『協う』2005年4月号 視角
「環境税」 とその論点
早川 光俊
1 環境税とは
環境税とは、 環境への負荷が大きな製品や活動に対する税負担を重くし、 反対に環境保全に役立つ製品や活動への税負担を軽くすることにより、 社会の行動パターンを環境保全的な製品や活動に転換するよう誘導する税制を言う。
例えば、 地球温暖化防止のため、 地球温暖化の原因となる炭素の含有量に比例した税金をかける炭素税や、 廃棄物に課税する廃棄物税などがその例である。
しかし、 こうした環境負荷の低減を課税目的にする税だけでなく、 環境保全に役立つ設備などに対して税負担を軽減する法人税や所得税の特例措置、 廃棄物課徴金などの環境負荷の低減を目的とした課徴金、
環境負荷の低減を目的とはしていないが結果として環境負荷の低減となっている石油税や自動車重量税なども環境税と呼ばれている。
2 環境税の特長と問題点
環境税は、 公害問題などで大きな力を発揮した規制的措置などに比べ、 以下のような特長があるとされている。
■地球温暖化のような環境問題は、 排出源が消費者も含め多岐にわたり、 規制的措置は現実的ではないが、 炭素税などの環境税は、 消費者を含めて課税の対象にできることから、
あらゆる排出者の二酸化炭素削減を促進できる。
■規制は一度目標値をクリアしてしまうとそれ以上の努力を促すインセンティブ (動機づけ) が働かなくなるが、 環境税は継続的に環境保全の効果を発揮する。
■環境悪化の原因者に、 原因物質に応じた環境コストを負担させることにより、 公正な市場を確立することが可能となる。
■税収を社会保険料の軽減などの雇用促進などに活用することで、 環境保全と経済・雇用拡大という二重の配当 (利益) を享受できる。
一方で、 以下のような問題点も指摘されている。
■環境税は規制的措置に比べて、 どれだけ削減できるか効果がはっきりしない。
■税収の使い方によっては環境保全に役立たない可能性があり、 単なる増税になりかねない。
■消費税と同様に、 低所得者層に加重に負担がかかる逆進性が生じる。
■炭素税などは、 暖房などで灯油の需要が多い寒冷地に、 より税負担が重くなる地域的不公平が生じる。
3 環境省の環境税の提案
昨年11月5日、 環境省は京都議定書の6%削減を達成するための追加的対策・施策として 「環境税の具体案」 を発表した。 この環境省の具体案では、 炭素1トン当たり2400円の環境税をかけ、
1990年比で4%程度の温室効果ガスの削減を確保するとしている。 この案では、 かかる税金は電気 1kWh 当たり0.25円、 ガソリン1リットル当たり1.5円で、
一世帯当たりの負担は年間3000円程度とされている。
環境税の導入には賛成するが、 今回の環境省の提案には以下のような問題点も指摘されている。
■ガソリン1リットル当たり1.5円程度の税率では、 税率が低すぎて大きな効果が期待できない。
■ 「政策的に必要なものには税の減免」 などという曖昧な表現で、 エネルギー多消費産業などに軽減措置を設けようとしていることは、 軽減措置の乱発になりかねない。
■税収を温暖化対策に充てることは一般論としてはよいが、 税収は林道建設や原発推進などではなく、 自然エネルギーなどの CO2 削減効果が高く、 かつ他の環境負荷の低いものにすることを明記すべき。
■税収を地球温暖化対策に充てることに過大な評価をし過ぎている。
■軽油の税率をガソリンの半分程度に設定することは、 ディーゼル化を促進し、 道路沿道の大気汚染激化する恐れがある。
4 地球温暖化防止と環境税 (炭素税)
日本の温室効果ガスは、 1990年に比べて8%もその排出量が増えてしまっており、 現在の温暖化対策がすべて実施されても、 2010年にエネルギー起源の二酸化炭素排出量は5%も増加してしまうと試算されている。
とくに規制の困難な運輸部門や業務や家庭部門で排出量が増えていることから、 削減目標を達成するために炭素税の導入は必要だと思う。
しかし、 環境税の導入だけで議定書の削減目標が達成できるわけではない。 6%削減を達成するためには、 環境税だけでなく、 規制的措置や、 産業界の自主行動計画の義務化
(協定化) などの、 多様な政策を総動員する必要がある。
また、 環境税の導入と併せて、 環境への配慮の乏しい既存の税制や財政のグリーン化 (例えば、 環境破壊的な公共事業の中止や、 エネルギー供給・利用などに対する優遇税制の抜本的な改革、
環境予算の大幅な増額などの政策) も不可欠である。
そして、 こうした環境税制の検討に際し、 徹底した情報公開と、 市民参加の保障が必要である。
はやかわ みつとし
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議
(CASA) 専務理事