『協う』2005年4月号 書評1

松尾匡・ 西川芳昭・伊佐淳  編著

『市民参加のまちづくり 戦略編』
(創成社、 2005年1月、 2000円+税)


評:影山 摩子弥
横浜市立大学
国際総合科学部教授

 本書は、 久留米大学経済学部による公開講義 「市民参加のまちづくり」 の 「理論編」 を元にしている。 同じ公開講義の 「事例紹介編」 を元にした 『市民参加のまちづくり 事例編』 は、 姉妹編にあたる。
  「理論編」 とは言っても、 浮世離れした難解な書ではない。 現実に肉薄しつつ、 まちづくりや NPO のあり方や留意点が実証例とともに分かりやすく論じられている。
 例えば、 参加・参画・主導といった参加のあり方、 参加型開発、 ワークショップの意義、 NPO の失敗例から学ぶもの、 コミュニティビジネスと NPO、 行政の関わり方など、 まちづくりを論ずる際に不可欠な事項が扱われている。 つまり、 まちづくりや 「第3世界の開発」 には、 住民の主体的参加が不可欠であるし、 そのために人々の主体的成長を理念とするのがワークショップである。 また、 成功例だけでなく、 失敗例からも多くのものを学べる。
 しかし、 本書が秀逸なのは、 これらの議論をつなげ、 まちづくりや NPO の歴史的、 社会的意味を読み解くシステム理論的考察がなされていることである。 高度な理論が平易に解説されており、 本書の重心ともなっている。
 結章では、 既存の社会を特徴づける原理を 「市場原理」、 「位階権力原理」 (トップダウンを基本とする行政機関や企業組織が持つ原理)、 「身内共同体原理」、 「アソシエーション原理」 (人々が主体的に参加し協力し合って事業の運営を図る組織が持つ原理) に分け、 まちづくりにとって重要な NPO や協同組合などの市民事業体は、 アソシエーション原理に基づく事が示されるとともに、 他の原理とのプラスとマイナスの相互作用が簡潔に整理されている。
 ただ、 まちづくりは、 皆の合意に基づくアソシエーション原理からなるだけではなく、 立ち上げの時期においては、 起業家的リーダーが必要であり、 まちづくりの持続的成長のためには、 両者の効果的転換に鍵があることが、 第1章で指摘されている。
 本書は、 まちづくりに関わる重要な事項をすべて扱っているわけではない。 しかし、 それらは予定されている次の企画に期待できるし、 そもそも本書にちりばめられている示唆を各自の問題意識に即して活かしていくことも必要である。 その意味で、 本書は、 姉妹編の 『市民参加のまちづくり 事例編』 とともに、 まちづくりや NPO に関心を持つ人々だけではなく、 人々に痛みのみを押しつけ、 弱者を犠牲にしてはばからない 「現代社会」 を読み解き、 目指すべき方向性を見出したいと思っているすべての人にお勧めしたい一冊である。