『協う』2006年8月号 視角


 やぶにらみ「アウトソーシング」



井上 英之
大阪音楽大学教授



 急激な時代の変化が生じている。アウトソーシングとロジステックスに関しても、私が注目したものには次の3つがある。
 (1)東大生協は全国初のPFI(「民間資金等を活用した社会資本整備」Private Finance Initiativeの略)で店舗・食堂を運営するため、鹿島建設・大平エンジニアリング・東京海上火災保険と共同出資で新会社を立ちあげ、駒場コミュニケーション・プラザを建設中である。公募には6グループが入札に参加し採用されたものだが、コンビニ導入を跳び越え、独立行政法人時代の大学生協生き残りなのであろうか。
 (2)イギリスでPFIが知られたのは刑務所づくりであったが、セコム等が出資するSPC(特定目的会社)によって日本初の民間運営となる刑務所・社会復帰センターづくりが、経済特区の形で山口県美み祢ね市で進行している。日本政策投資銀行などによる150億円の協調融資で、一部は地元に開放される営利施設の予定。
 (3)ヤマト運輸と西濃運輸の両グループが共同出資で設立したボックスチャーターに、日本通運の他12社の中堅トラック輸送会社が資本参加が決定した。これで300kg以上の部品・製品をジャストインタイムで届ける配送ネットワークの全国網が完成予定とのこと。人材派遣会社によるケータイを活用した登録者のジャストインタイム方式が登場した直後の、ロジステックス改革である。
 ところで、「第2の創業」を現場発の取り組みから探ることをテーマにした当研究所総会記念シンポジウムが開催された。そして生協の共同購入・個配の配送業務委託会社トランコムを事例として取り上げた。このことが結果的に、生協におけるアウトソーシングをどう見るかという検討課題を浮かび上がらせることになった。そこでこうした検討課題に光をあてる際には、是非とも吟味していただきたい点がある。
 その第一は、日本の生協界は「閉じられた」側面が強いために、独自な用語が使用されてきただけでなく、外部の用語を取捨選択して導入する際にフィルターが存在する。アウトソーシングやロジステックスに関しても、これまではタブーもしくは禁欲的ではなかったか。その理由をまず問い直す必要があろう。
 そして第二は、生協界内部での先行事例を一気に後追いする傾向が強いことから、客観的・主体的な分析や検討が充分尽くされない点である。私の手持ちのビジネス用語辞典にもアウトソーシングに関して、「自分でもできるが、他人にやってもらった方が安いものを、他人にやってもらっている間に、自分ではできなくなってしまう」、「“アウトソーサー”とは、本来“業務委託する者”の意味だが、なぜか日本では“業務委託される業者”を指す場合が多い」との吟味すべき視点が見られるが、こうした影の面への検討がなされているのだろうか。
 第三は協同組合という原理・仕組みからの総合的な検討が何よりも求められる点であろう。私は一昨年に『Q&A 自治体アウトソーシング』(自治体研究社)を出版した。そして現在は、「公の施設」への指定管理者制度を導入せずに自前で発展をめざす事例と、導入を契機に再生・発展をめざす事例の、典型比較調査で飛びまわっている。もっとも私の場合は公民館・図書館・美術館などを中心とした事例調査であるが…。
 さてそこでの結論は、固有の目的と機能を果たすための施設像の明確化、専門的な業務を担う職員の意欲と努力、主体的な参加を担い施設の活力を生みだす住民の集団的力の3つを総合したものが、強制された制度を阻害要因ととらえる場合もあるし、逆に活用して次なる発展をめざす場合にもなっている点である。いずれにおいても全国画一の制度化を大前提にするのではなく、地域ごとの水準と発展の方向性をとらえようとする職員と住民の協力がポイントである。
 こうした地域・自治体におけるアウトソーシング研究は、逆に生協における「第2の創業」及びアウトソーシングの検討にも参考となろう。第1の創業とその後の発展は、何がつくり出したものであるのか、生協のもつ人的・物的資産は地域における安全・安心を支える「準公共資産」にまでに発展しているのではないか、「第2の創業」はいかなる内的外的な要因で求められ、どの様な方向と総合力を発揮することによって可能なのか。アウトソーシングをめぐる論議と検討はこうした視点からも積極的におこなっていただきたい。
  
いのうえ ひでゆき
 大阪音楽大学教授