『協う』2006年8月号 書評1

現代生協論編集委員会 編  
現代生協論の探究<理論編>
  (コープ出版、2006年5月、3000円+税)


秋葉 武
立命館大学産業社会学部助教授
(NPO・NGO論)



 本書は、日本の消費生協を総括的かつ理論的に描いた初めての書籍といってよいだろう。これまでの生協論に関する書籍には非現実的な「あるべき論」、つまり生協事業の現場で何が起きているかを一切考慮せずに、現在の生協に対する夢物語を述べるという内容が少なくなかった。
 そうした状況を考えると、本書の登場自体が日本の生協研究に一石を投じている。1980年代にピークを迎えた消費生協について、20年遅れでようやく理論的、体系的に検証が試みられ、そのことに一定程度成功している。経営学(マーケティング論や会計学を含む)、社会学、…といった各種分野の生協に関する研究が章立てでコンパクトにまとめられており、現在の生協という組織の全体像をつかむという点からも興味深い。また本書は研究書であるから、一般の読者にとって、やや難しい点もある。しかし編者の努力もあって、読者がそれを乗り越えて組織を理論的に捉えられる内容になっている(この点、編者に敬意を表する)。
 生協という組織をマクロ、メゾレベルからある程度網羅的に論じられている。唯一残念なのは、ミクロ(個人)レベル、つまり組合員、職員に焦点を当てて理論を構築した章がないことだ。この点は社会学者らによる今後の研究の進展に期待したい。
 本書で生協という組織への「参加」に強い関心を持つ評者が、特に興味深く読んだのは、上野千鶴子「第4章 生協のジェンダー分析」であった。ジェンダー論による生協の分析という視点が、実は優れた組織分析につながっている。つまり、組織の古典的な代表性民主主義、ヒエラルキー構造、官僚制支配の課題をいみじくもあぶりだしている。とりわけ新しい組合員活動といえる生活クラブ生協の「ワーカーズ・コレクティブ」の歴史的変遷に触れながら、ワーコレを組織にとっての「獅子身中の虫」「異型細胞」と位置づけ、生活クラブ生協のみならず、日本の生協の抱える労働の課題を表層化していく論理展開には説得力がある。また上野の主張は、一般の人にも理解しやすい。
 本書を読んで、筆者は今後、マクロ、メゾ、ミクロという各レベルで生協という組織に対する丁寧な実証分析とその理論化が今後望まれていくと感じた。これは今後の「くらしと協同の研究所」の課題でもある。