『協う』2005年2月号 エッセイ

あなたへ贈る 「白の一滴、 心の一滴」 -酪農家の心を食卓へ-
大山乳業農業協同組合
代表理事組合長 幅田 信一郎

 近年、 国内の牛乳消費量が減少している。 一昨年は冷夏の為といわれたが、 昨年は、 一転して暑い夏であったにもかかわらず同じような傾向であった。 あまりの酷暑であったためだという見方もある。
 しかし、 どうも単純に天候のせいだけではなく構造的のものでないかとの見方のほうが大勢である。 なかでも、 健康志向の高まりのなかで、 機能性を謳った豆乳、 茶系飲料、 スポーツドリンクなどの消費がよく伸びて、 その分、 牛乳離れが進んでいるのではないかと言われている。 牛乳陣営の我々としては、 健康に役立ち、 しかも多面的な機能を有する牛乳が、 他の飲料に浸食されるということに忸怩たる思いがある。
 先頃発表された 「国民の栄養に関する指針」 のなかでは、 若年層のカルシウムの所要量が二〇~三〇%程度増やされている。 そのためには良質なカルシウムの供給源である牛乳の消費を増やす必要がある。 残念ながら、 高校生から二〇代にかけての年齢層で、 牛乳の消費がそれ以前の年代に比べ極端に落ちてしまっているのが現実である。 巷にはいろいろな食品があふれ、 様々なメディアでコマーシャルが流されると、 若年層ほどその影響が大きいのだろうか。
 こうした牛乳離れの昨今の風潮に対して、 その流れを何とかくい止めなければと思うものの、 なかなか有効な手だてがないのも事実である。
 一方、 酪農の現場では、 環境問題で段々と規制が厳しくなり、 そのためのコストがかなり上昇してきている。 さらに、 国際化の流れのなかでWTO、 FTA交渉の進展で、 輸入品との競争にさらされることになるのではないかとの不安もある。 幸い、 農業分野のなかで酪農は後継者が最も確保されている分野である。 意欲ある彼らが元気で取り組んでくれなければ酪農は衰退の道をたどることになる。 酪農は草 (粗飼料) を作り、 それを牛に与え、 牛乳を生産するという自然のなかに組み込まれた息の長い産業である。 ひとたび衰退すれば、 その復活は容易なことではない。
 国民の基幹食料である牛乳を、 日本人の食生活のなかでしっかりと位置づけ、 自信を持って生産に励むことのできる環境を確立しなければならない。 そのための特効薬はないものの、 最も重要なことは、 消費者のみなさんに酪農を理解してもらい、 強力な支援者になってもらう取り組みを地道に続けていくしかないのではないか。 そんな思いをより強くしているこの頃である。