『協う』2005年10月号 書評3
中村陽一・ 21世紀コープ研究センター 編著
21世紀型生協論 ―生協インフラの社会的活用とその未来―
(日本評論社、2004年6月、2200円+税)
評:齋藤 雅通 (立命館大学経営学部教授)
生協事業がおかれている厳しい事業環境の中にあって、首都圏コープ(現、パルシステム生活協同組合連合会がパルシステム(Palsystem)として開発した個配事業の成功は、全国的な注目を浴びてきた。
本書は、首都圏コープが目指す「21世紀型生協」について同グループの研究所が究明した成果である。3部構成からなっていて、第1部は「21世紀型生協のデザインとビジョン」で、市民社会の変化に対応した生協の課題や欧日生協の比較による日本型生協の特徴について論じている。第2部では、首都圏コープグループの組織運営や個配の事業システム等の特徴を多面的に論じる。それは地域社会との関わり方、組織運営方法、個人対応型事業スタイル、環境推進事業、農業を守る産直、企業パートナーシップと多岐にわたる。そして第3部では、首都圏コープの幹部自身による生協論の積極的提起・提言が行われている。
評者は、事業論的にはパルシステムがマーケティング的コンセプトや手法を積極的に導入し、より洗練された個配システムの構築に成功していることを学び取ることができた。それは寡占企業としての特徴を強めている大手小売業との競争が不可避となっている生協にとって、事業課題について興味深い成果や検討材料を提供している。
また、社会的インフラとしての生協論では、賛否は別にして独自の組合員象や運動論を提示し、既存の共同購入型生協の組織論とは異なる新しい可能性を提起していることは注目される。この点について評者は「歴史は繰り返す」と言う言葉を想起せざるを得ない。首都圏コープの実践が「21世紀型生協」モデルと呼べるか否かは、共同購入事業による成長期にあった生協運動との比較や生協運動の国際比較などの綿密な検証がさらに必要であろう。 首都圏コープと区別される「日本型生協モデル」とは何であったのか、首都圏コープのパルシステムは、共同購入の進化の延長として位置付けられるのかどうか等、分担執筆者によって見解を異にしていることもあるが、多くの問題提起を受け取ることができよう。それは首都圏コープの事業が展開途上であることを反映し、これから検証されるべき論点も多いことを意味すると言えよう。
とはいえ、首都圏コープの展開している戦略、事業と組織などについて積極的に論じている本書は、これからの日本の生協運動を考える際に不可欠の論点を提供している一冊であるといえる。