『協う』2005年8月号 特集

2005.6.25~26
第13回総会記念シンポジウム
「進化する共同購入」

鼎談
総会記念シンポジウムをふり返る


 去る6月25日、 26日に当研究所の第13回総会記念シンポジウムが開催されました。 今回、 「進化する共同購入=生協の持続的発展をめざして=」 をテーマに、 3名のパネラー (首都圏コープ事業連合専務理事の若森資朗氏、 教育アドバイザーの毛利敬典氏、 当研究所理事長の川口清史氏) からの報告が行なわれ、 3つの分散会でテーマをブレークダウンして議論されました。 参加者は、 3つの分散会も含めて全国から総勢250名を超え、 両日にわたって熱心な議論がかわされました。 本日は、 各分散会の司会をしていただいた3名の方から当日の議論を振り返って、 主要な論点を掘り下げていただきました。 進行役は上掛利博 (京都府立大学) 『協う』 編集長。
【上掛】「進化する共同購入」 という問題関心の高いテーマだった今年は、 会場満席の中、 活発な議論がかわされましたね。 はじめに、 今回のシンポジウム企画の意図やテーマの意味について、 的場さんからお話しいただきたいと思います。
◆「進化」 の意味と 「共同購入の危機」
【的場信樹 (佛教大学)】
  「進化する共同購入」 というテーマについて、 私たちがどんな問題意識を持って臨んだのかということにですが、 「進化」 という考え方には、 物事が変化するのに必ずしも目的は必要ないという意味があるように、 私たちはどこにでも通用するモデルを想定して、 そのモデルを推奨しようとしているわけではありません。 あくまで、 ここに参加されているお一人おひとりが、 それぞれの 「変革のプロセス」 から学ぶべき何かを発見していただくこと、 これがシンポジウムの目的だということを当日の最初におことわりしました。
 私たちは、 何かが変わっていく場合の 「偶然性」 ということに注目しています。 たまたま置かれた環境の違いやそれぞれの組織がたどってきた歴史の違いがありますが、 それを生かすか生かさないかも、 「主体的な選択」 にかかっているところが大きいのではないかと考えています。 どこにでも通用する普遍的なモデルを追求していては、 今回報告していただいた創造的な事業は生まれなかっただろうと思いますし、 これからも生まれないのではないかと考えています。
 また、 私たちは変革のプロセスにおいて 「多様性」 が重要だと考えています。 新しい事業モデルが生まれるためには、 異質なものが出会って、 新しい種が生まれ、 それらが 「競争」 を通じて環境の変化に適応していく  場合によってはそれらと 「競争」 することを通じて学習していく。 そういう場が、 今回のシンポジウムになればと考えて企画しました。
◆はじめのキーワードは 「共同購入の危機」
 企画づくりの最初は 「共同購入の危機」 というキーワードから出発しました。 その中身としては 「組合員、 消費者の変化が生協のなかで、 きちんと語られていないのではないか」、 「店舗事業の回復がみられない中で、 共同購入事業に関しても1人当たり利用高の低下というかたちで展望が見えなくなってきた」 ということがありました。 その危機の中身をどう見るかについては、 いろいろな議論がありました。 ひとつは、 コミュニケーションの問題が出てきたので、 実際にどうなっているのかを京都生協やいずみ市民生協におじゃまして、 配達同乗や職員ヒアリングをしました。 もうひとつは事業モデルとしての共同購入の限界と可能性という議論があって、 ビジネスモデルとしてどう見るかという点で首都圏コープ事業連合と関西の食品宅配企業にヒアリングしました。
 ただ、 最初は 「共同購入の危機」 という問題提起をしましたが、 現場でヒアリングをしていくと、 がんばっている現場、 生協もあるので、 危機から脱する方法は、 必ずしもひとつではないのではないか、 多様なかたちがあってもいいのではないか…ということになっていったと思います。
【上掛】ありがとうございました。 では初日のシンポジウムで、 3名の方がたからの報告を振り返ってみたいと思います。 まずは基調報告をしていただいた川口さん、 ご本人からどうぞ。
◆それぞれの環境や理念・目的に応じた進化
【川口清史 (立命館大学)】
 私の話は、 共同購入が危機的な状況になっているということを、 1人当たり利用高の変化を軸に報告しました。 問題提起としては、 「共同購入は日本の多くの地域生協にとっては命綱であった。 それはあらゆる面で、 たとえば経営的にも事業的にも組合員にとっても命綱であって、 それが危機に陥っているということは、 とりもなおさず生協の危機である。 それをいろいろな角度から考えよう」 というのが筋になっています。
 全体としては 「危機の乗り切りを個配で」 というスタンスの生協に対する問題提起をしています。 それは、 「共同購入・班配が減っているから個配で」 というのは、 いかにも単純なとらえ方で、 ロジスティックの方法だけに問題を絞り込むような動きがあるけれども、 実は問題はそこにとどまらないのではないかということです。 個配というのは、 単なる配送の問題ではなく、 共同購入やコミュニケーションのありよう、 あるいは全体のコンセプトも含めて、 無店舗事業としての共同購入そのものに大きくかかわる問題であり、 そこが今回の報告の大きなポイントのひとつです。 それを、 首都圏の事例も入れながらお話ししました。
 他方、 「個配では、 共同購入はだめになるのではないか」 という批判もあります。 単に配送の手の問題として考えるとそうなるけれども、 しかし、 配送以外のコミュニケーションの問題や協同組合としてのさまざまな商品のありようなどを入れていけば、 共同購入のひとつの領域としてしっかりやっていけるのではないか。 それに、 そういう方向しか実際上は道がないかもしれない。 しかも、 その際に、 コミュニケーションを軸にして1人当たり利用高をもう少し増やすというマネジメントを中心にしたほうがいいのではないか、 と問題提起をさせていただきました。
 極端にいえば、 「拡大、 拡大」 と言わずに、 ヘビーユーザーを増やしたほうがいいのではないか。 これは、 後で、 オレンジライフの福田さんも同じことを言ったので、 びっくりしましたね。 「オレンジライフも (当面は) 会員拡大はやらない」 と言っておられ、 やっぱり同じことを考えているのだなと思いました。
 ですから、 ひとつは 「個配を軸にした 『進化』 のあり方を考えよう」 ということと、 「しかし、 個配をモデルにしようと言っているわけではなくて別のモデル (無店舗販売など) もある。 いろんなかたちで、 それぞれの環境や理念・目的に応じて進化させることができる」 ということを、 大きなメッセージとして出したわけです。
◆今の時代だからこそ、 理念先行型を心がける【的場】
 報告のおふたりめ、 首都圏コープ事業連合の若森さんは冒頭、 「パルシステムは理念先行型でやります」 と言っておられましたが、 やはりここが重要な点ですね。 ともすればシステムや効率性が評価されていますが、 実はそれを実現させているのが生協や協同組合の理念なのだというのが、 パルシステムのオリジナリティーだと思うのです。 「理念・生協らしさ」 と 「事業としての革新性」 を統一して推進しようとしていると思います。
 その意味で、 いろいろな論点がありますが、 議論の建て方としては、 従来の生協像に対してパルシステムがどういう違いを出そうとしてきたのかということを、 いくつかのテーマに基づいて話してくださったのではないかと思います。
 たとえばコミュニケーションの問題を強調して、 「コミュニケーションをとっていくことが生協に課せられた問題だ」 とはっきり言っておられますが、 「しかし、 これまでは 『班はすばらしい。 班で助け合ってください』 というかたちで逃げていた」 という言い方をしている点などが、 そうではないかと思います。 あるいは、 「個配は、 オレンジライフのような民間企業が商売としてやるのは当然かもしれないが、 生協が商売としてやったら失敗する」 ということもはっきりと言い切っています。
 そういう点から見ても、 共同購入・個配という業態の転換という問題は、 たしかに重要な核心としてあるけれども、 その基礎にある 「生協らしさとは何か」 といったことを強調されていたのではないかと思います。 たとえば 「いわゆる 『個人』 や 『個人主義』 が重要視されるような社会の大きな流れがあり、 モラルも時代とともに変化する。 モラルは、 個人のあり方や個人と集団のあり方を律するものだから、 その意味では、 いろんなところで関係性の変化が起きている。 生協事業にとってモラルと革新性の両方が必要だ」 という言い方をされていて、 それが若森さんのお話の特徴だったのではないかと思います。
【上掛】次に、 3人目の毛利さんのご報告についてはいかがでしょうか。
◆共同購入の持続的発展を考える
【的場】
 毛利さんは、 冒頭で、 当研究所の創立総会記念シンポジウムでのベーク報告を出して、 「ヨーロッパの生協の道は、 実はいま日本の生協が歩んでいる道ではないか」 という問題提起から始められました。 そして、 社会思想家のイリイチが 「日本に生活していて、 社会心理の破綻がどの国よりも先に進んでいる社会だ」 と言ったことも紹介していただきましたね。
【上掛】毛利さんのレジュメに、 共同購入の特質は 「人と人とのかかわりの中に営まれる (埋め込まれた) 事業」 「かかわり、 おしゃべりの中で商品は輝きを増している」 「商品が人と人のつながりを豊かにする媒体として機能している」 と書かれていますが、 これと川口さんがおっしゃった 「組合員拡大より1人当たり利用高を増やすコミュニケーション」 はつながっているのでしょうか。
【川口】
 毛利さんは、 「担当者によって供給高はずいぶん変わる。 共済や拡大で業績を上げる担当者が、 必ずしも1人当たり利用高や供給トータルで上げているわけではない。 そこがちゃんと評価されていない」 と言っておられましたね。 「共同購入は、 もともとコミュニケーション事業である」 ということをいろいろな言い方でされていて、 だから 「担当者のコミュニケーションによって供給がずいぶん変わってくる」 ということを、 いろんな具体的な事例でおっしゃっていました。 個配のなかで毛利さんの言うコミュニケーションがどう実現しているかということが課題ですね。 担当者の役割の重要性という点では、 「班でおまかせ」 という批判に対して、 毛利さんは班のコミュニケーションも含めた担当者の重要性を語っているから、 個配の議論もその延長線上にあるのではないかと思います。
【上掛】以上、 シンポジウムでの3名の方から報告を受けて、 会場参加者との意見交換もなされましたが、 今日のまとめの中で、 触れていただければと思います。
 では次に、 2日目に行われた3つの分散会で、 主に議論されたことについて、 振り返っていただけますでしょうか。 まず第1分散会の 「コミュニケーションの視点」 からお願いします。
第1分散会 「コミュニケーションの視点から」
● 司会:浜岡 政好 氏 (当研究所常任理事、 佛教大学)
● パネリスト・発言者・助言者:
 ・毛利 敬典 氏 (教育アドバイザー)
 ・奥井 和久 氏 (おおさかパルコープ)
 ・若林 靖永 氏 (京都大学)
◆マネジメントと組織文化
【浜岡政好 (佛教大学)】
 毛利さんからは、 シンポジウムでのお話含めて、 組織文化の話が出ました。 組織文化については、 「何に着目して、 何を無視するか」 は、 文化の違いによってできあがるので、 同じものを見ていても、 見えたり見えなかったりする。 だから 「組織文化が違うところで育った人たちが、 なじむまでにとても時間がかかる。 マネジメントの仕方は、 そういう組織文化と大きくかかわってくる」 ということで、 マネジャーとして力が発揮できている事例をあげて説明されました。
 全体としては 「どうすれば職員が生き生きと仕事をして、 しかも成果につながるようになるのか」 ということが話されました。 特に相手の立場 (組合員) に立ちきるということでは、 訓練によってそれが可能だということを強調しておられました。 「賢治の学校」 の主催者である鳥山敏子さんの 「子どもたちが何か (例えば花の種) になってみる練習」 の例をあげて、 「組合員になってみる練習」 などをやっていく必要があるということでした。
 職員が、 組合員とのやりとりのなかでどのようにかかわっていくべきなのか。 組合員を 「自分たちの事業の都合でお願いする対象者」 と見て、 相手とかかわっているのではないか。 普段のコミュニケーションとして、 そういう関わり方でいいのだろうか。 職員の側から見ると、 組合員の立場に立ってきちんと考え、 やりとりできるように、 絶えず訓練して、 かかわり方を身につけておく必要がある。 これは職員同士でも、 上司と部下の関係でも同様で、 特にマネジメントする側はそういうかたちでかかわる必要があるのではないか、 というような問題提起をいただきました。 そのことの事例として、 奥井さんから、 91年の合併以降、 組織文化をつくり変え、 そのなかでコミュニケーションのあり方をつくり変えてきたという話が紹介されました。
 おふたりの報告の後、 若林さんからコメントをいただきました。 「コミュニケーションを重視することが言われているが、 本当にできているのか?」 「たとえば100人ぐらいとかかわっていて、 そのうち数人といい関係ができると、 その数人とのコミュニケーションだけを取りあげて、 残りの九十数人とほとんどコミュニケーションできていない状況を覆い隠してしまう実態があるのではないか」。 全体として、 コミュニケーションマネジメントができてないのではないか、 との問題提起をいただきました。
 また若林さんは 「限定的にしか付き合いたくない組合員もいるのではないか。 コミュニケーションと言うと、 何となく 『親密なコミュニケーション』 というイメージが出てくるが、 担当者に深く立ち入ってほしくないとか、 自分の暮らしに必要な所だけで生協とお付き合いしていたい組合員だっている。 それを 『親密なコミュニケーション』 のモデルだけでやると、 かえって問題がでてくるのではないか」。 その辺は、 組合員の多様な状況にちゃんとフィットしたコミュニケーションのあり方が求められているのではないかということですね。
 それから配達担当者は本当に苦労していますね。 担当者は組合員ときちんとコミュニケーションしたいと思っているのです。 会場発言でありましたが、 高齢の組合員さんが、 担当者が来るのを待っていて、 「ちょっと、 この○○を動かして」 とか 「これを直して」 と用事を頼むことがあるのですね。 そういうとき、 「組合員のことを思えば、 お手伝いをしてあげたい」 と思うし、 同時に、 決められた時間に配達を回らないと困るし、 効率のこともあるということです。 そこのジレンマは現場の担当のなかにかなりあって、 限られた状況のなかでこのジレンマをどう解決するか、 担当者はすごく悩んでいます。 この課題は現状のなかでは、 そう簡単に解決できる話ではないだろうと痛感しましたね。
【上掛】ありがとうございました。 では次に 「商品・品揃えの視点から」 の分散会の報告をお願いします。
第2分散会 「商品・品揃えの視点から」
● 司会:川口 清史 氏 (当研究所理事長、 立命館大学)
● 発言者:
 ・佐藤 敏雄 氏 (コープきんき事業連合)
 ・杉山 久資 氏 (首都圏コープ事業連合)
◆ふだんの暮らしに必要な商品と
 社会性を持った商品
【川口】
 率直にいうと、 いまの日本生協連が進めている 「ふだんの暮らしを支える。 生活のボリュームゾーンにきちんとした商品をきちんと届けるのが、 われわれ生協の使命だ」 というアプローチと 「どう支えるかが問題で、 それぞれが要求している生活にフィットするかたちで提供しなければいけない」 という、 商品政策で言えば非常に対照的なかたちで問題提起がされたと思います。 これは乱暴な言い方ではありますが、 「量か質か」 みたいな話です。 佐藤さんによると 「やっぱり首都圏コープは加入率3%の論理ではないか。 関西では10%だ。 加入率が10%を超えると、 生協の側でコンセプトやシステムを決めて、 それに合う人だけ利用するというわけなはいかなくなる」 という問題提起だったわけです。
 一方で、 杉山さんのお話では首都圏コープは、 日本の農業を守るとか、 子育て支援とか、 社会性を持ちながら商品提供をしているわけで、 その限りでは社会性はたくさんあるわけです。 それに対して佐藤さんは、 「まずは商品を調達できなければしようがないでしょう。 加入率が10%の地域の人たちに一番求められる商品を揃えてから話が始まります」 というように話されて、 ここが大きな論点のひとつになりました。
 それと、 コープきんきの生協でいえば、 ものすごく組合員の世代が違うという話がありました。 京都生協・ならコープは高齢で、 おおさかパルコープが一番若い。 コープしがは真ん中。 なぜ、 こんなに違うのか。 あるいは、 購入される商品が全く、 違うわけです。 佐藤さんは、 「それは結局、 地域が違うからではなくて、 売り方が違うからではないのか」 という意見でした。 パルコープの商品担当者は比較的若い人で、 商品案内も若者ウケするような、 生活感がないけれどもおしゃれな感じを出して、 年輩の人たちを抜かしてしてきた。 京都生協・ならコープは、 年輩者ばかり見て、 若い人を抜かしてきた。 佐藤さんはデータを出して、 「単協によって売れる商品がずいぶん違うし、 シェアも違う。 家計における乾物のシェアを見ると、 京都はとても高い、 なぜ京都は乾物のシェアがこんなに高いのか。 それは結局、 それぞれの歴史によってこうなっているのであって、 売り方の違いだ」 と言っていました。 そういうことが客観化されたことが、 コープきんき事業連合ができたひとつのメリットではないだろうかと思いました。
◆毎日のコミュニケーションと商品政策
 もうひとつの論点は、 コミュニケーションをどう商品政策に活かすか、 そのルートの問題です。 いまは商品委員会や 「ひとことカード」 など、 制度化されているものは商品政策につながるけれども、 問題は日常的に聞いてきたことや毎日のコミュニケーションを商品政策に反映できないこと。 制度化されていないコミュニケーション、 日常的な組合員の声を、 どう商品政策に反映させるかということも、 少し検討が要るのではないか。 個別の組合員の声は、 個として扱って、 商品政策にならないわけで、 どうしてもマスとして集めてくるわけで、 それも含めてもう一度突っ込んだ議論が要るのかな、 あるいは経験の蓄積が要るのかなと思います。
 また別の話で、 興味深かったことがありました。 小売事業として見ると、 店舗の場合、 在庫があっても、 そこが少なくなることによって、 在庫管理で売れ筋がわかるわけです。 だから、 そこに重点的に商品を入れて、 供給を上げていく。 ある意味で、 顧客とのコミュニケーションをそこで把握しているというわけです。 でも、 それは共同購入では一切組み込まれていない。 そのことは佐藤さんも言っていましたが、 実はそれをどうカバーするかという話がないのです。 商品はわずか600~800しかないのですから、 そのなかで何が売れ筋かということを追求すべきではないか…。 アイテムが600~800であれば、 何が売れ筋で、 何がチャンスロスなのかは別に問題にしなくてもよかったかもしれないけれども、 アイテムが1000になると、 たぶんそれが問題になってくる。 組合員の日々の需要をキャッチして、 それを反映させないと、 成り立たないのではないでしょうか。
【上掛】では、 「事業モデルの視点から」 の分散会での論点のご紹介をお願いします。
第3分散会 「事業モデルの視点から」
● 司会:的場 信樹 氏 (当研究所研究委員会代表、 佛教大学)
● パネリスト・報告者・助言者:
 ・若森 資朗 氏 (首都圏コープ事業連合)
 ・福田 誠志 氏 (オレンジライフ株式会社)
 ・齋藤 雅通 氏 (立命館大学)
◆無店舗販売の2つの選択肢
【的場】
 オレンジライフの福田さんはまず、 小売業の環境変化について2点に整理されました。 ひとつは、 オーバーストア状態というか、 小売業態そのものが成熟しているのではないかという問題提起。 ふたつめが、 いわゆる階層化。 両極分化していて、 小売業だけではなくメーカーも、 いまはふたつの製品ラインを構築する経営戦略を採用している。 そういう状況のもとで、 オレンジライフはどのような戦略を持っているのかというお話をしてくださいました。
 まず、 無店舗販売と店舗は違う業態で、 無店舗業態をやっている供給者が店舗をやったら失敗するし、 店舗をやっている人は無店舗販売をすることができない。 なぜなら、 品揃えも違うし、 商品も違う。 オレンジライフとしては、 もともとスーパーマーケットが無店舗販売を始めた会社ですが、 これからは無店舗販売に特化して、 そのなかで新しい事業システムを開拓しようとしているとおっしゃっていました。
 無店舗販売の特徴は、 組合員 (生協) や会員 (オレンジライフ) をどのようにメンバーシップするかが最も重要で、 会員に対して入会金を取るのか、 配達手数料を取るのか、 取るとしたらどのぐらいの水準にするのか…などがその後の利用や会員の退会に直接影響するということで、 いろいろ苦労していることを紹介され、 生協とオレンジライフの決定的違いがそこにあるのではないかとおっしゃっていました。
 オレンジライフの場合は、 いま4万数千人の会員がいますが、 この会員を今後も増やしていくのか、 それとも現在の会員の利用頻度や1回当たりの利用金額を引き上げるのか、 このふたつの選択肢がある。 前者については、 1人当たり2万円のコストがかかり、 1万人増やそうとすると2億円かかるので、 できない。 だから、 現在の会員へのサービス強化によって利用頻度と1回当たり利用金額を増やすという選択をせざるを得ないとおっしゃっていました。
 その点、 関西にある食品宅配企業の場合は、 利用会員数も増えているし、 1人当たり利用頻度・利用金額も増えている。 これには差別化とブランド化が効いているという評価をしていました。 ブランドという点では、 生協も名前を聞くだけで一定のイメージを消費者に持たせることができますが、 オレンジライフにはそういうメリットがないということでした。
◆生協らしさと利便性
 もうひとつは、 プライベートブランド (PB) をどう展開するのかという点です。 「オレンジライフは、 比較的多いほうだと思うが、 生協のコープ商品のような PB を持っていない。 PB があれば、 同じ商品でも、 それ自体を付加価値として高く販売できる」 というお話でした。
 一方、 若森さんは、 前日のお話の内容を具体的な例で紹介してくださいました。 たとえば 「こんな時代だからこそ、 今理念先行で行くのだ!」 という指摘にかかわって、 「利便性についても、 そもそも組合員のニーズとして最初からあったにもかかわらず、 それを生協側が 『そうではない。 利便性を追求することは生協の原則から外れる』 という言い方をして、 努力してこなかった。 しかし、 実は OCR が登場した時からすでに利便性への対応が始まっていたにもかかわらず、 それを意識的に事業化してこなかったのではないか」 とおっしゃっていました。
 また、 事業システムについても、 利便性の問題が重要だということで、 利便性だけを追求するなかでは、 「生協らしさ」 は生まれない。 生協が持っている考え方やコミュニケーションと利便性をうまく絡み合わせて、 事業としてつくりあげた時に、 非常に発展性があるし、 革新性が生まれるとおっしゃっていました。
 ブランド力の問題についても、 「オレンジライフは生協一般のブランド力をうらやましいと評価しているが、 パルシステムとしては、 ブランド力を組合員の心にきちんと残していくような事業システムをつくっていく努力をしている」 ということで、 3媒体の例を挙げておられます。 たとえば 『Kinari』 について、 「当初は50歳以上の人たちを対象にしていたが、 実際に読まれている年齢層を見ると、 50代以下が40%で、 従来、 生協に参加してこなかった層の人たちに読まれている」 と、 意識的にブランド・マネジメントを追求してきたことを強調されました。
 齋藤さんがコメンテーターとして中間的なまとめをしてくださったのですが、 おふたりの報告を受けて、 「生協に引きつけて言うと、 生協の共同購入が組合員に提供しているものは何なのか」 ということを、 生協がもう一度考え直す時期に来ているのではないかということでした。 「共同購入というのは、 組合員にどういう特性をアピールしているのか。 それを深めていく必要があるのではないか。 みなさんはどうお考えでしょうか」 と問題提起されました。
 結局、 若森さんにしろ福田さんにしろ、 報告のなかで強調しておられたのは、 「自分たちの組織が何のために存在していて、 何をアピールしているのかが重要だ」 という点だと思います。
【上掛】では今日の鼎談の最後ですが、 2日通しての総括的な議論をお願いしたいと思います。
◆状況に応じた場づくり
【浜岡】
 コミュニケーションの分散会で感じたのは、 個配云々ではなく、 個人を見ていくことなのですね。 個人の暮らしや生き方をきちんと見て、 それをサポートできる仕組みを考えないといけないというのは、 よく実感することです。 大学での教育のあり方を見ても、 単に少人数教育云々ではなくて、 一人ひとりの学生を4年間どうやって伸ばしていくかという対応の仕方が求められている。 一人ひとりの個性を、 きちんとサポートして、 4年の間に伸ばして、 次のステップへ…というようなきめ細かさが、 生協の仕事にも求められているのではないかという気がします。
【川口】
 まず一人ひとりに商品を届ける。 その一人ひとりの状況に応じて、 「場」 としては班をつくる。 そういう発想にしないと、 もう成立しないのではないでしょうか。
【浜岡】
 その 「場」 も、 あまり固定的な場ではなく、 いくつかの状況に応じて 「場」 ができあがっていくと思います。 例えば、 昨年のシンポジウムで報告いただいた、 長崎のララコープの 「ララパーティ」 のようなものも 「場」 のつくり方としては、 新しいかたちでしょうね。 必ずしも班に固定していなくて、 班でもいいし、 それ以外の 「場」 のつくり方も提案する。 だから、 サークル仲間でもいい。 そういう感じになっていくかもしれませんね。
【的場】
 それについては、 一方では多様なゆるやかな組織化のステージがあって、 もう一方では継続的で比較的濃い関係の親密な集団があって、 それらが並存しているのではないかと思います。
【浜岡】
 もうひとつ、 全然語られなかった問題が気になっています。 ジェンダーの問題です。 コミュニケーションも含めて、 組合員と職員の関係を考えても、 ある種のジェンダーバイアスがあることをまったく議論せず、 コミュニケーションが矛盾なく成立する世界というふうに予定調和的に考えてよいのだろうかと思っています。
 職員と組合員間のコミュニケーションの仕方は、 商品などを媒介するから、 ある種、 手段的です。 それに対して、 組合員相互の議論の仕方を見ると、 決してそうではない。 「了解する」 とか、 コミュニケーションそのものを楽しむ。 その辺のギャップを意識しながら、 コミュニケーションそのものの能力や中身をどうしていくか、 それが課題としてあるのかなと思います。
◆改めて、 役職員のありようが問われている【川口】
 その話は職員教育にもつながりますね。 私は、 マネジメントや処遇の問題を提起したけれども、 共同購入の新しいコミュニケーションを切り開くには、 職員のありようも大きく問われます。 コミュニケーションの手段にたけるだけではなくて、 暮らしを考え、 暮らしを知るところから職員教育をやっていかないといけないという感じですね。
【的場】
 手段と目的を分離したコミュニケーションは、 かなり進んだコミュニケーションなのです。 もともとコミュニケーションというのは、 ドロドロしたものだと思うのです。 その意味で人のバナキュラな (場所に根付いた固有な) あり方が重要ではないでしょうか。 システムはそれらを支援する役割に徹するべきだと思います。
【川口】
 その意味では、 若森さんがお話のなかで、 事業のトップが逃げないで組合員と率直に議論していることをくり返し強調されていたことが印象的でした。
【的場】
 若森さんも同じことをおっしゃっていたと思いますが、 毛利さんは、 生協では、 つきつめて考えることが弱くなっているのではないか、 と指摘されました。 実は、 これが変化を起こすのに最大の障害なのです。 研究所としても肝に命じなければならないと思っています。
【上掛】最後に、 シンポジウム参加者からの評価に関することですが、 感想文を読んだ感じでは、 わりあい職員の意見が多くて 「とても参考になった」 とか 「共同購入でがんばりたい」 とか、 今回のメッセージを、 職員のかたにはかなりとらえていただいた感じがしますね。
 2日間にわたったシンポジウム報告と議論を、 今日の限られた時間でお話いただき、 ありがとうございました。 2日間の内容は後日、 コープ出版社よりハンディな本として刊行される予定で、 それをまた楽しみにしていただきたいと思います。