『協う』2004年10月号 書評2

広い世界の 「入り口」
烏野 純子
『協う』 編集委員

『13歳のハローワーク』
村上龍著
幻冬舎 2003年11月 2600円+税

 この書では13歳という年齢が、 キーワードである。 旺盛な好奇心と多彩な興味こそ、 将来の仕事や職業に繋がる入り口として紹介されている。 それも芥川賞受賞作家が、 淡々と五百以上もの職種の選択肢だけを示している。 既存の職業はもとより、 10年前には考えられなかった新しい職業もあり、 思わず読み込んでしまう。 これまで一生懸命勉強し、 よい学校、 よい会社に入ることだけが将来の安定した生活につながると思われていたが、 今や 「終身雇用」 や 「退職金」 という言葉が消えつつある、 そんな雇用形態の過渡期に入っているなかでの、 13歳の注目である。
 一方では、 起業のすすめも示している。 従事することを拒むならば自分で会社を立ち上げる方法もある。 誰にもできることではないが、 それを職業の選択肢から最初に消去してしまうことはない。 ニーズを的確に掴む能力と経済的な援助があれば、 可能性を花開かせることに繋がる。
 生産者になることも大きな選択肢の一つ。 米・花・野菜など自然や土との生活がぴったりの性格の人もいる。
 自分が13歳の時、 これほど職業選択の幅は広くはなかった。 特に男女の区別無くチャレンジできる現在を羨ましく思う。 親となった今、 子どもから耳慣れない仕事を志していると聞いても、 即座に理解ができるのか。 それはどのような仕事で、 第一それで生活はしていけるのか。 的確なアドバイスはしてやれるのか。 そんな意味ではこの本は13歳に限らず大人の必読書なのかもしれない。
 厚生労働省によると 「ニート」 とよばれる就労意欲がなく職探しもせず通学もしない層は2003年で52万人。 その前の年より4万人増えている。 フリーターとともに若年雇用対策の大きな課題として浮上している。 理由は様々あると考えられるが、 希望する職業に就くことは困難を極め、 努力が報いられない若者が多くいることも事実である。
 少なくとも、 せっかく芽生えた仕事への好奇心を最初から 「無理」 「だめ」 と決め付けてしまわないことが大人の大切な役目だと思う。 13歳で夢見た職業に向かって努力したとしても、 20歳になってその夢が変わっていることもおおいにある。 様々な条件で目標が遠くになったり近くになったりするものである。
 ちなみに、 幼いころ正義感に燃え警察官に憧れていた私の息子は言語聴覚士に、 働くお母さんの強い味方になりたいと保育士を夢見ていた娘はなぜか消防士になりがんばって働いている。 誰かの、 あるいは社会の役に立ちたいという思いだけは、 かろうじて繋がっているようだ。 ひょっとして著者の 「好きだからこそ目指せたもの」 に二人はたどり着いたのかもしれない。