『協う』2006年10月号 視角


大型店と市街地活性化
~まちづくり3法の見直しについて~

若林 靖永

 大型店の大幅出店に対抗して、中小小売店、商店街が政治力を発揮して生まれたのが、大規模小売店法(大店法)である。同法は商業調整を目的とし、出店において事前の地域調整を義務づけて出店規制を行ってきた。1990年代に入り、日米構造協議により米側の要求、市場原理にもとづく調整を是とする立場からの規制緩和の推進などにより、政策は大型店出店自由化へ転換し、まちづくり3法(1998年成立、2000年施行)が誕生し大店法は廃止された。ところが、わずか6年で、政策は逆に規制強化に振れ、まちづくり3法は大幅に見直された(2006年5月成立)。
 2000年施行のまちづくり3法は、改正都市計画法、大店立地法、中心市街地活性化法の3つの法律を指す。ポイントは、都市計画の用途地区規制により大店の出店規制を可能とする、大店には周辺地域の生活環境への影響(駐車場、騒音など)を考慮した出店計画を要求する、国が支援する枠組みを用意して中心市街地の活性化をめざす、といった点にあった。
 まちづくり3法の成績表はどうだったか?大店法が廃止になり、ゾーニング規制がほとんど実現せず、郊外・工場跡地・農地などに大型店の出店が野放しとなった。チェーンストアによる過剰出店攻勢とあいまって、大幅に小売売場面積は増大し、売場面積に占める大型店比率も全国的に上昇した。無計画な郊外型商業の拡大、ニュータウン開発、公共施設の郊外移転により、地方都市中心部のにぎわいは埋没した。中心市街地活性化法の枠組みにもとづいて全国620市町村・683地区で基本計画をとりまとめたが、成功事例はきわめて少ない。問題は地元商業者の自主努力の不足のせいだけではない。郊外への消費者移動が進む中で中心市街地の商業環境がきわめて悪化している。まちづくり3法は一方で消費者を郊外に誘導しながら、中心地のにぎわいを再生しようと補助金を出すという矛盾に満ちたムダな政策だった。
 この惨憺たる結果に対して、特に地方から、地方都市衰退の危機感がいっそう強まり、郊外出店を規制する県・市町村独自の条例も制定された。超高齢化の進行、地方の財政破綻から、郊外出店を放置することは社会的合理性に欠ける、人口減少時代のまちづくりは「コンパクトシティ」をめざすべきであるとして、まちづくり3法は大幅に見直されることになったのである。今回の見直しポイントは、(1)これまで出店規制がなかった市街化調整区域や都市計画地域外に対して、1万平方メートルを越える大型集客施設(商業だけでなくサービス施設も)の出店を原則禁止したこと、(2)都市計画の変更手続きに知事との協議同意が必要とされ、関係市町村による広域調整がすすめられること、(3)中心市街地の活性化はこれまで市町村の基本計画を国がすべて支援対象としていたが、国が選別して集中的に支援すること、(4)中心市街地の活性化は商店街振興だけがねらいではないとして、住宅や公共施設などを再集約し、中心市街地全体の再生をねらったこと(共同住宅供給事業、病院や学校などの中心部移転費用を補助する暮らし・にぎわい再生事業、空きビルの改修支援事業など)にある。
 大型店の郊外立地を原則規制することになったことは大きな前進であり、中心市街地再生の大前提が整備されたといっていい。しかし、問題は山積している。1万平方メートルに満たない郊外型・ロードサイド型の大型店出店は規制されていない。規制対象は大型店だけで、住宅や公共施設などの郊外立地を規制し中心地に誘導する“総合的な都市計画”がないと郊外への人口移動は止められない。中心地の商業者間の競争が抑制され、商業者自身によるイノベーションが沈滞しており、消費者にとって魅力のない中心地となっている。中心市街地の地権者がまちの活性化の中心的担い手になるという枠組みが形成されていないために、再生計画が絵に描いた餅になってしまう。周辺・郊外・中山間地に住む住民・高齢者・障害者などにとって適切な商業アクセスが可能となる施策も補完的に求められる。以上、単なる商店街問題ではないのであって、結局のところ、自分たちのまちをどうしていきたいか、持続可能な暮らしと都市の構想を具体化することが中心課題なのである。
  
わかばやし やすなが
 京都大学経営管理大学院教授