『協う』2004年12月号 書評1

流通業の発展と競争の考察
若林 靖永
京都大学大学院経済学研究科教授

『ヨーロッパの大規模流通業
-国際的成長の戦略と展望-』
エンリコ・コッラ著 三浦信訳
ミネルヴァ書房 2004年6月 3500円+税

 本書は、 EU 統合によってますます大規模化・集中がすすむヨーロッパの大規模流通業の動向を包括的に明らかにしたものである。 基本的な戦略、 国際化戦略、 食品・非食品の店舗業態、 流通業者ブランド、 流通企業の組織というように、 大規模流通業の戦略について、 総合的に論じているので、 興味があるところだけでも参考になるし、 小売企業戦略全体を考える上でもためになる。
 たとえば、 国際化戦略の1つとして国を超えた集中仕入れ機構がつくられており、 各国の生協の全国組織を結集したグロサリー分野の連合型集中仕入れ機構である NAF (本部デンマーク) がある。
 たとえば、 食品部門の流通業態については、 食品スーパーなどで提供商品の範囲の拡大と品質の向上、 つまり安売り中心から離れていく 「格上げ」 という傾向が起こるために、 ハイパーマーケット、 さらにはハードディスカウントストア (品揃えが限定的で食品スーパーより15ないし30%安く、 流通業者ブランドが大半) という低価格志向の業態が新たに発展するという傾向がある。 イタリア生協も 「イペルコープ」 というハイパーマーケットを展開しつつある。
 たとえば、 ヨーロッパでは、 流通業者ブランドが飛躍的に発展し、 イギリスでは4割のシェアを持っている。
 たとえば、 チェーンストアの組織構造の特徴は、 仕入機能を販売機能から分離し、 商品部と店舗運営の2つに分かれていた。 それに対して新しい考え方としてカテゴリー・マネジメントが登場し、 カテゴリー・マネジャーは仕入とマーケティングのすべてを担当し、 担当製品カテゴリーの売上と利益の責任を負う。
 このようにさまざまな動向が明らかにされており、 ヨーロッパの流通業の全体像を理解するとともに、 流通業の発展と競争を考察する上での基本資料となるだろう。 さらにヨーロッパの大規模流通業の一部として、 生協がとりあげられており、 生協についての詳しい分析はないものの、 生協がどういう位置にあるのかは理解できる。 ヨーロッパの生協を知りたいという要求にはこたえないが、 ヨーロッパの生協がどのような流通業との厳しい競争の中で戦略展開しているかを教えてくれる。 これは未来の日本の姿かもしれないのであって、 そのような問題意識で本書を検討する意味は大きいだろう。