『協う』2004年6月号 コロキウム

地域づくり・まちづくりと協同組合
-コミュニティ利益を追求する
  ヨーロッパ協同組合の事例から-


協同総合研究所
岡安 喜三郎

I . 地域づくり・まちづくりと人々の社会参加
(1) 人々の社会参加を促進する協同組合
 近年、 地域社会 (コミュニティ) の絆の希薄化が指摘され、 老人の孤独死、 児童虐待、 自殺、 学校や会社でのいじめの横行等々、 社会的病理が広がるなど様々な社会問題が生じている。 絆の希薄化は子育てや親の介護などの不安にもつながっている。 また、 かなり遠慮した言い方をしても、 アメリカ主導のグローバル化は、 国際政治の面でも、 平和の面でも、 経済の面でも様々な亀裂を生んでいる。 このことが本稿のテーマではないのであるが、 グローバル化は集中を伴い、 その対極で社会的排除が進行していることは多くの識者の指摘するところである。
 国際社会においてはこの数年、 協同組合の役割が大きくクロースアップされてきた。 2001年12月の国連第56回総会決議 「社会開発における協同組合」 は、 「さまざまな形の協同組合が、 女性や若年者、 高齢者、 障害者等あらゆる人々による経済・社会開発への最大限可能な参加を促進し、 また経済・社会開発における主要な要素になりつつある」 と述べている。
 ILO (国際労働機関) も、 「協同組合に関する新しい普遍的で適切な基準とは、 協同組合がその自助の潜在力を完全に開発するものであること、 また、 失業や社会的排除など当面する様々な社会的・経済的問題に本気でとりかかり、 グローバル市場経済の中での競争能力を高めるものであること」 (第89回 ILO 総会開催要項) の認識から、 協同組合振興に関する討議をすすめ、 2002年6月の第90回 ILO 総会で、 新勧告 「協同組合振興勧告2002」 (第193号勧告) を採択した。
(2) コミュニティの普遍的利益の追求
 このように、 協同組合には、 当面する様々な社会的・経済的問題への取り組みが期待されている。 主体的にも1995年協同組合原則に 「コミュニティへの関与」 (コミュニティの持続可能な発展のために活動すること) が加わり (第7原則)、 コミュニティと協同組合との関係に重要な一歩を記した。
 しかし、 地域づくり・まちづくりという言葉には、 もう少し人間的な重い意味が含まれていると思われる。 地域・まちづくりは何よりも、 ひとが尊厳を保ち人間らしく生活のできる場でなければならない、 しかも 「すべてのひと」 が。 ヨーロッパでは、 ここに焦点を定め、 「コミュニティの利益」 というキーワードで地域づくり・まちづくりをすすめる協同組合をはじめとする様々な事業体が出現している。
  「コミュニティの利益」 とは様々に解釈しうるが、 結局は 「政治的・経済的・文化的な住民全員の幸せと安寧」 であり、 アマルティア・セン (Amartya Sen) 風に言えば、 「個人の自由の価値、 自由の平等性と普遍性。 寛容の価値、 寛容の平等性と普遍性」 の貫いた包み込みの地域社会ということになろう。 それは、 コミュニティの普遍的利益の追求という営みである。
(3) 社会的企業
 ヨーロッパにおいては、 EU (欧州連合) 自身が社会的経済の促進を政策の柱にし、 その推進の担い手として、 協同組合(C)、 互助組合(M)、 アソシエーション(A)、 財団(F)を挙げている (これを 「社会的経済企業」 と呼ぶことがある) が、 1990年代中頃からヨーロッパにおいて、 ある一定の包括概念としての 「社会的企業」 が注目されつつある。 「社会統合をめざす企業」、 「社会結合をめざす企業」、 「社会目的を持った企業」、 「社会性を持った企業」、 「コミュニティに密着した企業」、 「コミュニティ・ビジネス企業」、 「社会目的事業」、 「社会ベンチャー」、 「持続可能戦略」、 「非営利収入生成活動」、 「非営利企業」 と様々に語られるものの包括概念である。
 この社会的企業には、 企業という意味で当然協同組合も含まれるが、 注目すべき点は、 社会目的性の優劣を法人形態 (会社、 組合、 協同組合、 財団、 アソシエーション、 NPO 等) によって区分けする方法から脱皮したアプローチをしていることにある。



II. ヨーロッパの社会的企業の紹介
(1) イギリスのコミュニティ協同組合とコミュニティ利益会社 (CIC) 法案
 イギリスの協同組合には、 消費者協同組合や労働者協同組合と並んで紹介される 「コミュニティ協同組合」 という形態 (コミュニティ利益組合<BenCom: society for the benefit of the community>ではなく) が存在する (例えば CDA Consultation pp.6-7, Scottish Executive 発行)。 近年の社会的企業概念との関連を言えば、 「地域コミュニティによって所有・管理され、 地域コミュニティのために存在する社会的企業にふさわしいモデルになろう」 と紹介されている (Co-operativesUK のモデル規則集より)。
 コミュニティ協同組合は法的には、 産業・共済組合法 (IPSA: Industrial & Provident Societies Acts) の下、 真正協同組合 (bona fide co-operative) として登録され、 剰余は積立金として留保し、 社会目的・慈善目的に使うか、 出資配当に使われる。 また、 解散の際に、 残余財産を組合員に分配することはできないという特色を持つ (Co-operativesUK のモデル規則集より)。 イギリスの社会的企業の歴史は、 1970年代後半に試みられたこのコミュニティ協同組合にルーツをもつとされる (中川雄一郎)。
 一方、 2003年12月3日、 イギリス通商産業省 (DTI) は社会的企業の振興を図る目的として、 「公益会社」 ならぬ 「コミュニティ利益会社 (Community Interest Companies: 以下 CIC と略す)」 という名称の社会的企業の一角をなす会社制度案 (85年会社法の改正案) を国会に上程しているので、 これを紹介したい。
 この CIC 制度は直接協同組合のための制度ではない。 通産省の説明によれば、 CIC とは、 自らの利益や資産を公益のために活用しようとするいわゆる社会的企業向けに、 その一つとしてデザインされた、 新しいタイプの会社である。 CIC は容易に設立できるようにし、 会社形式としての柔軟性と確実性をすべて備えながらも、 地域社会の利益のために努力することを確実にさせる特別の特徴を備える。 それらは、
■ CIC の資産や利益の法的な 「ロック (固定化)」 (メンバー配分の制限) とエクイティファイナンスの上限規制
■ CIC 登録の適格性審査にあたる 「コミュニティ利益試験」 や、 年次コミュニティ利益レポート
■ CIC がその法的必要条件に従うことを保証する責任をもつ CIC 監査人 (レギュレータ)
であると、 通産省は説明し、 これらを社会的に保証するために立法措置が必要であると述べている。
 政府は CIC が病院や学校のような核のセクターにおいて本質的なサービスを提供することは意図していないと言う。 むしろ、 CIC は、 児童保護の提供、 社会目的を持った住宅提供、 レジャーやコミュニティ移送サービスなどの領域で行政サービスを補完する、 地域コミュニティのニーズへの対応を想定していると述べている。
 この CIC 構想は、 2002年9月にイギリス政府内閣府の戦略ユニットから提起された。 内容は "Private Action, Public Benefit - A Review of Charities and the Wider Not-For-Profit Sector" (「私的行動、 公的利益-チャリティおよび広義の非営利目的セクターの見直し」) というレポートに詳しい。 レポートでは、 チャリティ団体および広義の非営利目的団体が重要なサービスを提供しコミュニティを強化していることを認知すると共に、 最近では団体収入も増え、 団体数も被雇用者も増加したのだが、 その潜在能力をフルに発揮させるためにはいくつかの障壁を取り除かなければならないとしている。 そのために、 チャリティと同様の社会目的を持ちつつも、 事業活動を行える団体の設立を保証する立法処置の必要性を提案していた。
 通産省ではこの CIC は、 非チャリティの会社形態の相対的自由さを持ちながら、 しかし非営利目的資格の明白な保証を伴ってコミュニティの利益のために仕事をしたいと思っている企業家たち向けにこの形態の法的基盤を提供するものと謳っている。
(2) イタリアの社会的協同組合の紹介
 イタリアの社会的協同組合はカルロ・ボルツァガ (Carlo Borzaga) らによれば、 イタリアにおける社会的企業と位置づけられる。 事実、 イタリアの社会的協同組合の内容と活動は、 後述する EMES ネットワークの社会的企業の概念形成に大きな影響を与えている。
 イタリアの社会的協同組合は、 それを規定した国法 L.381■1991 の第1条で 「コミュニティの普遍的利益 (l'interesse generale della comuunita`) を追求する協同組合」 と定義され、 地域コミュニティにおいて様々な人々を、 労働を通じて、 また組合員として包み込む新しいタイプの協同組合である。 社会的協同組合は公共団体をも組合員にすることができ、 当該コミュニティの様々な利害関係者の参加するマルチステークホルダーズ型の協同組合の性格を持つことができる。
 社会的協同組合は、 所謂 「社会条項」 (福祉等に関して行政が一定の団体への特別契約を可能にすること) の適用対象となることができるので、 その登録には行政の審査が必要である。 すなわち、 協同組合や小協同組合の形態を保持しながら、 定款でこの国法 381■1991 の要件に見合う協同組合であると自己規定し、 要件審査を経て、 州名簿に登録されることによって成立する。 州への登録はイタリア全体としてみれば、 コミュニティのニーズに対応したサービス提供型の A 型 (A)、 障害者を含む社会的に不利な人達の就労確保・労働確保の社会統合型の B 型 (B)、 またその混合型 (A-B)、 さらには、 これらの協同組合の事業連合体 (社会的コンソルツィオ) (C) と分類される。
 国法 L.381■1991 の成立直前の1990年に1,800組合だった社会的協同組合は、 ISTAT (イタリア全国統計局) 発表 「イタリアの社会的協同組合2001年」 によれば、 2001年12月31日現在、 5,515組合 (人口1万人当たり約1組合) となり、 20万人以上が、 労働従事組合員 (14.7万人)、 ボランティア (2.4万人)、 雇用労働者 (2.6万人)、 良心的兵役拒否者 (0.3万人) 等々として労働や活動に従事している (より詳しいデータは 「協同の發見138号」 に掲載)。 日本の人口に置き換えれば約40万人の就労人口を抱える、 協同組合の中でも一大セクターである。
 社会的協同組合は他の既存協同組合に比べ、 個々の規模の小さいことが特徴である。 したがって現実にはコンソルツィオの役割が大きく、 また、 単位段階でもアソシエーション組織 (NPO 組織) を活用している (組合員でアソシエーションを結成、 またその逆) 事例を見ることができる (後述のアバコ、 A77 等がその例)。
 社会的協同組合に対する理解は、 サービスの種類も大切であるが、 もっと根本的にはそのサービスが地域の誰のニーズに対応しているかを見ることで容易になる。 これに着目すると、 「コミュニティの普遍的利益の追求」 のサービスと労働統合の意味が見えてくる。
 先の ISTAT 「イタリアの社会的協同組合2001年」 によって、 A 型協同組合のサービス利用者約211万人のカテゴリーを見ると、 最も多いのは年少者 (37.2%)、 そして、 生き難さを持った人たち (失業者、 暴力の犠牲者、 貧困者、 未婚の母、 生き難さを持った人の家族など、 社会的弱者や疎外の危険に晒されている広い範囲の人たち) (14.6%) の順であり、 以下、 一般利用者 (14.0%)、 自立していない高齢者 (8.9%)、 自立した高齢者 (7.6%)、 身体・精神・感覚障害者 (5.5%)、 移民 (4.4%)、 病気ケガ (3.7%)、 ホームレス (1.4%)、 精神病患者 (0.9%)、 薬物依存者 (0.9%)、 終末患者 (0.3%)、 アルコール中毒 (0.2%)、 受刑者・元受刑者 (0.1%) である。
 次に、 労働統合目的の B 型協同組合に働く人たちに着目する。 ISTAT の先の集計によれば、 B 型協同組合には労働者の50.5%に当たる18,692人もの社会的に不利な立場の人たちが働いており、 その内訳は、 身体・精神・感覚障害者が50.3%を占め、 薬物依存者が18.2%、 精神病患者14.5%、 以下、 受刑者・元受刑者 (7.4%)、 アルコール中毒者 (4.0%)、 年少者 (1.3%) の順である。
 このような 「コミュニティの普遍的利益を追求する」 事業は正に、 公益事業と言うことができる。 昨年9月、 私たちが訪問した幾つかの社会的協同組合のリーダー達 (アバコ協同組合、 A77 協同組合など) は、 公益を担う協同組合で働くことの自らの意味を確信して仕事に従事していた。 直接に、 「事業体としての社会的協同組合は仕事の達成感が違う (良い)」 「公益を担う協同組合なので社会に関わる実感がある」 (アバコのマウロ・マンチーニさん) 「市民に働きかけ公共機関に働きかけ、 社会を変えていくのに魅力的」 「シチズンシップの創造である」 (A77 のマッテオ・ヴィラさん) 等々の発言が聞かれた。
 また、 障害者の旅行や移動、 様々な建物・施設へのアクセサビリティ (利用可能性) に関する自治体との共同プロジェクトを運営しているタンデム協同組合のリーダーであるジョバンニ・サンソーネさん (自身が障害者) も、 「このプロジェクトは労働統合だけの意味ではなく、 まち点検であり、 まちづくりである」 と胸を張った。 これらのプロジェクトは協同組合側からの自治体への提案として始まったという。 社会的協同組合では障害者は組合員として公益サービスの受け手 (利用者) の位置ではなく、 様々な提案をする積極的な公益サービスの担い手でもある。
(3) フランスその他の社会的協同組合・社会連帯協同組合や社会的企業
 フランスでは2001年、 "Socie´te´s Coope´rativesd'Inte´re^t Collectif (SCIC)" という社会連帯目的を趣旨とした 「コミュニティ利益の協同組合」 とも言うべき制度を導入する協同組合法の改正を行った。
 SCOP (フランス生産協同組合) ネットワークによれば、 この SCIC は、 1) 青年雇用の新しいプログラム、 2) 社会目的を有する新しい企業形態に関するアラン・リピエッツのレポート、 3) 社会連帯経済の地域会議、 の三つを起源として誕生したとされる。 注目すべきは、 この改正でアソシエーションがこの協同組合に組織変更できることを想定し、 その移行手続きも示されていることである (例えば改正協同組合法第 28-II 条)。 というより、 アソシエーション形態では地域の雇用対策の解決にならないとの認識で、 この組織変更の促進がこの改正の目的でもあったのである。
 フランス SCIC を規定した協同組合法改正では、 イタリアの国法 L.381■1991 と同様にマルチステークホルダーズ・システムを規定しているが、 組合員の構成だけではなく、 より具体的に意思決定手続きを規定していることが特徴である。
 例えば、 改正協同組合法第 19-VII 条で労働者、 利用者、 ボランティア、 公共団体その他、 全体で5種類の組合員カテゴリーを規定し、 第 19-VIII 条では、 「各々の組合員は、 総会又は、 必要ならば、 当該組合員が所属するコレジュ (部会) において1票を行使する。 <段落>定款で、 組合員が当該協同組合の活動への参加又はその開発への貢献を考慮して3以上のコレジュ (部会) に分属される旨、 規定することができる。 <段落>各々のコレジュ (部会) は、 定款で別段の定めをしない限度で、 同数の投票を総会で行使することとする。 <以下略>」 (<>は引用者) と規定している。 (より詳しいことは島村博 「現代フランスの協同組合法 Note」 <2001.12発行 「協同の發見第114号 pp.18-42」>参照)。
 以上の両条は、 単位組織でありながら様々な利害関係を持つ人々・グループ (ステークホルダー) の利害を調整・調和させる、 マルチステークホルダーズ型協同組合の独特の運営性格の根幹を成すものである。
 このような活動を行い、 似た形態の協同組合は、 他にスペインの 「社会起業協同組合: Cooperativas de Iniciativa Social」 (地域によって 「社会統合協同組合」、 「社会統合混合協同組合」 の名称) や、 ポルトガルの 「社会連帯協同組合: Cooperativas de Solidariedade Social」、 等々が存在する。 また、 ベルギーでは株式会社、 有限会社、 協同組合などが一定の条件の下で、 「社会目的を持った組合・会社: Socie´te´s a` Finalite´ Sociale (SFS)」 に成ることができる法整備がされている。
(4) EMES ネットワークによる社会的企業の定義
 ヨーロッパにおける社会的企業研究については、 欧州委員会第12総局の支援を得た、 1996年の EMES ネットワーク設立が大きな転機である。 EMES の名称は最初のプロジェクトである 「社会的企業の出現」 から付けられ、 2002年4月にはベルギー・ブリュッセルで法人化された。
 このプロジェクトの最大の成果は、 15ヶ国の広範な調査と共に、 社会的企業を定義する、 そのための一連の基準づくりにあったと言える。 EMES の一連の基準 (四つの要素と五つの指標) は、 日本においても社会的企業とは何かについて実践的な議論のできる素材となりうると予感できる。 以下その要点を紹介する。
<四つの要素>経済的・企業的性質
a) 財の生産・サービス提供の継続的な活動:社会的企業は、 企業という限り、 その事業の継続性が本質的な要素である。
b) 高度な自治: 「発言と退出」 の権利 (自らを主張する権利、 活動を終了する権利) を持つ。
c) 高水準の経済リスク引受:社会的企業を設立する人たちは、 創始したリスクの全部もしくは一部を引き受ける。
d) 有給労働の下限の存在:逆に言えばボランタリー労働者・ボランティアの数・割合はゼロではないが上限設定が必要である。
<五つの指標>社会的側面
i) 明白なコミュニティ貢献目的:社会的企業の最重要目的は、 コミュニティもしくは特別な人々のグループに奉仕することにある。
ii) 市民グループ主導:コミュニティもしくは、 ある要求や目的を共有するグループに所属する人々を巻き込む。
iii) 資本所有を基盤にしない意思決定力:この一般的な意味は 「一人一票」 の原則。 意思決定権は他のステークホルダー (利害関係者) 達と分け合う。
iv) 参加型の性質-活動の影響を受ける人々を巻き込む:顧客を代表し参加すること、 ステークホルダー指向、 民主的管理運営。
v) 利益配分の制限:社会的企業には、 全く非分配制約の性格の組織だけではなく、 利益最大化行動を回避する組織も含まれる。


III. 協同組合はコミュニティから必要とされるか (3つの論点)

 前節では社会的企業という括りでコミュニティの利益に貢献する事業活動を紹介してきた。 イギリスのコミュニティ協同組合やイタリアの社会的協同組合が、 その特性を生かしてコミュニティサービスや社会統合の協同組合などに先行的に挑戦してきたことが、 現在、 法人形態の違いを超えた、 社会的企業という新しい、 より大きな括りをもたらしたと言えるのである。
 特にコミュニティの利益の追求と言う際、 決してサービスや情報の一方通行ではない。 「コミュニティのニーズを発掘してサービスする」 だけなら、 単なる事業・商売と変わりがない。 また、 『助け合いたい人たちどうしで助け合う』 ことでもない。 社会的病理や社会的排除に立ち向かい、 包み込みのコミュニティ (地域、 まち) づくりがコミュニティの利益そのものであろう。
 ここに、 いくつかの論点を提示しておきたい。
 ○ 法人形態等でコミュニティ利益への貢献の優劣は付けない
 ○ 小規模事業と開かれたネットワークの価値を見直す
 ○ 事業に関わる地域の様々な人たちが事業と活動の主体者となる
(1) 論点1:法人形態等でコミュニティ利益への貢献の優劣は付けない
 社会のために役立ちたいという若者は多く、 その中で地域に関心をもつ若者は NPO に着目している。 そしてそれ等に魅力を持って働いているが、 必ずしも、 というか多くの若い NPO スタッフは報酬額の少なさに悩んでいる。 ヨーロッパの社会的企業制度やコミュニティ利益の協同組合制度の導入動機が、 ここにあるのも事実である。
 NPO だから崇高で株式会社だから低劣などという論議が今重要なのではなく、 活動としても、 事業としても、 コミュニティの普遍的利益の追求に向かって持てる力 (それは社会の資源でもあるし、 それぞれの団体の力) を十二分に発揮できる仕組みこそが求められているのではなかろうか。 そういう視点で、 会社としての柔軟性と確実性保持したイギリスの CIC 構想は注目しておきたいし、 社会的協同組合の企業的性格の保持という点も重要であろう。
 これは、 NPO、 株式会社、 生協という場面を見ても、 「生協だからすばらしい」 という見方は、 普通の人に特に若者にはもはや存在していないとした上で、 生協と地域・まちづくりというテーマに接近する必要があるのではなかろうか。
 こういう新たな文脈の中で、 あらためて協同組合の価値をコミュニティに提起しなければならない。
(2) 論点2:小規模事業と開かれたネットワークの価値を見直す
 コミュニティ利益を追求する事業体は、 それを利用する主体、 運営する主体や働く主体がコミュニティに住む人たちという点から見ても必然的に小規模事業体である。 小さいから、 「自分たちだけですべてやる、 やれる」 とは思わない。 しかし達成感はある。 どうしてもその事業体自身がコミュニティ内の他の人たち・グループとの協同を必要とし、 それを追求することになるし、 様々な関係者が当該コミュニティの住民だから共感が得やすい。 実は、 こうした事業体こそがコミュニティ利益の追求に必要なのである。
 逆に規模が大きくなると、 例えば生協などは 「自分たち (組合員) だけですべてやる、 やれる」 場面が増えるし、 それが元気の元だったかも知れないが、 ややもすると活動において組合員以外には閉鎖性が見えてくる。 協同組合の価値に言う 「他者への配慮 (他人への思いやり)」 も他の組合員に対するものだけであったら、 それはアマルティア・センの思いに反して、 平等も普遍性もない 「仲間内への配慮」 にすぎなくなる。
  「地域づくり・まちづくりと生協」 にとって決定的な問題は、 都道府県段階での団体間協力ではなく、 自治会・町内会段階での組合員組織の開放性と協力にあると思われる。
(3) 論点3:事業に関わる地域の様々な人たちが事業と活動の主体者となる
 先の EMES ネットワークの基準の中にも 「市民主体」 が述べられている。 実はこのような手法は協同組合の得意とするところのはずである。
 協同組合は経済団体としての機能や価値が言及されるが、 本来それは、 人と人とのつながりの営みを通じてのことであり、 協同組合に関わるすべての人、 組合員資格のある人たちだけではなく、 取引や利用、 労働等で関わる人たちすべてを主体にして運営する組織・団体であることが本質的である。 これが会社や NPO その他の法人形態・組織形態と大きく異なるところである。 しかし現状に私は幻想を持っているわけではない。
 特に、 人的サービスを中心とするコミュニティ事業では、 当該協同組合で働く人が組合員となるワーカーズ (生協組合員のワーカーズ含む)、 労働者協同組合の活動が注目される。 これは人的サービスの事業には、 働く者・労働者の主体確立と協同の仕組みがかなりの適合性を持っているからであろう。
 コミュニティ利益とは一定地域の公益のことである。 しかも、 少なくとも一定の範囲の共同体 (コミュニティ) の利益を想定しているので、 決して一般的な 「不特定多数」 への奉仕ではない。 コミュニティ利益を追求する事業体は、 そのコミュニティで生活し、 労働し、 活動する、 はたまた公共団体など多様なステークホルダーの主体的参画が決定的である。
 この、 関わる人すべてを主体にする本質を持つ協同組合が、 コミュニティの普遍的利益、 公共的利益を担う事業に参加することは、 21世紀の元気な地域社会・共同体 (コミュニティ) を創造する上で決定的であり、 この上なく地域における協同の可能性を広げることになる。
               
プロフィール
おかやす きさぶろう
 協同総合研究所専務理事、 日本労働者協同組合連合会副理事長、 生活協同組合東京高齢協副理事長、 日本協同組合学会常任理事、 元全国大学生活協同組合連合会専務理事・副会長、 元日本生活協同組合連合会理事。