『協う』2004年4月号 書評2


豊かさの実感できる社会を目指して
大木 隆之
生活協同組合しまね
常務理事


『家計からみる日本経済』
橘木俊詔著
岩波新書 2004年1月 700円+税

 一般に経済問題は財政や金融、 国や企業活動の動向等から論じられることが多いが、 「GDP 年率換算7%」、 「景気は回復基調に」 といった記事も、 実感が伴わないといったのが正直なところだ。 その理由のひとつには、 大企業と中小企業、 中央と地方、 企業経営と家計等との格差の拡大があるような気がする。 これまでの指標や見方だけでは、 日本経済の実像が捉えられなくなっているのではないのか。 そんな思いを持ちながら、 この本を手にしてみた。
  「家計消費は、 一国の経済動向を制しかねないほど意義が大きい。 ・・この重要性にもかかわらず、 家計の経済行動の分析は、 体系的になされることはなかった」 ことから、 家計に焦点をあてて、 これからの日本経済のあり方を論じようとするのが本書である。 経済学的に 「家計」 の持つ意味は、 主として勤労することによって得られる所得、 その所得をもとにした消費と貯蓄として捉えられる。 戦後の日本経済のなかでの家計の消費パターンの変化、 日本経済の成長を支えた 「貯蓄率」 の半減傾向、 働き手の変化などに記述は及ぶ。 そうして歩んできた戦後の日本経済のなかで 「豊かさを実感しない家計の存在」 がクローズアップされる。 「戦後の日本経済は生産者優先策が採用されつづけた。 ・・消費者ないし家計が生産者よりも劣位に扱われた・・」 ことの象徴としての長時間労働、 物価高、 過度の都市集中などなど。 近年、 若者や働き盛りを中心とした失業率が高まり、 生活保護世帯が増加、 短期間のうちに急激な不平等化が進んでいると指摘する。
 こうしたなかで税や社会保障による所得の再配分は重要性を増す。 しかし 「国ないし公共部門が国民への福祉提供に大きな役割を演じている」 福祉国家とは異なり、 社会保障を含めた公共部門全体の役割が量的に少ない日本は、 アメリカと並び先進国のなかにあって典型的な 「非福祉国家」 と評されている。
 本書では、 「これまで実際に日本の福祉を支えてきたのは家族と企業 (特に大企業) である」 と分析し、 「家族の経済危機」 と家族の役割低下、 企業の業績不振のなか、 新たな社会保障制度への対応策が提案されている。 その提案については様々な論議が必要と思う。
 また著者は、 「豊かに生きていく」 ための 「家計の対応策」 についてもふれており、 「豊かさ」 そのものについての再考を、 私達に問うているように思えた。