『協う』2006年4月号 視角

投資商品と消費者
安保 嘉博

1 ビッグバンによる投資商品被害の拡大
 1990年代後半、金融分野での規制緩和(日本型ビッグバン)が進み、それまで規制されていた金融商品が自由化され、名前を聞いてもわからない投資商品がどんどん出回ってきた〔他社株転換可能債(EB)などの証券デリバティブなど〕。これに伴い法規制がないために詐欺に近い投資商品も横行するようになり、金融保険サービス、商品相場についての国民生活センターへの苦情件数は年間134,592件(2002年)に及んでいる。外国為替証拠金取引(2004年から規制)、無認可共済(2005年から規制)、匿名組合契約、未公開株、海外商品先物オプションなどが多い。
 今後、2007年以降に見込まれる数十兆円といわれる団塊世代の退職金の取り込みを狙った証券会社、銀行を含めた金融業者による取引被害がますます増加する恐れがある。

2 あるべき金融サービス法の制定
 ビッグバン時代は自己責任の時代であると言われ、投資によって損失を被っても投資家の責任であるとされる。しかし自己責任原則には前提がある。事業者に課された義務の履行である。ビッグバンには、欧米並みの金融サービス法の制定が本来必要であったのだが、日本では以下のような内容の整備が未だに遅れている。
 第1に、投資商品全てを対象にしたどのような商品が出てきても適用できる包括的な法律。第2に、徹底した説明義務。①現行法にある価格変動、事業者の信用悪化による元本割れの恐れの説明だけでなく、②取引の仕組み、③元本を上回る損失が生じる恐れについての説明義務の法定。第3に、適合性原則。欧米では「ノウ・ユア・カスタマールール」といわれ、業者は顧客の投資目的や財産状態を考慮して、当該客にとって適合的な商品を推奨しなければならないとのルール。説明さえすればどんな投資商品でもだれにでも売れるということにはならない。第4に、業者の違反によって投資家に損害がでた場合の損害賠償システムの確立、などである。

3 金融商品取引法案が国会へ
 このため、ようやく証券取引法を改正して金融商品取引法と改称し、有価証券だけでなく投資商品を一定広く法規制する改正案が今国会に提出されようとしている。しかし、まだまだ不十分である。被害のでた新規商品を政令で追加指定する手法であり、被害の後追いになることに変わりがない。また被害が続発している商品先物取引は、経済産業省が同法の対象にすることに強く抵抗している。どのような投資商品にも包括的に適用される法律が必要である。説明義務については、上記の②③が追加され、断定的判断(確実でないものを確実であると誤解させるような決めつけ方)の提供の禁止規定を設け、その違反には無過失損害賠償責任を課すことにしたのは前進である。上記の適合性原則についても明記されたが、その違反にたいする損害賠償責任などのペナルティは法定化されていない。

4 投資商品取引と消費者
 法規制のない投資商品に手を出す危険性はいうまでもない。詐欺と変わらないからだ。また、投資商品は物の商品と違って、消費者が自分で見たり触ったりしてそれが何であるかを把握できない商品である。金融業者から提供される情報に頼るしかない。消費者としては、十分に仕組みとリスクを理解できた商品以外は取り引きすべきでない。不招請勧誘(頼んでいないのに勧誘すること)の禁止に違反した業者、まだ理解できていない内に取り引きさせようとする業者と取引するのは見送った方がよい。取引のリスクは、その商品のリスクそれ自体もさることながら、業者の説明、情報提供のあり方(違法不当勧誘のリスク)から生じることが多いことを肝に銘ずべきである。
 ネットによる取引で今のところ苦情が少ないのは、営業マンの勧誘がないので投資家が自主的に取り引きしているからである。それでは株式市場は公正に運営されているのかといえばそうでもない。日本経済新聞社広告部の社員が株式分割の公告の掲載を事前に知って、その会社の株を売買したインサイダー取引事件や、粉飾決算と株価操作で不当に高く株価をつり上げ、株主が損害を被ったライブドア事件などは氷山の一角である。証券取引監視委員会の強化、企業決算を監視する公認会計士、監査役の責任強化などの根本的制度改革が必要である。
  
あぼ よしひろ
   都大路法律事務所 弁護士