『協う』2005年12月号 書評2
戸木田嘉久・三好正巳 編著
『生協再生と職員の挑戦』 ―新版・生協職員論の探求―
(かもがわ出版、2005年9月、2800円+税)
角瀬 保雄(非営利・協同総合研究所 いのちとくらし理事長/法政大学名誉教授)
バブル崩壊後の日本の流通経済は、国際的なグローバル化の進行と国内的には規制緩和と流通ビッグの新規出店攻勢により激変に見舞われた。こうしたなかでの生協の危機を背景に、生協論の書物がブームのように次々と出版された。もう終りかと思っていると、新しい書物が登場する。しかし、事業の担い手である職員論を抜きにした生協の危機克服論は力をもちえないものといえる。ここにようやく本命が登場した。本書はこの間の生協事業の激変を分析し、その矛盾克服の力の源泉を職員の力の動員に求めている。奇をてらわない正攻法による分析が本書の特徴となっている。
本書の各章いずれも力のこもった力作で、生協再生に関わるあらゆる論点が示されていて、学ぶべきところが多い。仔細に検討する必要があるが、ここでは紙葉の関係から戸木田嘉久氏による序章「社会運動の新段階と生協運動の課題」と終章「経済社会のあり方と経済民主主義の位置」ならびに本書のトーンを形作っていると思われる三好正巳氏による第1章「経済の『グローバル化』と協同組合セクターの位置」にしぼって感想を述べるにとどまらざるをえない。
本書の特徴は、「非営利・協同」論を真正面から受け止めていることであり、生協の危機からの再生の道を役職員と組合員の協同に求めている点がその積極面としてあげられる。しかし、それと同時に「非営利・協同」論の弱点として、労働運動など他の社会運動との連帯と共同については鮮明でないこと、生協の再生論が事業体としての経営論に傾斜していることを問題としている。「非営利・協同」論の中には、その指摘が当たっているもののあることも確かである。
しかし同時に、生協の危機が経営危機として現象していることも事実で、市場戦略論、経営論の軽視にならなければと思う。また、生協運動自体も一つの社会運動であり、古くから「事業と運動」の車の両輪論がいわれてきている。運動を目的としたNPOは数多くあり、NGOはグローバルな運動そのものともいえる。
さらに第1章においては日本生協連の方針の問題点を真正面から取り上げて批判している。これは生協研究においてこれまでなかったことで、注目に値するところである。そして対抗論理としてフェアートレードなるものが主張されているが、いま一歩具体化がほしかったところである。
また、本書では購買生協が中心となっていて、医療生協のボランティアによる介護の活動にはふれているが、本体の医療の活動にまでは手が及んでいないのが残念に思われる。
次に生協の労働組合運動の問題に飛ぶが、本書はその理論、政策に率直な疑問を呈しており共感を覚えるが、アプローチが古典的すぎないであろうか。生協の職員は雇用された労働者であるとともに、生協運動の構成員であるという二重性をもっている。生協の労働組合運動は正規職員とともに、大量のパート職員を組織しているというその先進性によって、民間の労働組合の中でも大きな存在感を示してきた。
しかし、これまでいろいろな問題を抱えてきたのも事実であり、生協運動においてその潜在的な力を十分に発揮しえているかが問題となる。経営者との間には矛盾があっても、敵対的なものではなく、構成員による民主的運営という視点に立つならば、その矛盾は解決可能であり、労働者としても主体的に生協運動に取り組むという姿勢が求められる。
私は全労連の民間単産における最近の新しい動向として、参加型の「合意・協力型労使関係」の探究に注目しているが、とりわけ非営利・協同組織として参加型企業の性格を強く持っている生協の労働組合運動のあり方が問われよう。また今日、生協の労働組合運動は大規模労組のところにおいて問題をはらんでいるかのようにみられるが、本書はこうした点をどのように受け止めているのであろうか。突っ込んで知りたいところであった。