『協う』2005年10月号 人モノ地域
今、滋賀県立大学生協のご飯が美味しい?!
―「人気の生協食堂」を訪問して―
『協う』編集委員 平野 裕子
現在、日本の食糧自給率は40%(カロリーベース)である。そのことを踏まえたうえで、なんと「地産地消」をめざす大学生協の食堂が存在する。地元(滋賀県産)の食材が全体の16%(仕入れ金額)を占めるという。編集委員会で論議すると「我が家の食卓では、とても無理!」との声。大変な努力が必要である。その美味しいご飯を食べる楽しみもあり、紅葉の深まる11月15日、名神京都東インターより約1時間、取材班5名で彦根市八坂町びわ湖畔の豊かな自然に囲まれた「滋賀県立大学生協」を訪問した。
変革のはじまりは「米」
食堂ホールにて、大学生協専務理事の梅田保誠さん、大学サークル「環境マネジメント事務所(EMO)」の3名の学生さんから話しをうかがった。1970年に滋賀県立短期大学生協として設立され、1995年に滋賀県立大学生協となり食堂もオープンしている。食材の多くは大学生協京都事業連合の商品システムを活用し、豊富なメニューを低価格で提供している学食である。
滋賀県立大学生協では、食堂で使う米は滋賀県産を使用(他大学は北海道産)していたが、低価格での提供をするため、米の種類や質には制限される状況であった。そのご飯に対して「まずい」「かたい」などの苦情が多く、米の種類も変えてもみたが評価は変わるまでにはいたらず、悲しい思いが続いた。
そんな状況のなか、大学の職員さんの紹介で1軒の農家と出会う。彦根市新海町の生産者、安やす居いさんである。その出会いからブレンドされていない、産地の明確な減農薬米を使用することになった。
安居さんを紹介した職員は、全国から集まる県立大生に「おいしい近江米、江州米を食べてほしい」との思いがあり、安居さんも県立大生が「うちの米を食べてくれて、近江米はおいしい」と知ってもらいたい、という思いから通常より低価格で、生協に「今ずり米」を納めてもらえることになったそうだ。「今摺米(いまずりまい)」との説明に、米の品種かと思いきや、今すりあがったばかりの米、つまり�T精米したて�Uという意味であり、配達の前日に精米をしたものを週2回運んでもらっている。「ワインに例えるとシャトーワイン」と表現された。
この大学生協の食堂は、全国の大学生協(約210単協)のなかでも組合員1人あたりの利用高が13位で、1人当りの平均利用単価は330円である。また、大学の近隣には飲食店もなく、唯一コンビニが1軒あるだけで、学食の存在が学生の食生活を支えている意味は大きい。また、夕食営業や弁当、パンの取り扱いも組合員の要望から実現した。組合員が2500名で1日あたり昼1000食、夕方200食で、ご飯の利用点数もこの間20%増と大きく伸びた。まさしく、生協食堂変革のきっかけは「米」だった。
学生に支えられて
地産地消を支えるもうひとつの大きなエネルギーがある。それは学生の意欲的な社会参加の姿勢だ。
2002年から活動するサークル「環境マネジメント事務所」は、生協というステージを活用して生協とともにISOの取り組みをすすめている。生協は2002年にISO14001の「自己宣言」を行っており、そのマネジメントシステムの構築・運用を学生と共に行ってきた。この関係は、単なる環境システム作りに終わらない。日常的に活動を行い、常に振り返りと向上に学生と職員とで取り組んでいる。その中で大切にしていることは、学生と職員のより良い関係作り。お互いの立場を活かせるように、何をするにしても念密な話し合い重ね、信頼関係を築いている。
このサークルは、現在30名で活動中。地産地消の取り組みでは、組合員に生協の思いを発信していくことに力を入れている。たとえば、生協の主催する生産者訪問や職員さんから聞いた話を食堂の掲示板で紹介したり、生協のこだわり食材をテーブルのあちらこちらで紹介している。
また、このサークルは、JA東びわこのISO14001認証取得支援や、他大学との交流、大学との連携、企業への訪問など、生協のISO自己宣言での構築・運用を通して培った経験を活かし、さまざまな環境活動を活発に行っている。
地産・地消の
リレーがはじまった
米から始まったつながりは、安居さんと同じような思いを持っておられる生産者・地元農家にリレーされた。滋賀県認証「環境こだわり農産物」の大豆でつくった川村さんの味噌、彦根市内に唯一残っている原養鶏所の卵である。また、創業180年の歴史をもつ8代目原さんの「かくみや醤油」は、天然醸造で常温ではカビが生える昔ながらの醤油。調理で使わないときは冷蔵庫で保管するという気遣いをしている。野菜はトマト、キャベツ、小松菜、アスパラなど、彦根市と野洲市の生産者が主で、さらに今年の6月からは、国産大豆とにがりだけで作っている豆腐、揚げの利用も始まっている。
喫茶コーナーでは、自家製のおにぎりを販売し、きつねうどんの揚げも食堂で煮ている。豆腐に使うネギや他の野菜に関しても、カット野菜を使わず、食堂での手作業をするこだわりの努力が見えてくる。
人気メニューは?
学生に人気メニューを聞いてみると、「豆腐!」との返事。豆の味が濃くて美味しいので、醤油をかけなくても良い。豆腐が地元産になったときに何かキャンペーンは?と尋ねると、「中村さんの豆腐」とポップでお知らせすると静かに広がり始めたという。また、豆腐が変わるときの試食の際、豆腐屋さんから新しい情報も入り、ふっくらとした「揚げ」も入手ができた。見た目にも「美味しそう!」と感じるものは、「食べたい!!」という食欲につながる大切なポイント。その意味から、学食は食事をする場所の意識と美味しくするための努力が必要と思う。そんなわけで「盛り付け」には、パート職員のセンスも活かされ、しっかり食事を取ることに熱い思いがうかがえる。
メニューの種類も豊富だった。副食15品、小鉢類22品、麺類11品、丼3品、デザート3品もある。夕食には、副食10品、丼、カレー各1品、サラダ、総菜バー20品の数々の料理がならぶ。食堂スタッフはアルバイト職員も含めて総勢約40名で、昼食時は23名のスタッフが美味しい匂いのする厨房内を忙しそうに動き回っていた。私たちがトレーを持って選んだ品は、日替わり定食の春巻230円、冷奴っこ50円、味噌汁50円、ご飯(M)100円、小松菜のじゃこ和え100円、リゾット風コロッケ160円…と盛りだくさん。レジで会計を済ませると、レシートにはカロリー表示と塩の摂取量、赤・緑・黄の栄養素が示されていた。ひとつひとつを味わうと「美味しい!」こだわりが口のなかに広がった。素材の味がしっかりした豆腐、かけ醤油の風味。こくのあるだし汁に粒の残る味噌汁。もちろん、ご飯もふっくらと美味しい。
600席の食堂ホールは、学生と教職員で満席になり、楽しそうな笑い声がきこえ、それぞれのお気に入りの料理が並んでいた。テーブルの上には、こだわり食材を紹介した学生手づくりの「食堂案内」が印象的だった。季節感を大切に、安心・安全を盛り込んだ学生たちのこだわりがここにも活かされていた。
おいしい関係づくり
を伝えたい
5年の時を経て広まった地産地消のこだわりは、人と人との深いつながりを大切にしながら見事なリレーをくり返し、学食のイメージを大きく変えてきた。地域の活動と情報がバランス良く循環するシステムを続けることで、食を通じてお互いの思いを叶え、事業が成り立ち、地域の活性化につないできたのである。生産地に足を運び、作り手のこだわりや手間をかけたものに出逢うことで、学生たちに食事のありがたさをより感じとってもらいたいと思った。その良さを知る学生たちには、この「おいしい関係づくり」を後輩に伝え、楽しく活動していってほしい。
地産地消の材料で、量の確保については大きな課題がある。例えば、需要の多い鶏肉には、ブラジル産や中国産が多い。それをまず国産に代え、欲を言えば地元産を提供したいと梅田さんの思いは続く。
協同することで不可能を可能にした「地産地消の学食」は存在した。1年後、2年後もずっと、おいしい関係がつながりますように…。ごちそうさま。
学生手づくりの食堂案内
「今ずり米」の安居さんの田んぼを訪ねて
私たちが手にした品々。盛りだくさんで1000kcalも…