『協う』2005年4月号 書評1
ヒトと環境の絆
金尾 滋史
多賀町立博物館学芸員
滋賀県立大学大学院環境科学研究科
『自然再生
-持続可能な生態系のために-』
鷲谷いづみ著
(中公新書、 2005年1月、 720円+税)
20世紀は 「開発の世紀」 と呼ばれ、 21世紀は 「環境の世紀」 と呼ばれるようになった。 開発は確かに私たちにモノという豊かな恵みをもたらしたが、
一方で、 自然界から豊かな恵みを失なわせるきっかけとなった。 しかし、 普段私たちにはほとんど関係のないような生き物や自然が失われたことが、 私たちにはどのような影響を与えるのだろうか。
トキやコウノトリの絶滅はいったい何を意味するのだろうか。
本書は 「生物多様性」 をキーワードとして、 生態学の立場から、 まず自然界と人間にとっての生物多様性の重要性について述べている。 ヒトも生態系の一員であり、
健全な生物多様性を維持することは、 人間の健全な生活を送るためでもある。 さらに、 「生物としてのヒト」 と環境との関係を時系列的に紐解き、 本当の共生とは何か、
そしてその関係が崩れた現在、 これをどう修復させ発展させる可能性があるのか模索している。
ところで、 私たちの生活の場として管理されてきた水田や里山には多くの生物が棲みつき、 独特の生態系を築いてきた。 私もそんな意味深 (!?) な生態系に興味をもち、
今日も田んぼで網を片手に魚を追いかけて研究をしている。 本書においても、 水田や里山など二次的自然における生物多様性の重要性とそれらの保全に関しては章を立てて多く触れられている。
アマゾンのような原生林ではなく、 人間と深い関わりをもってできた自然には、 とりわけヒトと環境との共生が、 自覚的に追求されなければならないというのである。
しかし、 そのような環境までもが失われつつある昨今、 それらを含めた自然を再生することにはどのような意義があるのだろうか。
それは、 著者が 「あとがき」 でも述べているようにヒトと環境の絆、 そして人と人の絆を取り戻すためでもあり、 そのための自然再生といえる。 本書はそのような理念のこめられた自然再生・生態系保全に関する入門書ともいえるだろう。
なお、 本書には日本、 イギリス、 ニュージーランドを例として、 国家レベルでの自然再生事業が紹介されているが、 私自身はもっと自らが活動・実践できるようなレベルの自然再生の事例も紹介してほしかったと感じている。
しかし、 現在では多くの地域で自然再生・生態系保全に関わる活動事例が紹介された本も多く出版されているので、 本書と併せて読まれることをお薦めしたい。