『協う』2005年10月号 書評2
金子 勝 著
2050年のわたしから -本当にリアルな日本の未来-
三上 好之
京都府立大学福祉社会学部3回生
(講談社、2005年6月、1200円+税)
今私たちは、様々なシミュレーションと向き合わされているように思う。例えば、「2008年に、団塊の世代と呼ばれている人たちの大規模な退職によって、様々な制度、生活にひずみが生じてくる」というものもそうである。本書は、政府の経済財政諮問会議が2030年の日本社会をシミュレーションして出した『21世紀ビジョン』に疑問を投げかける形で、慶応大学の金子勝氏が現在進行している平均的傾向をそのまま延長してみればどんな未来を迎えるのか、というシミュレーションを様々に行なったものである。
政府の考えている未来というのは、言ってみれば今考えられる理想の未来である。20**年までに財政赤字がいくら減るとか、国民の生産性が上昇するとか…、私たちの生活をより良くすることを目指す政府としては当然であろう。目標を定め、それを計画的に実現していくことは大切なことだ。では、なぜこれに疑問を持ってしまうのかというと、これらの問題点が先送りにされているという現実があるからではないか。
経済を専門に学んでいない、ましてまだ社会の中にも出ていない人間にとって、真に受けてしまう情報というのは、テレビや新聞、ネットから流れてくる情報である。その大部分は、これから先に起きる負の部分のシミュレーションであるように思う。それらの情報と向き合いながらも、私ははっきりいって実感がない。国の借金が増え続けたら何が起こるのか、高齢者が増えるとどうなるのか、少子化の問題は? これらによって私たちの生活にひずみが生じる、ということはわかる。しかし、本当にそんなことが起きるのか、未来の自分たちの生活はどうなって、何がどう影響してくるのかということがイメージし難いところがある。イメージし難いから考えない、ただ漠然とした不安を持っているといった感じであろうか。
本書の一番のポイントは、そこに答えているところにある。シンプルなシミュレーションによって、このままだと日本はどうなっていくのかを明示し、自分たちには何ができるのか、今の生活や働き方をどう変えていけばよいのかなど、自分たちの未来を考えることのきっかけを与えてくれる。実際に多くの問題に直面して、そのなかで生きていかなければならないのは、この書のシミュレーションで登場する20才の主人公と同じ年の私たちなのだ。
その世代がこれからの未来について考え、仲間との話題にするということは大切なことではないだろうか。本書は、その格好の素材になると思う。