『協う』2006年12月号 書評1

坪井 ひろみ 著
グラミン銀行を知っていますか
-貧困女性の開発と自立支援-


東洋経済新報社、 2006年2月、 1800円+税



多賀 俊二
全国労働金庫協会
労働金庫研究所

 本書のテーマであるバングラデシュのグラミン銀行は、 マイクロクレジット [貧しい人びとを対象に、 フォーマルな (金貸しや質屋ではない) 小額融資を行い、 彼らの生活が成り立つように促す仕組み (本書23ページより)] のパイオニアである。 グラミン銀行は、 創始者のムハマド・ユヌス氏とともに、 今年のノーベル平和賞を受賞したことで、 再び脚光を浴びるようになった。 本書ではマイクロクレジットの概要を紹介した上で、 グラミン銀行の仕組みと活動、 成果などを、 豊富な実例と分かりやすい語り口で紹介しており、 マイクロクレジットに関する最良の入門書といえるだろう。
  私が本書を読んで最も印象深かったのは、 グラミン銀行の本質が、 メンバーたる女性たちの尊厳を回復し、 協同の関係を形作ることで自立を促すことにあると再認識させられたことである。 本書を読み進んでいくと、 グラミン銀行は融資だけでなく、 グループやセンター (グループをまとめた運営単位) におけるメンバーの自発的な活動を通じて女性たちにリーダーシップと自信、 生活知識等を養うことで、 自己の価値の発見とネットワーク形成を促していることが分かる。 この点は、 生協の班活動やくらしの助け合い活動に通じるものがあり、 協同の原点を見る思いがする。 グラミン銀行メンバーが同行に入って変わったこととして、 「知識が増えた」 「自信がついた」 「人間らしい扱いを受けるようになった」 「友達が増えた」 などを挙げている (同書98~99ページ) のは、 グラミン銀行がメンバーの自立に寄与していることを実証しているといえる。
  グラミン銀行については、 江戸時代の五人組まがいのグループ制による、 村社会特有の相互監視があるから返済率が高いとよく言われる。 しかし、 同行のメンバーは五人組とは違い、 あくまでも自発的に同行に加入したのであり、 同行の活動を通じて自立できたこととネットワークを築いたことによって同行を大切に思うからこそ、 返済率が高くなるのではないか。 とすれば、 「日本では人間関係が希薄だからマイクロクレジットは導入できない」 というのは誤解であって、 日本でも自立支援とネットワーク形成の工夫により、 マイクロクレジット活用の余地はあると考える。 岩手信用生協や NPO バンクの実績は、 日本版マイクロクレジットの明るい可能性を示しているのではないか。