『協う』2006年12月号 書評2

山崎 克明 他 著
ホームレス自立支援
  -NPO・市民・行政協働による 「ホームの回復」 -

中嶋 陽子
大阪市立大学都市研究プラザ
(明石書店、 2006年9月、 4500円+税)

 この本は、 評者がホームレス支援を始めて以来であった中で、 トップに挙げたい作品である。 北九州ホームレス支援機構の大総括書であり、 長期にわたる実践内容を調査結果を多用しつつ克明に分析している。 行政との対決から協働への移行が、 親身な支援活動の蓄積に裏づけされた中で語られる。 この部分は、 特に圧巻である。 地域特性と共に、 普遍的な説得力を感じさせる部分も多々ある。 内容的には、 ホームレス問題と定義、 北九州での支援の歴史、 現状や支援の方向性、 公民協働、 といった点が展開される。 著者は、 プロテスタント系の現・元聖職者2人、 クリスチャンを含む研究者2人、 当時の行政担当者1人である。 心のこもった著作として、 品位のある統一性が感じられる。
  どの点が優れているのか。 まず、 包括的支援が、 行政との対等的協働ゆえに成功した事例として、 提示されている点である。 支援の未経験者にとっては、 人がホームレス状態にあるということの問題の全体像が、 観念的にではあれ、 理解されるだろう。 実践家にとっては、 支援団体が NPO 化し事業を受託した後、 行政とどんな位置関係になるのか、 といった点も読み取れる。 当地では、 支援団体が一つだったこともあり、 包括的支援が、 順次どのように網羅されていったのか、 という過程も興味深い。 研究者や類書に親しんでいる人には、 問題意識の所在次第で、 読み方は多様になるだろう。 評者の場合は、 自治体を動かすことの困難さと彼らを支配するイデオロギーの頑強さに、 思わずため息が出た。
  北九州支援機構の特長は、 当初から 「いのち」 と共に、 当事者の 「関係性」 の再構築を最重視してきたこと、 キリスト教関係者を核としたねばり強く周到な推進力と包容力、 対等性を常に意識した行政との協働、 研究者の関与が、 きわめて真摯なこと、 が挙げられよう。
  このように、 長期間一貫して困難な活動を展開深化させることにたいしては、 人間観・社会観の根底的な哲学が要請される。 その意味で、 この本は、 社会的・政治的センスにも優れた宗教者たちによる社会事業の書、 という見方ができるかもしれない。 『世界』 12月号で、 堀切和雅は福祉行政に関して次のように言及した。 「財源がないとはいわせない。 これは何が重要なことであるかという、 社会観の問題なのだ。 ……僕たちは、 構想し、 対抗することを思い出したい。」
  そこに人がいる限り、 市民からの支援は行われるだろう。 それを自己満足だという人もいる。 公的セクターからの助成問題に触れず、 市民に事業支援を請う社会的企業もある。 当事者の声は、 どこに存在するのだろうか。 「悪意なき欺瞞」は、 ホームレス状態の経験のない者が、 容易に陥るワナである。 支援の奥深さを再認識すると共に、 心しておきたいと思う。