『協う』2005年2月号 特集

座談会
食と農をつなぐ

 最近、 食と農の距離が離れたと盛んに強調される。 その中で実際に、 生産者と消費者はどのような思いを抱えているのだろうか。 今回、 奈良県で有畜複合農業をされ、 そこで収穫された野菜やハム・ソーセージを加工・販売している泉澤さんのゲストハウス 「ばあく」 に、 生産者や生協組合員の方々にお集まりいただいて、 自由に語り合ってもらった。


■座談会出席者 (発言順)
○司   会 北 川 太 一 さん (京都府立大学・農学部) ○生協組合員 竹 中 智 巳 さん (奈良・ならコープ)
○生 産 者 畑  敏 之 さん (和歌山・野菜農家・紀ノ川農協) 川 副 幸 子 さん (大阪・おおさかパルコープ)
泉 澤 光 生 さん (奈良・養豚農家)○専門技術員 角 山 美 穂 さん (奈良県農業技術センター)
泉澤 ちゑ子 さん (奈良・ばあく)


【北川】「ばあく」 のレストランの美味しい料理をいただいた後で眠たくなってきましたが… (笑)。 まずは自己紹介と、 食、 農に関わって、 今取り組んでいることなどを聞かせてもらえますか。
【畑】和歌山県那賀町で、 野菜作りに従事しています。 今はホウレン草や小松菜の移植栽培をしています。 紀ノ川農協は、 これまで東京や大阪など大消費地域へ供給してきましたが、 自分の足元で地域の人と共に農業を守っていかないと、 ものを作る力が年々弱くなるということで、 1995年に那賀町で 「有機のまちづくり」 を宣言、 みんな手をつないで町づくりを発展させていこうと活動しています。 紀ノ川農協の組合員だけで生協と産直をして、 組合員の生活が豊かになるだけではだめだと思うんです。 まちづくりの中に生かしていくことが大事ではないかと思っています。
【泉澤 (光)】ここ奈良県五條市で、 豚と米と野菜と柿の有畜複合農業で、 豚を飼ってその堆肥で農作物を作る仕事をしています。 20年前に、 家内が共同経営で 「ばあく」 という、 手作りハム・ソーセージ工房とレストランを始めまして、 そこへ主に豚を供給しています。
【泉澤 (ち)】「ばあく」 の経営で代表をしています。 私も夫も大阪でサラリーマンをしていましたが、 専業農家をするということで帰ってきました。 始めてから実感したんですが、 今は、 土や風の匂いを知っている人と、 そういうものがわからない、 鉄筋コンクリートの中に住んでいる人との差が本当に広がってきて、 人間関係を作るのも難しい状態があるように思います。 私達の気持ちもなかなか届かないという中で、 勉強しながら現在に至っています。
【竹中】奈良の大和高田市から来ました。 主婦ですが、 実家の父が農作物を作っています。 父が作る野菜は無農薬なので、 キュウリも大根も不揃いですが、 葉っぱも全部安心して食べられます。 今、 化学肥料や添加物があふれている中で、 そうじゃないものを作っている方、 販売している方がいてくださるのはすごくありがたいと思うし、 それを望んで買い求める消費者もいるので、 これからも続けていただき、 応援させていただきたいと思います。
【川副】大阪の枚方市から来ました。 おおさかパルコ-プでも、 産直活動に力をいれていますが、 組合員一人ひとりの中に、 まだまだ浸透していないなと感じています。 私自身東京で育ち、 野菜ができるのを目にしたことがなかったので、 野菜を命ある生き物として育てる人がいて、 自分がそれを食べているということを実感できるような機会を、 生協でももっと増やしていきたい。 そういうことを通して、 食べることや農業を大切にし身近に感じてもらえるのではないかと思います。
【角山】奈良県農業技術センターで専門技術員をしています。 特に今は農村の女性起業を支援しています。 生産者と消費者のパイプ役になれればと思い、 ネットワーク作りなどに取り組んでいます。 生産者の方でも生協や消費者の団体と連携を持っているところでは、 勉強して消費者への理解もありますが、 ネットワークのない生産者へ消費者との関わり方をどう支援するか考えています。 また学校給食につなげるために、 奈良県でも小学校との連携にアプローチしています。 農家の人の思いと小学生の興味をつなごうとしているんですが、 ハードルがあり、 難しく感じています。


● 消費者はわがまま?
【北川】それでは、 それぞれの立場から思うところをお話し願えますか。
【泉澤 (ち)】消費者の方へということで。 農家は秋か春に収入があるだけで、 台風などあるとすべて台無しです。 サラリーマンの給料から見ると農家の収益は想像できないと思います。 そういう中で、 できるだけ無農薬の野菜を作って届けたいと思っているんです。 それを理解してもらいたいなと思います。
【泉澤 (光)】生協で御中元と御歳暮を扱ってもらっていますが、 漬込みに20日、 燻製するのに一昼夜、 手作業で梱包したハムを味わっていただきたい。 だから海外旅行などで受取人が不在であると困るので、 在宅確認をとるんです。 しかし電話番号や住所の間違いがあって、 連絡が取れないことがあるんです。 すると 「ごめんなさい、 住所間違ってた?」、 それだけなんです。 私達がどれだけの思いで作っているか、 気持ちのやり場がありません。
【泉澤 (ち)】昨日も、 奈良県内の生活改善グループの集いがあったのですが、 そういうギャップについて思うところがありました。 善良な生産者や消費者を守るということで、 いろいろな法律がつくられてきていますが、 そのこと自体はいいことだと思います。 しかし、 自然相手のものづくりをする人間と、 それを受け取る人間の間を法律だけで割りきろうとすると、 人間関係を絶つより仕方がないという部分が出てくるんですね。
【泉澤 (光)】消費者がわがままなのは仕方がないと思います。 私も車を買うときにはわがままになりますから (笑)。 だから、 生産者と消費者が、 どれだけお互いに理解できて、 歩み寄れるかだと思うんです。


● 埋もれてゆく、 ものづくりの心…
【泉澤 (光)】ところで、 紀ノ川農協では畜産農家との連携はできていますか?というのは、 畜産農家は堆肥が余っているんです。 鶏糞とか日に何トンも出ますから。 有畜農業は、 家畜の糞をちゃんと還元する場をつくらないと成り立たないと思います。 近くに直売所があるのですが、 そこの野菜を買って食べたら全然うまくないんです。 聞くと化学肥料をばらばら撒いている。 大規模にやると、 堆肥やそれを撒くための機械に大きな投資がいるのでできないわけです。
【畑】畜産と堆肥づくりをやっていこうという話はしているけれど、 和歌山県は畜産農家が少なくて、 牛糞や鶏糞は足りないくらいなんです。 僕も有機農業をしていますが、 「移植栽培をしています」 というと、 笑われてしまうんです。 「なんでそんな手間のかかることをするのか」 と。 手間をかけるメリットを話しても相手にされない。 小学生に 「おっちゃん、 有機農業って何よ」 と言われる。 そこで生命あるものを作りだしているということを、 わかりやすく話をするんです。 今は農家にしたって、 自分が生命を生み出しているという気持ち、 それが 「安定供給」 という言葉の陰で霞んできている気がしますね。 そういう気持ちをもう一度、 農家も、 紀ノ川農協の組合員も確認しないと、 自信とか誇りを持つような状況にならないと思います。 ものづくりの心が量の追求の中で埋もれていくのではないかという危機感が強いです。
【泉澤 (光)】有機ということですが、 農作物も豚もそうですけど、 品種も変わりましたし、 高度な技術が必要なんですよ。 きちっと鍛えられた農民が技術を継承しなければ、 いいものは作れない。 また、 それを受け継ぐ人間も養っていかないといけない。 大変苦労があります。 消費者の方には、 何よりも 「うまい」 とか 「まずい」 とか、 はっきり言ってほしい。 そしたら生産者は一生懸命努力するしかない。 それが農家を育てる一番の方法だと思います。 憧れとか嘘八百の有機農業とか、 そういうものではいけない。 豚でもよく、 「黒豚ですから、 おいしいんです」。 とは言いますがおいしい豚なんてなかなかできないんですから。


● 「安定供給」 の苦悩
【北川】今、 畑さんから安定供給という話がありましたが、 泉澤さんはどう対応されていますか。
【泉澤 (光)】安定供給という言葉には悩まされています。 我々は100%できると思っていても、 注文に穴をあけられないので、 3頭の豚のために倍以上の数を育てています。 それで初めて安定供給ができる。 決まった金額で引きとってくれるので、 仕事上連携はとれていると便利なんですが。 3頭は経費が賄えて労賃もでますが、 残りはどうするか、 さらに、 今月は2頭しかいらないということもあります。 全部の豚に同じように20年来ブレンドした餌を食べさせています。 でも市場に出すと価格の低下を余儀なくされてしまいます。 それから、 豚が風邪で熱をだしてグタッとしていても、 安全性から 「抗生物質はやっちゃいけない」 と消費者の方は言われますが、 「今、 助けてやらんと命を失うんです」 と私は言っています。
【泉澤 (ち)】柿でも、 自然相手しかも低農薬なので収穫してみないとどれ位のものになるかわからない。 野菜でも、 虫がついてだめになると、 「それやったらいりません」 となる。 安定供給の面から、 時には 「それでもいい」 という、 理解を消費者に持っていただけるとありがたいと思います。
【竹中】「こういう事情がありましたから、 代替で他のものに」 とか、 「割引して安くします」 ということにはならないんですか?
【泉澤 (ち)】水菜が白菜に代わっても、 昔の人はわかっているから、 「ええよ。 ようあることやから」 となるけど、 今は 「あんなん入ってた。 どんなことしてんや」 と言われたら、 恐くて次には出せません。 作る苦労より、 精神的な苦労の方が大きいんです。 その辺の関係をなんとかできたらと思います。
【北川】先日、 ある園芸農家におじゃましたんですが、 「生協と契約するのは苦労が多い」 と言われていました。 「安定供給が非常に難しい。 規格が厳しく、 注文が多い。 それに対応するのは大変だ」 と。 ちょっと消費者の方々が押されぎみですので… (笑)、 この点から発言いただけますか。
【川副】安定供給を求めている立場としては心苦しいところです。 去年の台風で、 秋から冬にかけて野菜不足がありました。 なかったらないでいいじゃないかと思うわけです。 「ダイコン一本申し込まれたけれど、 収穫が少なかったので半分に…」 とでも。 しかしそれが苦情になるというのは、 今の消費者には自然の中で作っているという感覚が、 なくなってきているということなんです。 工業製品と同じような感覚でとらえているから、 申し込んだら当然買えると思っている。 本来そういうものじゃないわけですね。 一人ひとりの市民が、 農業というのは自然の中で作って、 生命をいただいているというところに立ち返れるかどうか又、 ていねいな説明がされるかどうかにかかっているのではないかと思います。
【北川】当然協同組合にも企業的な側面もあるわけで、 競争に対応しながら、 その一方で協同の部分をどう育んでいくかということだと思います。 組織の規模が大きくなると、 組合員に食や農業の大切さを細かく紹介することができないのでしょうか。
【畑】組織が大きくなると、 僕らの思いが届くのかなという不安はありますね。 生協がいろんな産地を持つのと同様に、 生産者としては、 いろんな販路を確実につくっていくというスタンスが求められているかなと思います。 また、 「地産地消」 という言葉が広がっていますから、 多様な消費者とつながっていく道はあるだろうと思います。 これだけ輸入農産物があふれる中で、 という思いもありますが、 地元の小学校にうかがい、 食育ということで子ども達と接していると、 必ず保護者にも伝わるという感じを持っています。 今は大変ですけど、 地域づくりをして、 産地がこういう思いでやっているということを正確に伝えていけば、 時間がかかっても広がっていくのではないかと思います。


● 実体験ができる場を
【北川】畑さんは、 紀ノ川農協で本当の意味での食育を実践されていると思いますが、 もう少しお話し願えますか。
【畑】今は、 小学校で子ども達と一緒に農業をする取り組みをしています。 トウモロコシや大根の種まきや、 もち米の植え付けをするんです。 現場で子ども達と話をすることで、 心が通じ合うわけです。 農家でないとできないことだと感じています。 また、 実践グループを作って、 紀ノ川農協がバックアップして、 小学校の給食にも野菜を納めるようになりました。 子ども達、 保護者、 先生に農業の現状をわかってもらうことからこの取り組みも広がっています。 普及センター、 紀ノ川農協、 行政などが一つになった、 町をあげての取り組みが生まれてきたと感じています。
【竹中】私も同じ消費者ですが、 都会で暮らす消費者とのギャップを感じて、 次の世代はどうなるのか、 という不安があります。 うちでは 「野菜は虫が食べるほどおいしいのが、 ほんまもんやで」 という話をするんですが、 今のお母さん方は、 「虫がついているから食べたらあかんよ」 と子どもに教えている。 農薬がかかっているのに、 きれいなものがいい。 調理しやすいから真っ直ぐな野菜がほしい、 そういうものを求める人が多くなっているように思います。 幼稚園の時などは、 芋掘りとかしますが、 小学校、 中学校になるとそういうことも少なくなる。 実体験をできる場面が増えないと、 そういう 「思い」 を次につないでいくことはできないのではと思います。
【泉澤 (ち)】昔、 農業をはじめた頃は苦しい中で、 なんとか現金化をしようと、 新しいマンション群ができたら、 そこへ週一回ワンパック野菜を届けることを始めたんです。 その時は、 そこの人たちのやりとりの中で、 こちらも相手の立場や気持ちを知ることができました。 援農にも来てくれたし、 その人たちも自分の父母や祖父母が野菜を作っている姿を見たり、 匂いをかいだりした経験があったから、 そういうやりとりができたと思います。 でも今は、 本当に難しいですね。
【川副】生協も、 今頑張らないといけないと思います。 食の問題は、 私たちが押し進めることのできる最後の世代ではないかと思うんです。 組合員だけでなく、 もっと広く、 地域の人を巻き込んでできたらいいなといつも思っています。


● 憧れの農業では甘い
【北川】十数年前は、 農業は 3K でキツイ、 きたない、 …などと言われていたのが、 最近は農業をやりたいという人が、 憧れもありますけど、 少し出てきているようです。 生産者側、 農村地域にもそれを受け入れる土壌がないといけないと思っていますが、 どうでしょう。
【泉澤 (光)】確かにそういう人はいるんですけど、 育たないんです。 頭でっかちで、 理屈でやろうとするからうまくいかない。 生き物の立場になってものを考えられない人は、 「菜っ葉の気持ちは永久にわからんな」 と思うんです。 野菜の気持ちになったら、 「今、 水やらないといかん」 と思う。 だけど、 「本には今やったらあかんと書いてある」 と言う。 憧れや我流で農業をやろうとして、 やめていった人をたくさん見てきました。
【竹中】広い土地の中で農業をやってみたいなという気持ちがあって、 いざチャレンジしてもなかなかうまくいかない現実がある。 そういう人達に少しだけ土地を貸し出したりして、 それを地主がヘルプしながら育てていくというのはどうでしょうか?
【泉澤 (ち)】白紙の状態で来られるといいのですが、 自分はもう農業をよく知っているんだ、 新しい百姓をめざすんだ、 という思いを持って来られると…。 頭でっかちな人はいくら教えても、 一応聞いてくれるけど、 右から左に流されるだけで、 技術の大切さがわからない。 百姓を甘く見ているなと思います。
【竹中】一日体験などに参加して、 自分にもできた、 楽しかったという思いで、 簡単なものだと錯覚してしまうんですね。 「私、 ソーセージ作った。 楽しかった」 と。 実際体験するのは、 全部の中の一部分だけなのに、 全部知ったような気になってしまいますね。
【泉澤 (光)】体験や遊びで作るならいいんですよ。 でも本物、 商品となるとちがいます。


● 食と農をつなぐために…
【北川】憧れ農業と生業とは別の話ですね。 それでは最後に、 食と農をつなぐために、 こんなことができるのでは、 という点はありますか。
【泉澤 (光)】これだけのギャップがあっても、 何とか次の世代につなげていきたいと思っているんです。 でも若い人達のどこをつつくと反応してくれて、 どうやったら一緒にやっていけるかというところが見えない。 どういうところでお互いが歩み寄って始められるか悩んでいます。
【畑】那賀町の 「有機のまちづくり」 は 「有機農業でまちづくりをしましょう」 という小さなものじゃなく、 まさに 「有機的な人のつながりを作り、 地域の皆で分担してまちづくりをしよう」 という宣言です。 給食でも、 栄養士と月一回話をする。 値段とか規格とか率直な話をする中で、 お互いの理解がどんどん広がってきているように思います。 人と人との話し合いの中でものを生み出す、 そういう姿勢が大事だと思います。 生協も、 消費者と生産者をどうつないでいくかという視点を持つ、 そういうネットワークを組み立てていったら、 必ず解決できると思っています。
【川副】苦労されている農家の方々のお話を聞いて感じたことですが、 大阪だと全国の産地から産物が届く中、 「ここの産地とつながっている」 という、 自分たちが選んだ産地への特別な思いが持てるかどうか、 そのあたりが大事ではないかと感じています。 「“ここ”だから一生懸命やっている思いを汲み取りたい、 応えたい」 と。 生協全体としてもっと産地をアピールしていくことも大事だし、 ジレンマを感じながらも何とかできないかなと、 思ってやっています。
【泉澤 (ち)】奈良県の10年後の第一次産業に従事する人の割合を今のデータをもとにしてみると、 1%位になります。 ものづくりをしない人が増えている中で、 何とか次の世代にバトンタッチしないと。 チームワークを作って、 生産者と消費者が、 農園、 農協の単位で交流を深めていかない限りはどうしようもない。 それが楽しいと若い人たちが継いでくれる。 何とかそういう出会いの場をつくろうと、 今提案しています。 生協と消費者がタイアップして 「自分たちの食料基地はここだ」 というお付き合いをしていく。 農業でも安定した生活ができるということがあって、 農家の気持ち丸ごと食べてもらう、 という 「見えた関係」 にパイプを通すことができないかなと思っています。
【角山】そういう取り組みも、 生産者にゆとりがあってこそできると思います。 生産者に 「自ら伝えたい」 思いがあって、 消費者には収穫体験などを通して現場に足を運んでもらい、 楽しみながらそれを感じてもらう。 しんどいところも含めて、 まずはそこから知ってもらう、 そして、 それを消費者がどう受けとめるかです。 いいとこ取りではいけない、 そういう関係では長続きしないと思っています。 生産者は消費者にどういうことをアピールしたいのか。 そういうものをしっかり持って伝えていく、 そのお手伝いができればと思っています。
【竹中】ならコープでは試食会をしてくださるんです。 生産者が来てくださって、 食べものができるまでの流れを聞き、 それを班の方に伝えています。 「農家の気持ちを丸ごと食べてもらう」 ということは、 本当にそのとおりだと感じました。 生協の取り組みで、 そういう気持ちがもっと消費者に広がれば、 と思います。 また、 実際に体験する場も増やしています。 作った気になるという錯覚もあると思いますが、 まずやってみないことには何も生まれないし、 広がっていきませんよね。 しかし、 イベントで終わるだけでなく、 その前後のフォローも考えていかないと、 つながっていかないのではないかと思います。 インターネットで窓口を作って、 常に新しい情報を得られるような環境があるといいのではないかと思いました。 そうすれば子どもも興味を持って、 参加してみようという気持ちになるのでは。
【川副】少しであっても共感できるところからスタートできたらいんじゃないかと思います。 皆でいろんなところにネットワークを持ちながら、 一緒に進んでいくということを諦めずにやらないと。 ゲームでもテレビ番組でもいい、 そういうものを通してでも、 子ども達の思いの中に浸透していけばいいなと思います。
【北川】ありがとうございました。 農業経済学を専門としている私としても、 反省しないといけない部分もあるんですが、 やはり農業は、 技術、 経営、 くらし (生活) の3つが揃ってこそということを、 いろいろな立場の人がもう一度、 原点に返って考えてみる必要があるのかなと思いました。 まだまだ話は尽きないと思いますが、 このあたりで締めさせていただきます。
(文責:宮川加奈子、 「協う」 編集委員)


■ 座談会を終えて北 川 太 一
 数年前の 『食料・農業・農村白書』 であったと思うが、 都会の子どもたちに 「農業」 からイメージする絵を描いて下さいという調査を行ったところ、 まったく何を書いてよいのかわからない、 という子どもが少なからずいることが紹介されていた。 「食の安全・安心」 にまつわる様々な 「事件」 を持ち出すまでもなく、 食と農の乖離、 すなわち、 流通問題等に起因する 「実質的な距離」 の乖離と併せて、 食することが機械的になり、 そこから農業と結びつかないという 「心理的な距離」 の乖離の問題は、 想像以上に進んでいるようである。 それは座談会でも指摘されていたように、 生産者と消費者、 農村と都市という構図としてのみ捉えるのではなく、 世代間のギャップをどのようにして埋めていくか、 さらには農業・農村で培われた技術、 伝統、 文化等をどのように継承していくかという問題が大きいようである。 出席した生産者は、 いずれも 「農」 という営みを通じてくらし方の提案をしているように強く感じた。 私たちはこれを真摯に受けとめて、 けっして“いいとこ取り”ではなく、 プロセスを大切にした産地との交流を進めていくことが、 今こそ求められているように思う。

ゲストハウス 「ばあく」