『協う』2004年4月号 コロキウム

家計から見た今日の生活状態
―家計の硬直化の進展と社会的排除の実相―

佛教大学社会学部
金澤 誠一


はじめに
 戦後の 「高度経済成長期」 から今日の 「低成長期」 にいたる約50年間にわたる勤労者世帯 (2人以上世帯) の家計の状態を、 総務省の 「家計調査」 を通して観察することができます。 この家計調査には、 この間の政府の様々な政策、 例えば社会保障制度や住宅・教育などの生活基盤に係わる政策が、 色濃く反映しているのです。 その結果、 私たちの生活はどういう状態になっているのかを解明することができます。


1. 今日の生活の成り立ち方
 家計調査をみる前に、 私たちの生活はどのように成り立っているかを考えてみましょう。 今日の生活の特徴は、 さまざまな社会制度を利用しながら営まれている点にあります。 日々の日常生活を送るためには、 その土台・基盤が必要です。 私たちの生活は、 住宅や教育、 医療、 水道・光熱、 通信、 交通などの施設やサービスを土台・基盤として成り立っているのです。 これらを 「生活基盤」 といいます。 この生活基盤は大変重要な社会制度なのです。 なぜなら、 それは人間として生活していくためには誰もが必要とするものであり、 どれ一つ欠けても生活が成り立たないものだからです。
 また、 視点を変えて長期的に生活をみると、 誰しもが病気やケガをしたり、 それがもとで障害が残ったり、 場合によっては一家の大黒柱が死亡することもあります。 あるいは失業したり、 また誰しも高齢化して働けない状態となります。 従って、 こうした生活上の事故に対し、 それがもとで貧困に陥らない (貧困予防) ように、 健康保険や老齢年金、 障害年金、 遺族年金、 失業保険などの社会保険制度を先人達はつくったのです。 貧困を予防する制度をつくれば、 貧困はなくなると19世紀イギリスのウェッブ夫妻やベヴァリッジという人は考えて社会改良政策を進めたのですが、 実際にはなくなるどころか増加していきました。 社会保険制度にも限界があるからでした。 例えば、 社会保険は保険料の額と保険料を納めた期間に比例して給付額が決まります。 従って、 保険料の額が少なかったり納付期間が短かったりすると給付額は低くなったり、 給付を受けられなくなったり、 最低生活を営めないこともでてくるのです。 こうしたことから、 公的扶助制度という税金を財源とした最低生活保障 (生活保護制度) が必要とされたのです。 このように、 社会保険制度と公的扶助制度からなる社会保障制度がつくられたのです。 社会保障制度は所得保障ですが、 それだけでは生活が成り立たない場合があります。 例えば、 子どもには保育所での福祉サービスや、 障害者や高齢者には介護サービスを必要とします。 これらは社会福祉制度といいます。 以上のように、 長期的に生活を維持しようとすれば、 社会保障制度による所得保障と社会福祉制度による福祉サービスを必要とするのです。 これらも重要な社会制度といえます。
 これらの社会制度は、 家族や地域社会のもっていた相互扶助機能が弱まってきたために必要としてきたのです。 従って、 家族や地域社会の持っていた相互扶助機能を、 国や地方自治体によって設立・運営される社会制度が肩代わりしているということもできます。 その意味から、 社会保障や社会福祉諸制度は、 生活の 「社会化」 された部分ということができるのです。
 それだけに、 国や地方自治体の社会制度をめぐる政策が、 個々の国民の家計に大きく影響してくるのです。 国や地方自治体が社会制度を運営するためには、 その財源を必要とします。 その財源は税金や社会保険料に求めることになります。 つまり、 税金や社会保険料にはその財源を調達する機能があるのです。 これを財源調達機能といいます。 また、 国民の中には所得の低い人から中ぐらいの人そして高い人までさまざまな所得階層があります。 従って、 所得に応じた税金や社会保険料の徴収をする必要がでてきます。 これを税金や社会保険料の所得再分配機能といいます。 つまり、 税金や社会保険料には、 財源調達機能と所得再分配機能があることになります。
 アマルティア・センというノーベル経済学賞をうけた学者は、 社会制度を維持存続させるためには、 個人間の格差に対して平等な配慮が必要であると言います。 この個々人の格差に対する平等に配慮するというのが 「公平」 という意味です。 所得保障を中心とする社会保障制度に関しては、 公平であるということは個人間の所得格差に対し平等に配慮することなのです。 それが、 所得再分配機能なのです。
 ところが、 政府税制調査会や社会保障審議会は、 国民に広く薄い負担をもとめることが公平であるとして、 財源調達機能を強化してきたしこれからも強化する方針です。 しかし、 財源調達機能に対して公平であろうとすれば、 所得再分配機能は不公平になるのです。 例えば、 税調も社会保障審議会も世代間の負担の公平を求めていますが、 それは世代間の所得再分配機能を弱める結果となります。 また、 税調は住民税の応益負担 (利用するサービスに対しその利益・効果に応じて負担すること) の強化を求めていますが、 それは低所得層の負担を高め逆に高所得層の負担を低めることになります。 さらに消費税の税率を高めることを求めていますが、 それもまた低所得層の負担を高めます。 所得の垂直的再分配機能を弱める結果となるのです。 このように、 所得再分配機能に対してはきわめて不公平な結果となるのです。
 生活を成り立たせるためにもう一つ大切なことは、 日々の短期的に繰り返される日常生活です。 私たちの多くは、 昔の農民のように自給自足とは違って、 勤労者として会社で働きその見返しとして賃金を得て、 その賃金で日常的に必要な食費や被服費、 家具家事用品、 交際費、 教養娯楽費などを支出して生活しています。 その多くを商品市場で購入することなしには生活は成り立ちません。 この商品を私たちは自由に購入しているように見えますが、 その時代のその社会の社会的慣習という見えない形で消費を強要しているのです。 例えば、 戦後 「高度経済成長期」 には自動炊飯器に始まり電気掃除機、 電気冷蔵庫、 テレビ、 自動車などなど耐久消費財が普及していきます。 それは、 多くは大企業の製品であり、 マスメディアによる宣伝による誘導があったのです。 繰り返し行われる宣伝や、 友人や近所の人々が真似をしていくことによって、 新製品がしだいにその社会の生活に必要不可欠になっていくのです。 また、 こうした耐久財の購入のために共働きが増え、 それが家事や育児といった家庭内の労働を軽減する必要とし、 さらに大型で高性能で高価な耐久財を必要としたり、 レトルト食品やインスタント食品、 既製服などを必要とするようになったのです。 家庭の隅々までさまざまな商品によって覆いつくされることになります。 このように、 日々の日常生活に必要な生活財貨・サービスの多くは、 社会的慣習によってその支出が強要されているのです。


2. 家計支出の分類
 以上のように、 わたしたちの生活は、 生活基盤を土台としてその上で日常生活を営むことになります。 また、 日常生活も長期的に維持するためには社会保障・社会福祉諸制度を必要とします。 このような社会制度を前提として、 短期的な日常生活が繰り返されているのです。 生活基盤や社会保障・社会福祉諸制度を確保するための家計支出は、 選択の余地の非常に狭い従って社会的一種の強制力をもった支出といえます。 それは 「社会的固定費目」 としての性格が強いことを意味します。 また、 短期的に繰り返される日常生活を維持するための支出の中では、 耐久消費財や教養娯楽費、 交際費、 こづかいなどは、 社会的慣習という社会的強要が働いている費目といえます。 これが欠けると社会的体裁を維持できなくなり社会的孤立化の原因となります。 従って、 これは 「社会的強要費目」 としての性格を持っていると言えるのです。 また、 食費や被服費は、 社会的と言うよりは個人的にその生理的あるいは肉体的再生産をするために必要とされる支出といえます。 それは 「個人的再生産費目」 ということができます。
 また、 家計調査の利点は、 生活基盤や社会保障・社会福祉諸制度に関わる国や地方自治体の政策が敏感に反映される点にあります。 特に、 1980年代の臨調 「行革」 から90年代の 「構造改革」 によって、 税金や社会保険料の増加はもちろんのこと、 社会的給付の削減が進み、 それを家計で補わざるを得ない状況にあります。 例えば、 医療保険の改悪により医療機関での窓口負担として保健医療費が増えることになります。 あるいは入院時の負担に備えてガン保険や成人病保険、 生命保険の掛金という形で家計負担は増えることになります。 年金保険にしても、 年金給付の支給開始年齢が引き上げられたり、 年金給付が引き下げられていますが、 それに備えて個人年金に加入する傾向がみられます。 また、 生活基盤の一つである住宅に関する国家の政策をみると、 持ち家政策が中心で公営住宅は5%に満たないという現状では、 かなり所得の低い層までも無理をして住宅を取得しているのです。 その結果、 長期間にわたる多額の住宅ローン返済に追われることになります。 また、 教育政策をみると、 私学助成金が削減されれば、 授業料の増大として家計に跳ね返ってくるのです。 つまり、 これらは、 生活基盤や社会保障・社会福祉諸制度のあり方や政策が密接に家計支出に反映されることを物語っているのです。 社会的給付が削減されれば、 その分それ以上に家計で補わざるを得ないことを示しているのです。 それだけに家計支出は膨張することになるのです。 家計調査ではこのことが把握できるのです。 これらの家計負担は、 生活基盤や社会保障・社会福祉を確保するための家計負担と言うことができます。 それは先に見た 「社会的固定費目」 の中にはいるのです。


3. 家計の 「硬直化」 の進展
 では、 実際に、 総務庁の 「家計調査」 から 「社会的固定費目」 の家計支出総額に占める割合をみることにします。 図1で示されている斜線の部分が 「社会的固定費目」 を意味します。 これをみると、 1973年から急速に割合が上昇しているのが分かります。 1973年の27.5%から80年には35.2%と30%を超え、 85年には40.4%と40%を超えています。 その勢いは止まることを知らず、 2001年には45.1%を占めるにいたっているのです。 1955年から1973年の 「高度経済成長期」 には27%台を維持し、 むしろ低下傾向すらみせていたのですが、 1973年以降今日に至る 「低成長期」 に入ると、 一転して急激な上昇を続けていることになります。
 それは、 高度経済成長期に税金、 社会保険料や公共料金などの 「社会的固定費目」 の伸び率が低かったからではありません。 事実、 この間の 「社会的固定費目」 の年平均伸び率は9.9%にも上っているのです。 しかし、 それ以上に家計の収入総額 (賃金80%) の伸び率が高かったのです。 事実、 収入総額の年平均伸び率は10.0%でした。 このことが 「社会的固定費目」 の割合の上昇を抑えてきたのです。 この時期、 労働組合による春闘のベースアップによって、 「社会的固定費目」 の伸び率をやや上回る賃上げが可能だったのです。 ところが、 「低成長期」 に入ると、 景気の低迷と春闘の崩壊により、 賃上げ率は急速に低下し、 1995年以降になると収入総額はマイナスとなります。 それに対して、 「社会的固定費目」 の伸び率は収入総額の伸び率を上回り、 その結果、 「社会的固定費目」 の割合を急速に押し上げていったのです。 この 「社会的固定費目」 の膨張によって、 食費や被服費の節約・削減、 教養娯楽費、 交際費、 こづかいなどの削減、 耐久財の買い控えが進んでいるのです。
  「社会的固定費目」 の割合が上昇を続け45%を超えるようになったことは、 それだけ家計が 「硬直化」 したことを意味します。 家計収入の割には生活にゆとりが感じられなくなっているのです。 それだけに、 収入の変動に対し家計が破壊される脆さを示すことになります。 収入の変動を最も受けやすいのは低所得層です。 低所得層は、 その就業形態が不安定である場合が多いという社会的性格を持っているからです。 次に、 低所得層を中心に家計分析をすることにします。


4. 低所得層における家計負担の逆転現象
 さて、 高度経済成長期の始まりとされる1955年の家計調査で 「社会的固定費目」 の割合を年間収入五分位階層別にみる (図2) と、 所得の低い階層ほどその割合は低く、 所得が高くなるに従い高くなっているのが分かります。 税金、 社会保険料や公共料金などの負担は、 明確に所得に応じて高くなる応能負担原則を示していたのです。 それだけ所得再分配機能が強く働いていたことになります。 ところが、 高度経済成長期の終わりの年である1973年になると、 「社会的固定費目」 の割合は、 1955年と比較すると、 最も所得の低い第■五分位階層で急速に上昇し、 逆に最も所得の高い第■五分位階層では低下しているのです。 その結果、 「社会的固定費目」 の割合は平準化したのです。
  「高度経済成長期」 は、 賃金格差が縮小し、 生活の標準化が進んだのですが、 それには2つの側面を持っていました。 確かに一方では食生活や衣生活あるいは耐久財や教養娯楽などの標準化が進み、 生活は改善していったとみることができます。 しかし他方では 「社会的固定費目」 もまた標準化が進んだのです。 それは、 住宅の取得や高い進学率などの改善された面があるとしても、 低所得層をも巻き込んだかなり無理をしたものであろうことが推測されるのです。 またそれは、 この時期すでに、 低所得層への薄く広い課税や保険料の徴収あるいは公共料金などの徴収が進んだことを示すものです。 これは明らかに所得分配機能の低下を意味するものに他なりません。
  「低成長期」 に入ると、 「社会的固定費目」 の標準化は更に進み、 90年代の終わり頃からついに低所得層の方が負担割合が高くなるといった家計負担の逆転現象をみせるようになるのです (図3の斜線部分)。 ここにいたって、 所得再分配機能は完全に麻痺状態となったのです。


5. 「相対的貧困」 から 「絶対的貧困」 へ
 家計に現れている所得再分配機能が低下から麻痺状態に達しているということは、 どのような結果を生むのでしょうか。 その点を次にみてみましょう。
 現在進行している家計の硬直化は、 かなり高所得層をも巻き込んで進んでいます。 高所得層といえども、 収入の変動は家計の破綻に直結しているのです。 それ以上に、 低所得層では、 家計の破綻はすでに始まっているものと推測されます。 「社会的固定費目」 の支払いは否応なく銀行から引き落とされ、 その残りで家計をやりくりせざるを得ない状態となります。 食費、 被服費の節約、 耐久財の買い控え、 家族旅行や家族や友人との外食の節約、 こづかいの節約、 これまでの生活とは全く異なった生活が展開されているのです。 耐久財や教養娯楽費、 交際費、 こづかいなどの節約は、 社会的体裁維持を困難にし、 その結果、 社会的孤立化を強めることになります。 こうした生活状態は、 いわば 「見えない貧困」 といえます。 特に外目には目立たない貧困の状態なのです。 それをイギリスの貧困研究者のタウンゼントは、 「相対的貧困・剥奪」 の状態といっています。 その時代その社会の人並みの標準的生活を剥奪された状態なのです。
 家計の硬直化が極限に達すれば、 最も節約しにくいはずの 「社会的固定費目」 の支払いが困難になります。 例えば、 生命保険や貯金の解約、 授業料などの教育費の支払い困難、 住宅費、 住宅ローン返済の困難、 電話代、 水道・光熱費の支払いの困難、 国民年金や国民健康保険の保険料の支払い困難などが進むのです。 こうした生活状態は、 社会制度から遠ざけられ排除されていく状態であり、 「社会的排除」 の状態ということができます。 また、 はっきりと外目にも見える 「見える貧困」 = 「絶対的貧困」 状態といえるのです。
 現代社会は高度に発展した成熟した社会といえますが、 その中に貧困の逆ピラミットが形成されているのです。 最も底辺にはホームレスに代表されるような 「絶対的貧困」 層が存在し、 その上に 「相対的貧困」 層が存在し、 更にその上には、 家計の硬直化が進んでいる一般階層が貧困の予備軍として存在しているのです。


6. 社会制度から遠ざけられ排除されている人々 ― 「絶対的貧困」 の実相―
 では、 実際に社会的排除はどの程度進んでいるのでしょうか。 戦後、 「国民皆年金・皆保険」 の実現ということが、 最もよく社会保障制度の充実を言い表しています。 ところが、 この 「国民皆年金・皆保険」 が崩れているのです。
 まず、 国民健康保険制度から検討してみましょう。 国保加入者は一般には自営業層が多いと言われてきましたが、 この間のリストラによる失業者や低賃金・不安定雇用層が増加する中でその構成が大きく変化しています。 第1位が労働者の30.2%、 第2位が年金生活者の27.9%、 第3位が所得のない者の25.1%、 第4位が自営業層の10.5%、 第5位が農民の2.8%となっています。
 国保の保険料 (税) の滞納世帯の推移をみる (表1) と、 1998年の約322万世帯 (16.5%) から2003年には約455万世帯 (19.2%) にまで増加しています。 滞納世帯に対する制裁措置として正規保険証の取り上げが行われていますが、 それをみると、 99年の約40.7万世帯から2003年には約120.4万世帯へと約3倍に膨れ上がっています。 120.4万世帯の内、 資格証明書の発行は約25.8万世帯、 短期保険証の発行は約94.6万世帯に上っています (表2)。 いずれも社会保険庁の毎年6月1日現在での調査によるものです。
 資格証明書というのは、 滞納期間が1年以上の場合に発行されます。 それを医療機関の窓口に持っていっても利用者負担が10割と保険が効きません。 領収書を市町村窓口に持っていけば、 保険給付の7割が還付されますが、 1年半以上の滞納の場合にはその保険給付が一時差し止められ還付されないのです。 また、 滞納期間が1年未満であっても、 1か月2か月3か月しか有効でない短期保険証が交付される場合があります。 低所得者にとっては、 ただでさえ所得が少ないうえにその負担が重くなり、 病気があっても医療機関から遠ざけられ、 社会制度から排除されることになるのです。 これは命に関わる重大な問題を含んでいます。
 次に、 国民年金制度について検討することにします。 社会保険庁の調査によると、 国民年金の納付率 (被保険者が保険料を納付すべき月数に対する当該年度に保険料を納付した月数の比率) は、 95年の84.5%から2002年には62.8%まで低下しています。 実に37.2%もの未納率ということになります。 この未納者に免除者を加えると、 国民年金の保険料を払えないあるいは払っていない人は41.5%と推定されるのです。 これらの多くの人々が、 将来、 低年金生活者や無年金者となる可能性が高いことになります。
 では、 未納理由についてみると、 社会保険庁の調査では、 第1位が 「保険料が高く、 経済的に払うのが困難」 で64.5%にも上ります。 第2位が 「国民年金をあてにしていない、 または、 あてにできない」 の15.0%、 第3位が 「支払う保険料に比べ、 受け取る年金額が少ないと感じる」 の4.5%と続いています。 年令階層別にみても、 確かに若年層では年金不信が根強いことも事実ですが、 それ以上に経済的理由が大きく若年者でも過半数に上っていることに注目すべきです。
 これら以外にも、 就学援助を受けている児童生徒の増加 (全国平均で10%)、 多重債務による自己破産の増加、 ホームレスの増加などがあります。 これらが、 これまで検討してきた社会経済的要因によって構造的に作り出されていることに留意しなくてはなりません。


7. 結びにかえて
 これまで見てきた様々な貧困の現象に対して、 暗澹たる思いをする人も多いと思います。 出口の見えない閉塞感が漂ってきます。
 最初に触れたアマルティア・センの言葉を思い出してもらいたい。 どういう社会であれ、 それを持続可能な制度にするためには、 個人間の格差に平等な配慮を必要とするのです。 それは、 人に優しい公平な社会といえます。 確かに、 現代の社会は、 それとは反対に、 強い者が勝つといった能力主義や経済効率主義に大きく舵を切っている社会です。 個人間の格差を是認する方向に向かっていると言えます。 その結果、 社会制度から遠ざかり排除される人々が増えているのです。 しかし、 いずれそういった社会は、 破綻の道を歩むことを、 センは教えているのです。
 21世紀を迎え、 新しい社会のあり方が模索されていると思います。 人に優しい公平な社会を模索することが大切だと思います。
 まず、 自分自身の会計を点検することをお奨めします。 そうすれば、 ここでいう 「社会的固定費目」 に収入の多くが消えていくことに驚かされると思います。 残された額で何とかやりくりせざるを得ないのですが、 何を節約したらよいか分からなくなると思います。 そういったことは、 自分だけではなく、 国民の多くの人々が同じ状況にあるのです。

図1 勤労者世帯1か月の家計支出構造の推移

年間収入五分位階級別、 勤労者世帯1か月の家計支出構造
図2 1955年と1973年の比較
図3 1990年と2001年の比較

表1 国民健康保険の保険料 (税) の滞納世帯の推移 単位:世帯
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
全世帯
19,519,293
20,337,706
21,153,483
21,943,183
22,834,063
23,732,335
滞納世帯数
3,219,262
3,485,976
3,701,714
3,896,282
4,116,576
4,546,714
滞納世帯の割合
16.49%
17.14%
17.50%
17.76%
18.03%
19.20%
注1:滞納世帯は概ね6月1日現在の状況
注2:全世帯は各年3月31日現在の状況
資料:社会保険庁

表2 資格証明書と短期保険証の交付世帯数の推移 単位:世帯
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
総数    ■
406,958
496,031
804,963
1,003,518
1,204,156
資格証明書 ■
80,676
96,849
111,191
225,454
258,332
短期保険証 ■
326,282
399,182
693,772
777,964
945,824
 A/全世帯
2.00%
2.34%
3.67%
4.39%
5.07%
 B/全世帯
0.40%
0.46%
0.51%
0.99%
1.09%
 C/全世帯
1.60%
1.89%
3.16%
3.41%
3.99%
 A/滞納世帯
11.67%
13.40%
20.66%
24.38%
26.48%
 B/滞納世帯
2.31%
2.62%
2.85%
5.48%
5.68%
 C/滞納世帯
9.36%
10.78%
17.81%
18.90%
20.80%
注1:資格証明書、短期保険証の発行世帯数は各年6月1日現在の状況
資料:社会保険庁

表3 国民年金の収納率の推移
1995年
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
84.5
76.6
74.5
73
70.9
62.8
注:各年度末現在
資料:社会保険庁