『協う』2004年6月号 書評2

もうひとつの関西は可能だ
林 輝泰
研究所事務局


『関西再生への選択-サステイナブル社会と自治の展望-』
■大阪自治体問題研究所・関西地域問題研究所編著
自治体研究社 2003年12月 1900円+税


 わたしとこの書の出会いは、 宇田篤弘氏 (紀ノ川農協組合長) から1年程前に薦めていただいた 『もうひとつの日本は可能だ』 (内橋克人著) に共感を覚えたすぐ後のことであった。 この書の“はじめに”に 「もうひとつの関西は可能だ」 と書かれていたのである。
 本書では、 「都市再生」 には二つの道の対抗があるとしている。 一つの道は経済成長の持続可能性をめざす都市再生の道であり、 アメリカや日本に見られる 「市場主義」 にもとづく都市再生である。 これに対しもうひとつの都市再生の道は、 近代化・工業化によって荒廃し衰退した都市を、 人間の 「住み心地よき」 生活の場として再生しようとする都市再生である。
 私が本書の中で、 将来の社会や生活への展望が見いだしにくい今の時代に、 興味深く学んだことは以下の2点である。
 ひとつは“地域にある様々な資源を再発見しその強みを活かした地域づくりを、 都市経済の再生と併せて提案していること”である。 例えば、 ものづくりに関連する業種260社が集まった 「ナニワ企業団地協同組合 (大阪市)」 の事例や 「都市と農村の交流や共生をめざした新たな連携」 の提言である。 また担い手という視点からは、 「労働意欲とともに地域コミュニティへの貢献や自己変革、 自己実現への意欲を持ちつづけている高齢者は、 地域にとっての貴重な産業的資源となる。 子育て期を終えた女性たちも、 職場に縛られ続けた多くの男性よりも、 地域との交わりが豊富なはずだ。 これまで産業的資源として顧みられることが少なかった人々が、 地域での活躍の途を求めている」 という示唆も共感できる。
 もう一つは、 “日本の市民活動の弱点とその克服の事例”である。 この書は 「従来、 日本の市民活動は、 欧米に比べて未成熟だという評価もあった。 (中略) 運動や組織のあり方にいくつかの弱点があり、 市民運動が政策分野ごと<公害反対運動、 保育所運動、 障害者運動など>に縦割り型で組織され、 相互の連携に乏しく、 地域を単位とした総合的な生活環境づくりへの取り組みが十分でなかったからだ」 と指摘している。 そしてこの弱点を克服し、 地域の自治の主体として成長している活動を阪神淡路大震災の復興支援などの事例で示している。
 この弱点や克服の事例は、 生協の事業と運動にも示唆を与えている。 地域や住民の視点から生協を見ることは、 その関係性と可能性を示し、 まさに生協の存在意義を問い直すことと感じるのは私だけではないように思える。