『協う』2005年2月号 書評1
地域社会農業のネットワーク
廣瀬 佳代
『協う』 編集委員
『日本農業のグランドデザイン』
蔦谷栄一著
農文協 2004年11月 2667円+税
消費者運動に携わっていると、 「国産の安全な農産物を食べたい」、 「日本の農業を守る」 という言葉をよく耳にします。 わたしも、 国産のものを食べることが日本の農業を守ることにつながるだろうと思い、
自分で買い物する野菜や肉などは、 「地産地消」 をこころがけています。 また、 わたしのまわりには、 そういう人がたくさんいます。 でも、 だからといって食料自給率の向上や日本の農業の発展に貢献しているという実感もあまりもてないでいます。
本書では、 日本の農業の将来像として 「地域社会農業のネットワークでつくる田園都市国家」 を掲げ、 まさに農業が地域社会のなかに当たり前に在る状況を目指すべきとしています。
「生命」 という言葉が頻出するのも、 農業が命そのものを育む存在という筆者の強い思いのあらわれでしょう。 地域社会のなかで農業が見え、 肌で触れることがいかに大切かが語られています。
農業は、 厳しさという固定観念で語られることが多くなっています。 でも筆者は 「地域性、 多様性にとんだ自然や高い農業技術水準、 都市と農村の極めて近い時間距離」
に光をあて、 水田、 草地、 林地の活用、 環境保全型農業、 地産地消から地域循環の農業などの視点から、 日本農業を語っています。 農林中金総合研究所の研究者ならではのビジョンだと思います。
一方で、 「食と健康」 という観点からの農業についても、 字数を費やしてふれています。 1960年代と比べて、 炭水化物の摂取が減り、 たんぱく質、
脂質が増えたという食生活の変化と食料自給率をリンクさせて語ることが必要で、 輸入飼料から国産飼料への切り替えやごはんを中心とした 「日本型食生活」 をすすめていくことの重要性を示しています。
たしかに国産の米穀類の摂取が増え、 輸入に頼るたんぱく質や脂質の摂取が減れば、 自給率は向上するでしょう。 ただわたしは、 「食育」 を日本農業の発展という側面からすすめようとしている点に、
違和感を強くしています。 「飽食、 食の乱れが生活習慣病を招き、 食料自給率の低下をも招いている」 と言われると、 まるで食料自給率向上のために 「正しく」
食べることを求められているように感じるからです。
「食べる」 というごく個人的なことでも、 「食料自給率の向上」 を抜きに語れないのは、 「農業」 の側からはいたしかたないことなのかと少し意地悪なことを感じてしまいました。