『協う』2004年2月号 人モノ地域

●ほんものの豊かさの実現の為に
『おおさかパルコープ 「住まいの研究会」 組合員活動紹介』


京都大学大学院経済学研究科修士課程 宮 川 加奈子 

 くらしの中でも 「食」 を中心とする生協の組合員活動の中で、 「住まい」 の大切さに早くから着目し、 組合員に発信している元気なグループがある。 おおさかパルコープ 「住まいの研究会」 である。 「住まい」 を取り上げている事も全国において稀であるが、 これほど充実した活動を長く継続している事も注目に値する。 取材の折には、 数々の特筆すべきメッセージをいただいたが、 字数の制限もあり、 今回は具体的な活動の一部をここに記すにとどまった。 是非一度参加し、 その 「心」 にふれていただきたい。


1 これまでの活動紹介
  「住まいの研究会」 (以下 「住まい研」 と略す) の前身は 「住グループ」。 なんと今年で16年目という歴史ある研究会である。 現在のメンバーは8名で、 パルコープ枚方組合員会館に月3回程集まり、 雑談を交えながら問題意識や情報の交換、 そして柱たる三つの活動の企画を行っている。 三つの柱とは、 ■年3~4回発行の冊子 『住まい人』 の製作、 ■組合員を対象とした 『秋の講座』 の開催、 ■自然素材を使った 『手作り講座』 の実施であり、 次に紹介する。 年度ごとのテーマを軸にこれらの活動をコーディネートし、 できるだけ多くの組合員が参加できるようにと、 意欲的に学習を重ねている。
■ 研究会紙 『住まい人』
  「『住まい』 は 『暮らしの器』 であり、 生活を規定する。 私達は安心・安全な 『住まい』 を手に入れる為に、 これを人任せにするのではなく、 もっと 『住まい』 について知らなければならない。」 こうした考えをもとに 『住まい人』 は製作されている。 内容は、 「日本の住宅政策」 「シックハウス」 「欠陥住宅」 についての理解や気軽に目が通せる 「こだわりの家見学」 「京の町屋探訪」 「芦生の森~原生林体験記」 などのドキュメント、 さらには 「海外の暮らしと住まい」 を取り上げたコラムなど豊富で、 読んでいて実に面白く、 また調査やデータが豊富で読みごたえがある。 また内容からは、 「住まい研」 の皆さんの探究心の強さに驚かされる。 常にアンテナを張っており、 興味深い施設や場所を発見するとすぐに現地へおもむき、 その体験を報告してくれるのである。
■ 『秋の講座』、 講習会
 毎年秋に 「住まい研」 主催で講師を迎え、 組合員を対象に講座を開いている。 昨年は、 アレルギー科皮膚科医師による、 「お医者さんの話す、 体にやさしい暮らし方」 のテーマでの講演が行われた。 約50人の組合員が参加し、 たいへん盛況であった。 参加者の声を聞くと 「家を新築したいが、 子供のアトピーに悩んでいる」 など切実で、 体に良い住まいへの関心の高さを早い時期から実感してきたそうである。 『秋の講座』 の他にも、 『もく (木) の会』 (女性建築士ネットワーク) と交流をもち、 共催で講習会を開くなど活動の輪を広げている。
■ 自然素材を使った 『手作り講習会』
 家族にはそれぞれ 「住まい方」 がある。 できればモデルルームのような 「できあい」 の家でなく、 「私達らしい生活」 のできる家を手に入れたい。 この実現のために 「住まい研」 はあらゆる調査をし、 『住まい人』 の中でそれらをわかりやすくかみ砕いて組合員に伝えていく活動をしている。 中でも、 家を構成する 「素材」 については、 健康に対する影響が大きい事から、 これまでに何度も取り上げ、 化学物質の危険性や自然素材の良さを紹介している。 その具体化として、 生活において自然のものを増やしていこう、 住まいを自分の手で作っていこうと、 年数回 『手作り講習会』 を開いている。 組合員に参加を呼びかけ、 プランターや家具などを作る 「木工」 に始まり、 今では部屋を提供してくれる人を募集して、 現場で 「自然素材の塗装」 や 「和紙張り」 「杉板ばり」 を行うなど力が入っている。 初めは大工道具の使い方もままならなかったが、 今では 「マイドリル」 や 「マイ工具セット」 を持つまでになったそうである。


2 盛り上がる 『手作り講習会』 :寝屋川組合員会館保育室の改装
  『手作り講習会』 の実習の中で、 「住まい研」 の素材・健康にこだわった知識、 経験はふくらみ、 とうとうそれを皆にアピールできる大きな機会を得た。 次に紹介する寝屋川組合員会館保育室の改装である。 当保育室は創立当初、 注文書の保管や印刷室として使われていたこともあり、 暗く冷たいかんじの部屋であった。 「住まい研」 は以前より、 「もっと保育に適した環境に改善すべき」 と声をあげてきたが、 なかなか実現しなかった。 そんな中で築15年程になり、 雨漏り等傷みが目立つということで、 2001年に全面改装することになった。 そこで、 「保育室だけは他の部屋のようなビニールクロスや合成接着剤を使わず、 子供達が触ったり、 床に転がったりできる部屋にしたい」 と申し出、 その思いが聞き入れられて、 工事への参加が実現した。 これまでの学習と経験をフルに活かし、 「子供達が安心して遊ぶことができる部屋」 を目指した。 下地などの基礎となる部分は専門家に頼んだが、 断熱材を敷き込むのも、 材料をノコギリで切るのも、 全て自分達で行った。 組合員も参加し、 作業は5日間に渡って行われた。 床には吉野の檜を、 腰壁には吉野の杉を用いた。 壁の塗装には自然素材を原料とするものを用い、 他の部分には土佐和紙を貼った。 和紙を貼る糊も、 強力粉を炊いて、 その場で手作りした。 大きな和紙の糊付けはプロでももて余すものだが、 果敢に挑戦し、 その出来栄えは見事なものであった。
 入り口のドアを開けると、 ほんのり木が香る。 明るい室内はとても居心地が良い。 利用者は、 「本当に良くなった!嬉しい」 「なんだか和む」 と笑顔に。 保育のいらない小学生も遊びに来たがるそうである。 参加者は 「自分達で出来るとは思わなかった」 「一人では絶対出来ないが、 皆で作業すると楽しい!」 と充実感と感動でいっぱいになった。
 この 『保育室の改装』 で、 問題意識を初めて 『空間』 として実現できたという喜びがあった。 また、 このように皆が共有する場所を手がけることで、 皆が快適で気持ちよく、 そして 「自分達の力で住まいを良くする」 という意識を多くの人に訴えることができた事は、 たいへん意義があった。 今後もこうした人の目に当たる大きな場所での活動を試みたい、 と 「住まい研」 の皆さんは語る。


3 組合員活動のこれから
 今回、 研究会の皆さんにお話を伺い、 メンバーの方々が皆生き生きとかがやいており、 向上心を持って活動をしていらっしゃる姿がとても印象的であった。 なぜそのように労苦をいとわず、 忙しい中進んで勉強し、 皆が参加できる活動を企画できるのだろうか。 「住まい研」 の皆さんは同じ見解を持っていた。 “自分一人の力では何も変えられない。 社会の大きな流れの向きを変えるには、 一人でがんばっても仕方がない。 皆に広め、 皆の意見が一致し、 初めて世の中は動いていくのだと思う。”これはまさに皆で良い社会を作ろうとする協同の意識ではないか。
 出資をして 「組合員」 となっても、 商品の購入にとどまり、 生協活動に参加しない人が多くある。 生協としても、 近年は他の私企業との差異が小さくなり、 その社会的な意味をもっと消費者に理解してもらう必要があるという課題意識はあるものの、 なかなか現実的な改革の動きに結びつかないでいるようである。 そのような中、 「おおさかパルコープ」 は、 地域の色なのか、 組合員活動が盛んで非常に元気である。 組合員は皆それぞれに問題意識を持ち、 進んで活動に参加し、 その中にやりがいを見出している。 また活動の中で関係性は深まり、 それが生活を豊かにする力となっている。 これは生協としての理想的な姿であるように感じられた。
 このように活発である組合員活動を、 生協はその事業の中にもっと生かしていくべきではないか。 組合員の生活の向上を目的としている生協事業は、 組合員の生の声を集積しているこれほどのシンクタンクをあそばしておいてはいけない。 「住まい研」 としては、 今後 「生協の住宅事業 (*パルコープ出資の別会社)」 とできるだけ多く交流の場を設け、 情報交換を進めて組合員の声を伝えていきたいと考えている。 生協の 「住まい」 事業は、 まさにこれからといった印象であるが、 生協らしい、 よりよい 「住まい」 の提供を実現するために、 今後の両者の連携に期待をしたい。