『協う』2004年6月号 人モノ地域

直販所が生産者や地域に元気を与える
-グローバル時代におけるローカルな取り組み-


岩佐 和幸 (高知大学人文学部 助教授)   



 最近、 「地産地消」 から目が離せない。 中でも活発な動きを示しているのが、 生産者自身で農産物等を直接販売する直販所 (直売所) である。 生産者の新たな活躍の場として、 また消費者にも食への安心感が得られる場として、 多様な拡がりを見せている。
 筆者は、 高知県内の直販所について、 ゼミ学生と協同で調査を実施し、 この度 『高知直販所物語』 という報告書を刊行した。 以下では、 今回の調査結果を基に、 高知を舞台にした直販所の取り組みや成果について、 具体例を交えて紹介してみたい。 ■高知県における直販所ブームと多彩な店舗展開
 高知県といえば、 「丸高方式」 で知られた全国有数の輸送園芸地帯として有名であるが、 近年は輸入農産物の攻勢の中で市場シェアが伸び悩む状況を迎えている。 また、 従来は市場出荷に見合う規格品しか販売できなかった上に、 大都市向け中心のため県民が地元農産物を消費する機会は意外に少ないという事情もあった。 こうした背景から、 生産者の間で地元に目を向けた取り組みが見直されるようになり、 行政側でも 「地産地消課」 が県庁内に新設される等、 地産地消を推進する体制が整えられていった。
 実際、 直販所設立の動きは、 1990年代に入ってブームの様相を呈している。 例えば、 93年には54店舗だった直販所数は、 2002年には107店舗へと2倍に増加し、 販売額では13.4億円から48.8億円へと3.6倍にまで伸びてきている。
 しかし、 高知県の直販所ブームは、 店舗数の増加よりも、 むしろ次のような地域に応じた様々な直販所が生まれている点に特色がある。 まずは、 地域密着型店舗が挙げられる。 無人市や朝市から発展して、 JA や地域の要所に設置されたもので、 地元住民との関わりが深い。 また、 道の駅や JR 駅舎に併設された店舗も登場している。 観光客を目当てに設立されたもので、 お土産コーナーや休憩所等を兼ねた大規模なものが多い。 さらに高知県では、 高知市内への出張型店舗も存在する。 中山間地域の生産者が県都・高知市で店を構える形態で、 80年代後半より進出が始まり、 現在では県内総店舗数の2割を占めている。
 次に、 これらの中から注目を集めている個性的な直販所に焦点を当てて、 そのユニークな活動をピックアップしてみることにしよう。

■注目を集める
 個性派の直販所
《アンテナショップを持つ元気な女性の直販所 -佐川町の 「JA コスモスはちきんの店」-》
 高知市から西へ25kmのところにある佐川町は、 農家女性の活躍ぶりで話題を呼ぶ町でもある。 その舞台が 「JA コスモスはちきんの店」 である。 「はちきん」 とは土佐の元気な女性を指す言葉だが、 JA 女性部を中心とした取り組みが、 町に活気を与えている。
 初出店は1986年で、 「真心と健康を売る店」 を合言葉に、 規格外品や家庭菜園の余剰品を活用した新鮮・安心な野菜を販売する店として、 当初から人気を博した。 また、 地元野菜を子供たちに知ってもらおうと、 学校給食向けの食材提供を早くから行っており、 調理場からの注文表を元に、 直販所が生産者と連絡を取りあいながら納入している。
 さらに、 この店のもう1つの顔は、 町外へアンテナショップを出している点であり、 特に高知市内では現在4店舗に上る。 朝採れの農作物や早朝に調理した加工品等を毎日トラックで輸送していることから、 「新鮮な野菜や珍しい産品が購入できる」 と市内の住民から親しまれている。 こうして、 女性の軽やかで前向きな姿勢に支えられた 「はちきんの店」 は、 売上面でも運営面でも町や JA の中軸に成長している。
《名品・珍品が並ぶ道の駅 -吾北村の 「633美の里」 (むささびのさと)-》
 高知市内より車で約70分ほど北北西に行った山間部にあるのが、 「633美の里」 である。 2003年にオープンしたこの店は、 国道194号線と439号線の交差点にあることからこの名が付いた。 店内には村の特産品が所狭しと並び、 名品・珍品が多くの客を呼んでいる。
 例えば、 形は瓜で熟せば果皮が黄褐色に変わり、 茹でると果肉がそうめん状になる 「そうめんかぼちゃ」 等の 「ごほく名珍菜」 と呼ばれる珍しい野菜がまず目を引く。 また、 鴨のイラスト付きの 「愛がも農法米」 (合鴨米) や、 生産者ごとに色も形も異なる丸こんにゃく、 狸の油、 村のシンボル・ムササビのグッズも、 ユニーク商品の一例である。
  「633美の里」 は道の駅併設型で、 主な客層は観光客であることから、 こうした名品・珍品を並べた直販所が、 村の活性化の一翼を担う存在として期待されている。
《行列のできるイチゴケーキ専門店 -中土佐町の 「風工房」-》
  「カツオの一本釣り」 で有名な中土佐町にある 「風工房」 は、 イチゴ農家が作るイチゴケーキ専門店として熱い視線を集めている。
 出発点は、 「規格外で市場に出せないイチゴをなんとかしたい」 という声だった。 8軒の農家の主婦が協力して、 まずはイチゴのゼリーやジャムを作り、 町内イベントで出品したところ、 好評を博した。 そこで、 今度はプロのケーキ職人に1年間ケーキ作りを学び、 ついに1997年には店舗設立にまで漕ぎ着けた。 原料のイチゴ作りには、 高設栽培の導入やカツオのアラを肥料に用いる等、 生産者のこだわりが見られる。 現在は数種類のケーキの他、 夏季にはソフトクリームやシャーベットの製造・販売も行っている。
 店内は、 1階がケーキ工房と店頭販売コーナー、 2階が太平洋を一望できる喫茶コーナーとなっており、 階段下スペースでは町内主婦による手作り雑貨を販売している。 今やマスコミで紹介されるほど有名で、 町内外からきた団体客やカップルで大いに賑わっている。

■直販所が生産者や地域に元気を与える
 このように、 県内各地で多種多彩な直販所活動が展開されているが、 その過程で生産者や地域には様々な成果が表れている。 最後に、 この点について触れておこう。
 まず、 従来は市場出荷に乗らなかった規格外で少量の農産物が商品化できるようになり、 生活にゆとりが出てきたことである。 多品種少量でも販売が可能であることから、 それまで見捨てられてきた農産物の販路が新たに生まれ、 家庭菜園を営む生産者も、 楽しみながら農業に意欲を出す姿勢が見られるようになった。
 また、 高齢者や女性の活躍の場が広がり、 経済的・精神的な自立につながったことも大きい。 特に女性は、 多くの直販所の運営主体として精力的に活動しており、 「農家の嫁」 という 「脇役」 から地域の 「主役」 に躍り出るようになった。
 消費者や生産者同士の交流も、 深まってきている。 直販所に通うことで友人や話し相手が増えるとともに、 消費者との 「顔の見える」 関係を通して品目や栽培方法に創意工夫を発揮するようになる等、 直販所が新たなコミュニケーションの場となっている。
 さらに、 地域全体も活気の出てきたところが増えている。 単に生産者個人にとどまらず、 生産者同士がグループで活動領域や交流を拡げる動きが見られるようになり、 そのことが地域全体に新たな波及効果を生み出している。
 以上のように、 直販所は、 地域を足場にした農と食の結びつきを紡ぎ出し、 女性や高齢者、 さらには地域全体を元気にする効果をもたらしている。 地域活性化や社会的関係性の再構築の場として期待される直販所の今後の可能性に、 これからも注目していきたい。
*今回の調査の詳細は、 高知大学岩佐ゼミナール 『高知直販所物語』 に纏めてあります。 お問い合わせは、 高知大学国際社会コミュニケーション学科事務室 (■:088-844-8425) まで。