『協う』2005年4月号 書評2

環境と経済の両立をめざして
田辺 繁朋
こうち生協
くらしづくりグループマネージャー

  『環境再生と日本経済
-市民・企業・自治体の挑戦-』
三橋規宏著
(岩波新書、 2004年12月、 700円+税)

私自身、 1956年生まれで、 小学校入学前後、 洗濯機・カラーテレビ・冷蔵庫が次々と家に置かれていく日本の高度経済成長とともに育ち、 大学に入る前後から、 第一次・第二次石油ショックの狂乱物価の時代、 90年代のバブル崩壊時代も経験してきました。 この書には、 そんな時代を生きてきたものが、 あらためて考えさせられるようなことがありました。
 まず、 第1章では、 自然環境の復元に挑む製紙の町・静岡県富士見市の取組みでは、 製紙業の省エネ化や CO2 排出量の削減とともに、 煙突除去などによる美観の復元と地震対策が進んだことを紹介しています。 また、 茨城県霞ヶ浦の失われた自然を再生させる取組みでは、 従来のコンクリート型公共事業から、 自然の復元・保護と両立する公共事業への切り替えがすすみ、 その中で、 9万人の市民や170の小学校もアサザ (水草) の増殖に取り組んだことが紹介されています。 公共事業がボランティア活動といっしょに取り組まれていることは驚きでした。
 第2章では、 地域の特産物が環境へ貢献するのと同時に地域の経済力や価値を高める事例として紹介されています。 例えば、 滋賀県愛東町から始まった 「菜の花プロジェクト」。 他には、 南信州・飯田市の中学生によるりんご並木づくりや市と事業所が協力して環境 ISO を取得する取組みも描かれています。 奇しくも、 こうち生協では05年度中に環境 ISO 14001 取得の取組みが始まろうとしています。 それが環境負荷の軽減、 作業や仕事の効率化と、 経費削減になるだけでなく、 労働環境の改善になることも学ぶことができました。
 第3章では、 ベルトコンベアーによる大量生産から一人で最後まで組み立てるセル生産方式への転換で、 低コスト・低エネルギーで少量多品種の生産が可能になった事例や、 環境 NGO からの強い働きかけでノンフロン冷蔵庫を開発した結果、 業績改善にも結びついた事例が紹介されています。
 第4章は、 どんどん物を作るフローの時代から、 あるものを上手に活用して大事にするストックの時代への歴史的推移をのべています。 確かに、 レンタルやリース産業、 リサイクル・中古販売・家の改築・漫画喫茶・インターネットなど、 以前に比べて成長してきており、 環境への配慮といった、 生産にサービスも含めた経済活動が、 環境再生と日本経済の両立を支えるとの指摘には共感するものがありました。
 生協は、 消費者のニーズに応えて広がり、 今、 一人ひとりの組合員の声に応えることも大事にしています。 「食の安全・安心」 といっしょに、 「環境への配慮」 や 「人へのやさしさ」 などの取組みでも、 ストックの時代に対応した活動が切実に求められていると思います。
 さて、 私個人のくらしはといえば、 原チャリでも通勤できる距離なのに、 わずか60キロの肉体を1トンを越える装置で運ぶという非効率です。 反省することしきりです。