『協う』2004年10月号 書評1

 

もうひとつの地上の星
渡邉 英俊
京都大学大学院経済学研究科
博士後期課程

『人を助ける仕事
- 「生きがい」 を見つめた37人の記録-』
江川紹子著
小学館文庫 2004年4月 600円+税

 著者の江川紹子氏がジャーナリストとして長年にわたりオウム真理教問題とかかわってこられたことは、 多くの人がご存知のことだろう。 本書は、 オウム真理教が掲げた 「人類救済」 なる活動目標にひきつけられた若者への関心をきっかけに、 著者が2002年から2003年末までに実社会で 「人を助ける仕事」 に就いている若者を取材した中から37人を選び紹介した本である。 本書で紹介されている37人は、 NGO スタッフやユニセフ職員といった国際的に活動する人々から調理師や薬剤師まで、 非常に多岐にわたる職業に就いている。 著者は、 俗に 「人を助ける仕事」 といわれる仕事に就く彼らを取材して、 彼らが 「人類救済」 といった考えとは無縁の世界で、 派手な言動からメディアにもてはやされることもなく、 地道に自分の役割を果たしながら地に足をつけて生きている姿に感銘を受けている。
 しかし、 本書の目的がこうした若者の活躍を紹介することだけにあるとするならば、 それは著者の意図を半分しか理解していないことになろう。 現在の若者の就職をめぐる状況に目をやると、 15歳から34歳までの完全失業者数が154万人に達し、 失業の理由として 「希望する種類・内容の仕事がない」 ことを挙げる人が4割をこえる事態となっている (平成16年度版労働経済白書)。 こうした現実について著者は、 現在の若者にとって単に 「生きる」 ことは目標となりにくく、 「よりよく生きる」 にはどうしたらよいのかが大事なテーマになっているのではないか。 そしてそのテーマの困難さが、 モラトリアム期間を長引かせる結果となり、 あてのないフリーター暮らしを送る若者や、 「やりたいこと」 や 「人生の意味」 を模索して袋小路に迷い込む若者を生み出しているのではないかと考える。 そこで本書は、 いわゆるトップランナーではない普通の若者の生き方を取材することで、 社会で仕事に就くための一歩が踏み出せないままでいたり、 踏み出してみたものの挫折を味わってしまった多くの若者に、 あらためて人生と仕事との関係や 「よりよく生きる」 ことについて考えるための材料を提供しようとしているのである。
 本書で著者は、 対等な人間として若者を見る姿勢を堅持しており、 決して高ぶることはない。 1990年代から10年以上も続くリストラや構造改革の嵐のなかで、 未来を危惧する若者や年配の人たちにもお勧めできる一冊である。