『協う』2006年8月号 書評2
鷲巣 力 著
宅配便130年戦争 (新潮新書、2006年1月、680円+税)
林 美玉
京都大学大学院経済学研究科 博士後期課程
本書の最大の特徴は、宅配便を日本社会や日本人の生活様式との関わりから捉えるにとどまらず、130年間という極めて長いスパンで、歴史的に辿ろうとするところにある。
宅配便のルーツは飛脚にあると捉えると、江戸時代には宅配便は民間によって担われていたといえる。1871年(明治4年)に前島密によって日本の郵便制度がつくられ、その担い手として地方の明主や名望家が郵便取扱所の「郵便取扱人」に任命された。1873年には郵便事業は国家の独占事業に改められる。結果、江戸時代には「民」の手で行われていた飛脚の仕事は、明治時代に「官」に奪われたのである。
ちなみに、各地の郵便取扱所は、その大半は後に「三等郵便局」、さらに昨今の郵政民営化の焦点である「特定郵便局」とつながる。
1892年(明治25年)には、郵便小包が誕生する。郵便小包の取扱個数は1940年代から60年代にかけて順調に伸び、1970年には2億個近くにまで達した。ところが、1976年に小倉昌男を社長とするヤマト運輸が宅配便を生み出し、郵便小包との激しい市場競争の中で、1982年には宅配便の取扱個数は郵便小包のそれを上回った。今日の「宅急便」を実現させるまでにヤマト運輸が運輸省や郵政省など監督官庁と繰り広げた闘いは長期に渡った。
そして今また、民営化を控えた日本郵政公社が、ヤマト運輸をはじめとする民間に対抗すべく、優遇措置が継続する10年の間に宅配便事業の強化を図ろうとしている。郵政公社は、ローソンを試金石として、コンビニでのゆうパック取り扱いを進展させている。
こうした逆境において、今度はヤマト運輸がいかなる逆襲に出るのだろうか。勝ち目はあるのだろうか。これまでも、ヤマト運輸は不利な競争ルールの中でも、メディアをそして、その先にいる消費者を味方につけながら、規制やルールの修正を要請しつつ闘ってきたのである。ヤマトは私たち消費者に訴える何かをやってくれるのではないかと想像するだけでワクワクしてくる。
いずれにしても、宅配便の歴史や今日のトピックが幅広く取り上げられているため、本書を読むことによって、昨今の郵政民営化や今後の郵便事業・宅配事業に対し、また一味違った見方ができるかもしれない。