『協う』2006年10月号 書評1

池田 弘 著
「神主さんがなぜ プロサッカーチームの経営をするのか」
東洋経済新報社、2006年7月、1500円+税


大友 康博
特定非営利活動法人
大阪NPOセンター事務局員


 本書は、幾多の企業を経営する新潟市の宗教法人愛宕神社の宮司である池田弘氏の企業経営論である。
 表題の回答は、第一章にある程度述べられている。氏は宮司として「地域をいかに発展させるか、地域住民の皆さんが活き活きと生きるにはどうしたらよいか」を考え、その具体的な事業として、教育、スポーツなどの具体的な事業を展開したのである。
 氏は「おまつり」が、地域をよくしようとする人々が集い、楽しみ、それによって人々が活力を得ることを目的とした事業であるととらえており、サッカーが「おまつり」同様の、人々を集め、人々を活性化させ、ひいては地域を活性化させる手段になり得ることを見抜き、アルビレックス新潟というプロサッカーチームを経営することに至ったようである。
 さらに他のプロサッカーチームと異なり、一企業の経営によるものではなく、氏の使命に共感する行政、地元の企業、市民が一体感、連帯感をもって、アルビレックス新潟というサッカーチームを運営するような「しくみ」をつくったことが、多くの人々を集め、集客数など経営面にも寄与しているものと思われる。無料の招待券を継続的に配布できたのもスポンサー企業や町内会の力があったからであろう。
 評者は新潟市から130キロ離れた上越市の大学に勤務していたが、アルビレックス新潟の試合を見に行く者が相当あり、チームのステッカーを自家用車に貼る者も相当いたことを知っている。確かに地域活性化に役立っているように感じられた。
 ただ氏が、「自分は新潟県民だというアイデンテティを再確認してもらうと共に、一体感、連帯感を持ってもらえる場を設けたかった」「新潟がんばれということで、自分が新潟人であることを自覚することができます」と述べる点にはやや違和感がある。「新潟県民」「新潟人」であると認識、自覚することより、誰と一体感、連帯感を持つことができ、それによって何をなしうるのか、新潟県に在住しながらこれに同調しない者を排斥することはないのか等、やや気になることがある。
 今後は、氏のように新潟を世界一にすることをめざす事業活動と同時に、地域住民が主体となって、新潟県内各地で、多様な内発的な地域振興の事業活動が展開されることを心から期待したい。