『協う』2006年4月号 書評1

小菅 正夫 著
<旭山動物園>革命 -夢を実現した復活プロジェクト-

(角川書店、2006年2月、724円+税)

烏野 純子
『協う』編集委員

 動物園といえば小学校の遠足で一度は訪れたことだと思う。冒頭に著者は、「人生では動物園に3回行く」と述べている。しかし、この本を読むと、あと2、3度は増えるかもしれない。動物園とは動物を見るところ、珍しい動物を間近に観察できる楽しい場所である。しかし、「リクリエーションの場」のみならず、「教育の場」、「自然保護の場」、「学術研究の場」としての役割をこなし、なおかつ人を引きつける魅力を維持していくことは、事業として経営として日々の努力が不可欠になる。
 旭山動物園には150種近い動物はいるが、特別な珍獣や芸のできる動物はいない。日本最北端の動物園(旭川市)で一年の半分を雪に閉ざされ、交通のアクセスも決してよいとは言えない。ピーク時に年間59万人という来園者は、その13年後に26万人にまで落ち込み、閉園の話も囁かれるようになる。それが、今や多くのツアー客が旭山動物園に押し寄せ、2004年には過去最高の145万人が来園、月間の入場者数で上野動物園を上回り「日本一の動物園」と、マスコミに取り上げられるまでになった。復活の秘策は一体なんだったのだろうか、そして彼らは、どのようにして、成功を手に入れたのだろうか。
 それは突拍子なことではなかった。動物の持つ、もっとも特徴的な能力を発揮できる環境を整えることにあった、つまり「見せ方」を工夫したのである。
 円柱トンネルでのアザラシの泳ぎ、冬季開園によるペンギンの散歩、見学者の目線でのホッキョクグマのプールへのダイビング、オランウータンの空中散歩、とつながっていった。永年の実績をもつ飼育係の経験に耳を傾け、動物本来の行動を見てもらえる工夫をしたのである。それは動物たちにとっても、心地よいものであったに違いない。
 秘策とは、特別なことではなく、「気づき」、「慣例にとらわれない発想と実行力」にあった。知恵と努力と、不利な条件をも味方につける豊かなアイディアにあったのだ。基本に戻り、動物たちと向き合うことで、多くのことを教えられた。旭山動物園が上野動物園にはなれないし、まねをする必要もない。
 一人ひとりの個性を認め合い、その能力を適正に引き出すことが大切なのである。しかしこの成功は、彼らにしかなし得ない特別なことだったのだろうか。そうではない。仕方がないとあきらめたり、無理だと決めつけていることに、もう一度チャレンジしたくなる、そんな一冊だと思う。