員と職員の意識の乖離が最大の課題として出てくるように思います。 その点で、 職員のリーダーシップが大事だという意見がありますが、 何より教育・啓蒙活動がいちばん必要ではないかと思います。 生協共済は購買事業などに比べて、 組合員意識を自覚する機会が少ないと思います。 事故が発生して、 給付を受けて初めて実感することになるので、 普段から、 さまざまな組合員との接点を通じて、 共済についての教育や学習の機会をつくることが大切ではないかと思います。 生協では 「くらしの見直し学習会」 などをやっていますが、 やはり限られた参加者しかいないので、 そういう点も含めてもう一度見直す必要があるのではないかと思います。
◆ 小塚和行氏からコメント
私は、 共済はお金をお預かりしている人のために行う事業であって、 生協の経営を支えるための事業として剰余を出しているのではないと思っています。 その点をちゃんと理解していただけるような努力は必要だと考えています。 同時に、 保険と共済の違い、 協同組合共済の役割を、 それはそれとして、 この機会に広く知らせていく課題があると思っています。 また、 「理念だけでなく、 実践で実証することが大事だ」 というご意見は、 まったくそのとおりだと思います。 特に 「助け合い」 については、 CO・OP 共済としても、 共済の活動面、 たとえば健康を守るための情報提供や健康相談、 組合員同士の学習会などは、 もっと広げていく必要があると思います。 いま、 「保障制度として、 いわゆる社会的弱者のための仕組みがつくれないか」 という議論をやっているところです。 健康な人も含めてそういう方々を受け入れることができるような共済制度がつくれるかどうか。 保障の制度設計というのは、 「リスクに応じた掛金をいただく」 という原理ですから、 そことのバランスでどのようなものができるかという観点で考えなければいけないと思っています。
まとめ
コーディネーター:秋葉 武 氏 (立命館大学助教授/当研究所研究委員会運営委員)
共済 (保険) はモノではない商品ですので、 なかなか私たちが「実感」することができません。 そういうなかで、 押尾先生が述べられたように、 広報活動の充実が今後ますます課題になっていくでしょう。 特に、 社会から 「保険と共済は何が違うのか」 ということについて強く求められています。 共済を一般の保険商品とどう差別化していくのかということも今後議論できたらと思います。
川口先生が述べられたように、 共済という商品自体、 単協理事会で議論されることが少なく、 総代会でも議論されることは非常に少ないのが現状です。 他の商品と違って、 共済商品自体が中央で開発され、 単協に 「下りてくる」。 この点も他の事業との違いがあると思いました。 民間保険会社との差別化でいえば、 共済商品のどういう点がユニークなのかを社会に示す必要があるでしょう。 つまり、 共済商品を開発して、 募集をかけて、 その資金を運用して、 そのなかから共済金を支払う過程で一体どの部分が民間保険会社と違うのかを示していかねばなりません。
従来、 「安全・安心」 と大きなテーマを掲げて、 「全労済はなんとなく安心だ」 とか 「CO・OP 共済はなんとなく信頼できる」 という議論が多かったのですが、 その辺をもう少し具体的に社会に示していくことが必要と思いました。