『協う』2005年4月号 コロキウム
生協の環境活動について
NPO 法人 コンシューマーズ京都
理事長 原 強
1 はじめに
1997年12月に開催された地球温暖化防止京都会議 (COP3) で採択された 「京都議定書」 が2005年2月16日に発効した。 「京都議定書」 は、
日本の温室効果ガスの排出量を6%削減することをもとめている。 しかし、 現在の取組み状況のままでは目標達成がきわめて危ぶまれている。 他方で、 地球環境保全のためには温室効果ガスの排出量を半分、
あるいは4分の1にまで減らす必要があるとのレポートも出されている。 このようなレベルの削減は、 これまでの取組みの延長線上ではとても達成できない。 まさに発想の転換、
エコ革命が必要なのである。 国や自治体の政策も、 企業の取組みも、 わたしたちのライフスタイルも思い切った転換が必要になるであろう。
このようななかで、 生協においても、 ■環境マネジメントシステム、 ■環境コミュニケーション、 ■グリーン購入と環境配慮商品の普及などを柱とした環境経営の確立をめざす取組みがはじまっている。
本稿では、 その現状を確認しながら、 生協の環境活動のこんごの課題を提示してみたい。
2 生協の環境経営の課題
(1) 環境マネジメントシステム
環境マネジメントシステムとは、 企業や組織のミッションや理念にてらして作成された環境方針のもとで設定された目的・目標を実現するために、 PLAN-DO-CHECK-ACT
というマネジメントサイクルを回していくためのシステムである。
環境マネジメントは企業や組織の自主的な取組みというものの、 現在では、 多くの企業が国際標準化機構 (ISO) の環境マネンジメントシステム規格である
ISO14001 に準拠したシステムを構築し、 認証機関の認証をうけている。 その数はいまや17000を超える状況にある。 認証をうける企業の業種としても製造業にとどまらず流通業もふくめて広範囲に及び、
最近は自治体なども取得する事例がめだちはじめた。 また、 中小企業の取得事例もふえはじめている。
生協でも ISO14001 認証取得事例がふえ、 現在では70をこえる事例を数える状況にある。 その多くが地域生協であり、 認証後3年が経過し、 更新審査をうける生協もめだっている。
また、 生協の環境マネジメント関係者のなかで審査員資格の取得者もめだちはじめている。
システムの根幹になる環境方針、 目的・目標については組織が自主的に設定できるので、 企業のなかには 「紙・ごみ・電気」 といわれる範囲のマネジメント対象項目にしぼった認証事例も見受けられるが、
生協の場合、 総じて幅広い目的・目標の設定が行われている。 とくに、 最近では CO2 削減目標を設定して取り組む事例が数多くみられることは評価できる。
2004年12月末に、 ISO14001 規格の2004年版が発行された。 これから経過期間を経て、 順次、 新規格対応がすすむことになる。 生協でも当然、
その対応が求められることになる。 今回の改訂では品質管理マネジメントシステムの規格である ISO9001 (2000年版) との両立性が配慮されたのと同時に、
要求事項の明確化が意識された。 とくに、 適用範囲について 「この規格は、 組織が管理できるもの及び組織が影響を及ぼすことができるものとして組織が特定する環境側面に適用する」
とされたことは重要なポイントのひとつである。 すなわち 「組織が管理できる」 直接的な環境側面だけでなく、 「組織が影響を及ぼすことができる」 間接的な影響側面についても適用範囲と解釈が明確にされたのである。
この立場からすれば、 企業には、 商品や原材料の調達先から末端ユーザーによる廃棄物の処理にいたるまで、 「サプライチェーン」 全体を視野にいれた取組みが求められるからである。
生協では、 従来から、 取引先との関係や供給する商品の環境負荷要素への配慮など、 「生産から廃棄まで」 を視野にいれてシステム構築を行ってきたといえるが、
今後より積極的に取組みをすすめ、 その成果を広く情報開示していくことが必要であろう。
また、 生協としてはコンプライアンス経営という立場から、 生協がうけいれる 「法的要求事項及びその他の要求事項」 についても積極的な対応をしていくことが求められる。
すなわち、 法的要求事項とともに、 生協がうけいれている 「その他の要求事項」 は何かを明示してマネジメントをすすめていくことが必要なのである。 とくに、
地域の自治体との関係、 地域の諸団体との関係で求められている課題を生協全体の課題として取り組む積極的な姿勢を期待したい。
よく指摘されることだが、 ISO14001 の認証取得はそれ自体が目的なのではなく、 システムを維持しながら本来業務の改善・効率化につなげていくことが必要なのであり、
効果をあげた生協の事例がどんどん紹介されていくことを望みたい。
ISO14001 の未取得生協については、 環境マネジメントシステムについてどのような対応をしていくのかを明確にすることが、 これまで以上に求められてくるであろう。
環境マネジメントシステムというとき、 ISO14001 の認証がすべてではないので、 自主的なマネジメントシステムを構築していくことでもよい。 また、
環境省がすすめている 「環境評価活動プログラム・エコアクション21」 や 「京都・環境マネジメントシステムスタンダード (KES)」 など、 各地でみられる簡略版の環境マネジメントシステムに準拠するのでもよい。
いずれにせよ、 生協が地域社会の一員として、 環境問題のリーダーとして、 その役割を発揮していくうえでは、 この課題はどうしてもクリアしなければいけない課題であろう。
(2) 環境コミュニケーション
企業の環境対応の概要とその成果をまとめた 『環境報告書』 を発行する企業がふえているが、 生協でも 『環境報告書』 を作成し、 生協内コミュニケーションと生協外コミュニケーションに活用する事例がふえている。
日本生協連の集約によれば、 50近くの生協が 『環境報告書』 を発行しているという。
生協ではどちらかというと生協組合員への説明責任をいかにはたすかということが基本的に考えられてきたが、 こんごは社会的な責任として生協の環境活動について広く説明し、
理解をもとめていく 「環境コミュニケーション」 が必要になってくると考えるべきであろう。 『環境報告書』 はその際の基本ツールになるものであり、 生協らしく
「わかりやすさ」 と 「誠実さ」 をもつとともに、 内容的にも充実した 『環境報告書』 が発行されることを期待したいと思う。
『環境報告書』 に記載すべき内容については日本生協連が 『環境報告書ガイドライン』 (2000年4月) を発行しているが、 環境省も 「ガイドライン」
を示している。
環境省 『ガイドライン』 の直近のものは 「2003年版」 だが、 ここでは、 ■基本的項目、 ■事業活動における環境配慮の方針・目標・実績などの総括、
■環境マネジメントに関する状況、 ■事業活動にともなう環境負荷及びその低減に向けた取組みの状況、 ■社会的取組みの状況という5分野にわたり25項目の 「記載することが重要と考えられる」
事項が提示されている。 「2003年版」 で付け加わった項目としては、 「事業活動のマテリアルバランス」 「環境に配慮したサプライチェーンマネジメント等の状況」
「社会的取組の状況」 などがあげられるが、 とくに 「社会的取組の状況」 は 『持続可能性報告書』 『社会的責任経営 (CSR) 報告書』 との関係でとりあつかいに工夫が必要な部分になっている。
企業の 『環境報告書』 においても、 このような事情をふまえ、 2004年版の 『環境報告書』 から少しイメージが変わったものがみられるようになった。
環境会計に関わる情報については、 以前からも掲載すべき事項であったが、 その集計方法などがレベルアップしている。 また、 『環境報告書』 の透明性を高めるために、
監査法人などもふくめて第三者のコメントをもとめるという傾向が強まっている。
生協の 『環境報告書』 を編集発行するにあたっては、 これらの動向も視野にいれておくことが必要というべきであろう。
ところで、 生協の 『環境報告書』 には多くの場合 「生協環境監査委員会」 報告書とそれに対する環境担当役員のコメントがついている。 「生協環境監査委員会」
は、 学識者、 NPO などの中立性をもつメンバーに生協組合員等が加わり構成されている場合が多いが、 この 「委員会」 の位置づけや構成についても、 さらに透明性や公平性を担保するという視点から見直しが必要になってくるのではないか。
(3) グリーン購入と環境配慮商品の普及
グリーン購入とは、 「購入の必要性を十分に考慮し、 品質や価格だけでなく環境のことを考え、 環境負荷ができるだけ小さい製品やサービスを、 環境負荷の低減に努める事業者から優先して購入すること」
(グリーン購入ネットワーク) とされる。 2001年4月にグリーン購入法が施行されたことから、 行政機関や公共団体にとどまらず、 企業においても、 グリーン購入への取組みが活発になっている。
全国的なグリーン購入ネットワークに加え、 滋賀県をはじめ県段階のネットワーク組織が活動を展開している。 最近、 京都府でも京都グリーン購入ネットワークが結成されたが、
都道府県段階のネットワークとしては8番目のものだという。
環境問題に熱心に取り組む企業は、 備品や消耗品の調達に関わってグリーン購入を意識的に強め、 それを環境マネジメント対象項目に設定する事例もみられる。
生協の備品・消耗品の調達に関わっても、 当然ながら、 計画的なグリーン購入の取組みをすすめる必要がある。
他方では、 生協は日常的に商品を供給していることから、 環境配慮商品の普及について格別の取組みが求められている。 それだけに、 生協の環境配慮商品の基準はどのようなものか、
それは生協内外で共通の認識になっているか、 パートナーとなる生産者や取引先とその基準をまもるためにどのような協同の取組みが行われているのか、 商品にともなう環境情報はどのように提供されるシステムになっているかなど、
積極的に情報発信することを期待したい。
以上、 3つの点から生協の環境経営の取組みの状況をみてきたが、 最後にいくつかの課題を指摘しておきたい。
ひとつは、 ようやく発効した 「京都議定書」 との関係で、 CO2 削減が 「法的要求事項」 になったと考えるべきである。 生協の環境マネジメント対象項目に
CO2 削減の課題をかかげることはもちろん、 CO2 削減数値目標を具体的にかかげ、 実効性ある取組みをいかにして実現していくのかということが今後問われるであろう。
もうひとつは、 中小規模の生協や医療生協、 職域生協などが、 「手間」 や経費をかけずに効果的な環境マネジメントをいかにすすめるのかという課題については、
日本生協連や県連のレベルでモデル開発の取組みがすすめられることを期待したい。
また、 環境経営と組合員主権という点について総合的な見直しをすすめることを課題として示しておきたい。 環境マネジメントサイクルのなかで、 組合員主権はどのように位置づけたらよいのか、
あらためて考える機会をもつようにしたい。
3 組合員とともに
生協の総合力を発揮して
いうまでもなく、 生協の環境活動は、 以上にとりあげたような環境経営の確立の課題にとどまるものではなく、 組合員自身の多彩な活動を基礎に、 生協の総合力を発揮したものでなければならない。
多くの生協では、 組合員活動として、 リサイクル活動、 マイバッグ持参活動、 環境測定、 身のまわりの自然観察会、 環境家計簿活動、 環境配慮商品の普及、
植樹・間伐ボランテイア、 太陽光発電などの自然エネルギー普及など、 実にさまざまな活動がすすめられている。 また、 生協が活動する地域の自治体の環境政策への参画、
パートナーシップ型活動への参加の事例も数多くある。 環境 NGO などとの連携した温暖化防止の取組みもある。 日本生協連では、 これらの活動をさらにレベルアップするために、
教訓的な事例を広く紹介するための活動を積極的にすすめている。 この間、 毎年、 日本生協連として 『わたしのまちのエコロジー (環境活動事例集)』 を発行しているが、
ここに紹介された活動事例などから学び、 足もとから環境活動の輪をひろげていきたいものである。
この機会に強調させてもらいたいのは、 生協の環境活動が生協のなかで自己完結するのでなく、 社会にむかってその活動を広くアピールし生協への共感の輪をひろげていくこと、
さらに、 「地域社会の一員」 として環境調和型社会システム形成のために生協の総合力をいかした積極的な提案と実践をすすめていくことに力をいれるということである。
これからは、 地球温暖化防止という点でも、 循環型社会形成という点でも、 環境汚染対策強化という点でも、 足もとの地域からさまざまなモデル事業がはじまるものと思われる。
京都市では 「地球温暖化対策条例」 の施行にともない、 各種の取組みが開始されるであろう。 京都府でも地域温暖化防止のための 「条例」 制定の準備がはじまるなど、
同様な動きが全国各地の自治体でもはじまるであろう。 そのとき、 一定の事業規模をもって継続的な事業をすすめ、 また、 組合員の組織率が相当なレベルに到達している生協が、
積極的に参画することにより、 いっそうモデル事業が軌道にのりはじめる機会もでてくるであろう。 このような条件にある生協には地域で検討されているさまざまな取組みに加わり、
地域の諸団体からの期待にこたえて、 生協に積極的な役割を発揮してもらいたいと思う。
また、 生協が地域社会に積極的に貢献するという立場から、 毎年度の事業剰余の一部を積み立てたり、 牛乳パックなどのリサイクル収益やレジ袋の販売益を積み立てて
「環境基金」 制度をもち、 地域の市民団体などの環境活動への助成を行っている事例がある。 「ちょっと支援があれば」 と願う市民団体からすれば、 こうした制度は本当にありがたいものである。
生協からの支援でできた活動の発表会や交流会で、 その成果が交流されていくというのもすばらしいことだと思う。
4 おわりに
この間の異常気象が示すように、 地球温暖化問題はいまや 「まったなし」 の局面にある。 「京都議定書」 発効を機に国をあげて本格的な対策が具体化されるであろうが、
このようななか、 生協がこれまで以上に環境活動を積極的に推進し、 その役割をはたしつづけていくことを願っている。
末尾になるが、 本稿を執筆するにあたり多くの生協から 『環境報告書』 をいただいたこと、 日本生協連環境事業推進室の小野寺浩氏に貴重な助言をいただいたことを記しておきたい。
<参考資料> 日本生協連発行 『生協の環境レポート2004』、 『日本生協連環境報告書2004』、 『わたしのまちのエコロジー』 (VOL1-4)
プロフィール
原 強 (はら つよし)
2003年、 京都消費者団体連絡協議会の NPO 法人化にともない現職。 レイチェル・カーソン日本協会専務理事。 京都温暖化防止京都ネットワーク共同代表。