『協う』2005年12月号 書評4

金子 勝 著
2050年のわたしから -本当にリアルな日本の未来-


川口清史・ 大沢真理 編著
市民がつくるくらしのセーフティネット ―信頼と安心のコミュニティをめざして― (日本評論社、2004年10月、2400円+税)

評:高山 一夫 (京都橘大学文化政策学部助教授)

 本書は、財団法人生協総合研究所が設置した「社会・経済システムと生協」研究会(座長:川口清史・大沢真理)の研究成果として出版された。グローバル競争の展開や少子高齢化の進展、構造改革路線の推進のなかで、くらしのあらゆる側面で不安感が高まる今日、協同組合や非営利組織が果たすべき役割とそれを支える社会的経済的条件について多面的に考察した野心作である。
 本書で扱われる対象はきわめて広い。列挙すると、本書の視点を論じた序章に引き続いて、家族(2,3章)、食の安全(4,5章)、住宅(6章)、保健・医療(7章)、福祉(8章)、環境(9章)、雇用(10章)、金融(11章)、そして政策提言である。各論ではそれぞれの分野ごとに現状と問題点、そして協同組合や非営利組織の役割が具体的事例を交えて簡潔に整理されており、大変に読みやすい。
 また、それぞれの章は比較的独立しており、関心に応じて好きな章から読むことができるのも便利である。評者は保健・医療については多少の知見を有するものの、それ以外の分野では知らないことも多く、通読して大いに勉強になった。
 例えば、住宅問題を扱った6章では、NIRAの報告書を下敷きに各種の住民運動を具体的に紹介している。折りしも住宅の安全審査に対する強い不安が広がるなか、非営利・協同組織による第三者評価やアドボカシー活動が今後期待されるといえよう。欲を言えば、まちづくりや保育、教育などにもページを割いてもらいたかったと思う。
 一つだけ苦言を呈すると、本書を貫くキーワードである「セーフティネット」について、その意味するところが曖昧であるとの印象を受けた。家族も雇用も社会保障も金融システムも社会経済セクターも全部ひっくるめてセーフティネットとよび、それを「張り替え」たり「ミックス」することが安心できる日本社会の構築に必要だといわれても、分かったようで分からない。金子勝氏や橘木俊昭氏の議論はもとより、『経済財政白書』や『厚生労働白書』、さらには世界銀行やOECDの『年次報告書』にも用いられる用語であるからには、用法の変遷や政策的含意の違いや本書執筆者グループ間での合意形成をふまえた上で、いますこし慎重に使うべきではなかったか。時代の課題に正面から取り組んだ意欲的な研究であるだけに、この点が心残りであった。
 とはいえ、多くの生協関係者・研究者の日々の学習に役立てていただきたい一書である。