『協う』2005年10月号 人モノ地域
おたがいさま・いずも訪問記
~人が豊かになることを支える活動~
藤原 壮介(「生協と福祉研究会」委員)
8月18日に生協しまねを訪ね「おたがいさま・いずも」の運営委員会(コーディネーター含む)の皆さんにお話をうかがいました。天気は晴れ。お会いした人々は明るく、「山陰」という言葉のニュアンスがウソのような一日でした。訪ねたのは「生協と福祉研究会」の上掛代表以下4名、レンタカーを駆っての訪問です。
なぜ注目したか
生協の「くらしの助け合い活動」の04年度全国集約は、75生協、7万8千人会員、136万活動時間。高齢者の家庭や産前産後の家庭などでの食事づくり、掃除や買い物などのちょっとした誰でもができることを組合員どうしの有償ボランティアで助け合い、支えあいましょう、と全国の生協で取り組まれています。
そんな中で、生協しまねでは、先行する生協や生協以外のくらしの助け合いや家事援助の活動経験に学んだ結果�T助け合いの会�Uというかたちをとらず、組合員どうしが、くらしの中の「困ったなぁ」と「役に立ちたい」をつなげる�Tおたがいさまの活動�Uとして2002年に「いずも」地域からスタートしました。�Tおたがいさま�Uという言葉には、一部組合員の活動でなく、大勢の組合員の自主的活動として広がる中で、誰もが「おたがいさまネ」といい合える関係を広げていくという思いが込められています。4年目に入った�Tおたがいさま�Uの活動はいま3つの地域へと広がり、その応援時間も、組織規模から見れば、全国のトップに近いレベルになり、�T応援した人がますます元気になっている�Uと、全国から注目されはじめています。
どんな依頼も断わらない
今回、取材しておどろいたのは、まず「自分たちはどんな依頼も断らない」といわれたことです。コーディネーターは「その仕事が双方に喜んでもらえるなら良いんじゃない」とおおらかに構えています。聞けばコーディネーターの心構えは、「その用件に応援者を派遣できるかどうかの結論を急ぐではなく、依頼者が困っていることに共感すること」だそうです。1995年の総代会に提案された「生協しまねの福祉の考え方」には、「従来いわゆる『社会的弱者の救済』といった福祉の捉え方が強調されてきた傾向がありますが、もっと積極的に『人が豊かになることを支える』、『人の成長や発達を支える』ものとして捉え特定の人のみを対象とするのではなく、広くみんなの幸せや生き生きと自由に生きることを支え合う事として捉えます。」とありますが、これは現代社会の「孤立化」や「生活不安」を人のつながりの回復で、より積極的な生き方につないでいく行為のように思えます。
引き受けてこそ生活が見える
もちろん全てがすんなりいったわけではありません。たとえば、「三人家族の夕食を作って欲しい」と頼まれたとき、「雨の日に子どもを学校まで送ってほしい」といわれたとき、居あわせた人たちでどうするか話し合いになります。「まあ良いんじゃない」と引き受けて、依頼者の家に出向いてみたら、病気の問題だったり、不登校だったりします。日常の中で困難を抱えながら生活している様子が見えてくるといいます。「商品販売を手伝っていただきたい」と申し込まれた時は、ちょうど居あわせた人が販売士の資格を持っていて気軽に引き受けてくれ、上手な仕事でたいへん喜ばれたということでした。
コーディネーターの仕事の基本は、困まりごとに共感し、人と人をつなぐこと。行くか行かないかは、電話を受けた人が決めるのではなく、ひきうける応援者がいるかどうか、応援内容も利用者と応援者の双方がなるべく合意できるようにコーディネートすることだと話されました。
お茶とお菓子
おたがいさまに限らず、生協しまねの会議では、みんながくつろいで自由に話せるようにお茶とお菓子を用意しているということも、心遣いの一つです。メンバーに会議の連絡をしたら「ケーキは出るの?」と聞かれた、と笑い話もあるほどです。組合員どうしという信頼関係に加えて�Tおたがいさま�Uの気がねないつながりは、生協しまねの組合員活動を支える大きな力になっているようです。
自由で楽しいおしゃべりを重ねていくということは、生協しまねの組織活動の「原則」のようでした。�Tおたがいさま�U活動も、「良いことだからやろう」と生協の理事会がつくった活動ではなく、組合員が何度もおしゃべり会を重ねて「自分たちがやりたいから自分でつくった活動」だといいます。だから、他者依存や生協組織依存になりがちな「事務局」を置くことは、意識的に避けたといいます。生協はその考えを尊重して見守るだけといいます。
おたがいさまでは、組合員が集まって話し合う内容にこと欠くことはない、といいます。活動に参加する人たちの楽しいおしゃべりから、様々な協同の活動が生み出されていく、そんな広がりを私たちは感じました。
地域性を活かした
自主的運営
しまねのおたがいさま組織は、松江市と雲南うんなん地域でもつくられています。3つは連絡しあい、時には協議もしますが、それぞれの地域性を活かして自主的な運営が図られ、案内パンフレットや利用料金(一部)も違います。
また1回の利用時間や週の利用回数にも限度が設けられていませんが、それは困りごとに応援するという趣旨と照らしあわせながら、自分たちで決めたことだといいます。有償制についても、「島根では女性が家を空けて外に出にくい。しかし少しでもお金になるということであれば出やすくなる」という声で決まっていったということです。活動の財政の詳細は省略しますが、生協から支援を年48万円受け、04年度の収支は約30万円の黒字ということです。
山陰地方は、概して保守的な地域と見なされがちです。しかし島根の地域性もこれから大きく変わっていくのではないかと思わせるくらい、おおらかで明るい人たちと元気な活動に出会った訪問でした。
つなぐ役目のコーディネーターさん
訪問時もテーブルにはお菓子が一杯
訪問後に、おたがいさま・いずもで開かれたコーディネーター会のおしゃべりより
・「今はかなり、利用者の『困った!』と、応援者の『できるよ』を、つなぐことに徹しているけれど、いつも迷いを繰り返しているよね」
・「多忙な自営業のお子さんの託児。それと、引っ越しのお手伝いをした文具販売業の組合員さんから、『新1年生のための校内文具販売を手伝ってほしい』って、いわれた時もあったね」
・「営利活動のお手伝い?みたいな気がして、『応援できるのかな?受けていいのかな?』と、運営委員会で、何度も話し合ったけど、やっぱり、自営業している組合員さんが困っていて、『誰か早く見つけてほしい!』という気持ちや『こんな事も頼めるの?』という声や思いを直接聴くと、『じゃ、探してみよう』となって、応援者が必ず見つかっていく」
・「応援者が、楽しんでやってくださったり、仕事として、やりがいを持ってくださったり…」「困っていることに、どこまで応援するか?って、いつも課題だけど、『いろんなくらしがある』っていうことがそのたびにわかる」
・「そう、それと、本当に困った時は、どこに、誰に聞いていいのかわからない。そんな時、おたがいさまで『大変ですね』と一緒に考えて、なるべく受けてあげたい」
・「くらしと協同の研究所の訪問(インタビュー)の時に、『じゃ、例えばパチンコに行くけど、留守中託児して!という時はどう?』と聞かれたけど、私は、そんな託児を頼んでくる人はしっかりした人だ!と、感心しちゃう。もちろん、すぐ応援者を探す」「今の世の中、駐車場の車の中に置いてきぼりで、大変な目に遭う子もいるし。それに、パチンコも趣味や息抜きだもの、お母さんが、マツケンコンサートに行くための託児をしたときと変わらないなあ」「そうそう!」