『協う』2006年6月号 書評1


岩村 暢子 著 現代家族の誕生 -幻想系家族論の死-
(勁草書房、2005年6月、1800円+税)


立命館大学非常勤講師 中川 順子

 著者は、現在の食・食卓がインスタント食品や冷凍食品を並べただけという“乱れた”写真を示し「親の顔がみてみたい」と母親世代の調査に乗り出す。著者は、「1960年以降の~化」という語られ方を家族、特に母親(母親世代)とその娘(現母世代)にとって何だったのか、40人の母親の語りを丁寧に拾い上げ、一人ひとりがどのようにしてどんな家族を編み出し、また、編み変えをしてきのか、その結果としてどのような「現代家族」が組み立てられたのかを「実証考察学的」に検証していく。その結果、著者は、「あるべき家族」と幻想される家族は、1960年以降生まれの現母親世代を育てた母親世代において、すでに崩れはじめていたと結論する。
 母親世代は、第1に、1960年以降の経済社会の激変 ~冷凍食品、インスタント食品、ファストフッドなどの浸透~ に対応し、食や食卓への態度を決定的に変化させた。第2に、戦後の貧しい食生活を受け継ぐべきもののない、あるいは受け継ぎたくないものとして捉えるという特殊な成育歴をもち、これらの要因によって、母親世代は、従来の食習慣を切り捨て、伝えないという断絶した態度をとり、家庭や子育てなどに関する価値観や行動様式を一変させたという。この母親世代こそ「元祖新人類」であり、現母親世代の家族(現代家族)づくりの発祥地点なのだという。この母親世代はまた「民主主義」「個人の尊重」「自立」など振りかざして、「なんでもあり」に道を開いた、とされている。
 1960年以降、都市化、サラリーマン化の過程で、まさに戦後型家族が形成されてきた、といことは特に目新しい指摘ではない。が、1960年以降の状況に対応しようとする個々の行動の積み上げこそが「現代家族」の構築となったことを検証する労作であり、この手法こそが「幻想」に終止符を打つのだという著者の主張には説得力がある。その説得力ゆえに、「現代家族」を産んだ元凶?こそ、60台前後の女性(ちなみに評者はまさにその年代である)といわれているようで、落ち込む。
 もう少し1960年以降の食生活様式の変化を引き起こした流通・加工技術の変化や、「民主主義」「個人」などの概念のすり替え的変化の進行があったこと、それらに対するわれわれ世代の多様な対応を視野に入れて見てほしかったという気がする。