『協う』2004年2月号 特集
生協の“住まい事業”に
期待されること
上野勝代 (京都府立大学 人間環境学部教授)
1. 住まいをめぐる近年の消費者問題
近年の住まいをめぐる消費者被害を国民生活センターがまとめた資料をみると、 量的に多い賃貸住宅・マンションの契約を除くと、 最近急速に問題化してきたのがシックハウス症候群とリフォームをめぐるトラブル事例である。
やや詳しくなるが、 具体的な状況を理解していただくためにその例を紹介しよう。
<訪問販売の住宅リフォームトラブルが増加―2002年の十大項目の一つに>
・住宅のリフォーム工事に関しては年々相談件数が増加しており、 1997年度以降2001年度までの5年間に寄せられた苦情は41,262件で、 そのうちの8割が訪問販売によるものとなっている。
訪問販売の住宅リフォームに関しては、 苦情件数が多いだけでなく、 執拗な勧誘、 虚偽の説明、 強引な契約、 ずさんな工事、 トラブル時の対応の悪さなど、
内容も深刻なものが多い。 又、 契約金額も平均200万円を超える高額なものとなっている。 60歳以上の高齢者に被害が目立つことも見逃せない特徴となっている。
(『消費生活相談にみる2002年の10大項目』 2002年12月6日国民生活センターより)
・住んでいる家や設備について不安をあおり、 早く手を打たなければならないと焦らせて販売するもの (「床下換気扇」 「屋根工事」 「修理サービス」 「建物清掃サービス」
「他の工事・建築サービス」 など) も多い (『消費生活年報2003』 より)。
<深刻な高齢者の消費者トラブル>
・高齢者の消費者トラブルとして、 “次々販売”が増加し、 「ふとん類」 「着物類」 についで、 「屋根工事、 増改築工事等の工事関係」 「床下換気扇などの住居管理設備」
が上位にあがっている (『消費者被害注意情報』 No.16, 2002年より)。
<バリアフリー頼んでみたものの不満目立つ住宅改修>
・国民生活センターの調査では、 介護のための住宅改修をめぐるトラブルが多発している。 その背景には経験・知識のない業者が入り込んでいる、 お年寄りがたよりにするケアマネージャーの住宅改修に関する知識も不十分、
専門家による助言・監視が制度に組み込まれていないなどがある (2002年7月10日付 『朝日新聞』)。
<急増するシックハウス症候群>
・国民生活センターの 「危害情報」 へのシックハウス症候群と見られる症状は1987年には6件であったのが、 94年度以降増え始め、 97年度185件、
98年度212件、 99年度188件、 2000年度263件、 2001年度167件である。
・ハウスメーカー約500社を対象とする調査によると、 シックハウスによる苦情を購入者より受けたメーカーは13.3% (国民生活センター2002年1月調査)。
このように、 住まいをめぐるトラブルは、 一見巧妙な手口をつかった悪質な業者によるものが多いように見えるが、 その背景には、 地域に信頼できる知り合いの大工や業者を知らない消費者、 家を建てたり修理の体験がない消費者が多数を占め、 建築業界の再編成の中で下請けとして厳しい労働環境にある大工工務店の増加など、 現代社会の大きな構造変化がある。 被害の内容も、 正直でなく不誠実な取引対応や品質、 価格といった古典的問題から、 化学物質過敏症のような今日的問題までを広範に含んでいる。
2. 全国の生協の住まい事業
このようななかで、 生協はどのように対応しているであろうか。 残念ながら、 その全容がわかる資料はまだできていない。 全国の生協のなかで住まい事業を展開している生協は自主的に全国交流会を開催しており、
幹事の1人であるめいきん生協の磯部統括によると、 同会に参加しているのは2002年9月現在、 全国で約46生協あり、 総事業高が約224億円という。 そのほとんどは90年代から事業を始めたもので、
生協のなかでは比較的新しい分野である。 主要な事業としては、 増改築、 内装、 外装、 壁、 屋根、 水回りの<リフォーム>であるが、 なかでもとくに<修理、
修繕>の件数が多く、 このほかに<シロアリ防除><建具><ハウスクリーニング>なども扱い、 <新築>をてがけるところもある。 交流会が行ったアンケート調査を見る限りにおいて、
2002年度の決算において前年度比で供給高が伸びたところが18、 ほとんどかわらずが3、 減少したところが8である。 減少したうちの2は契約数においては増加しており、
1契約あたりの単価が減ったためである。 つまり、 建築分野の倒産が続き、 大手住宅メーカーがリフォーム事業を始めたというような厳しい状況のなかで、 よく健闘しているといえるのではなかろうか。
そして、 当面の仕事に追われ、 良質な施工業者を確保することに苦労し、 なんとか組合員の要求に応えようと格闘している姿が浮かび上がってくる。 多くはまだ組合員や地域住民から安定的な事業として評価され市民権を得ているとは言い難いが、
なかには“これこそ、 生協らしい”住まい事業を展開したところがある。 紙幅の関係でそのうちの二つ、 コープこうべとめいきん生協のとりくみをここでは紹介したい。
3. コープこうべの取り組み
―地域のハウスドクター―
コープこうべのハウジング部が4名でスタートしたのは1973年のことである。 その前身は家具を中心にインテリアの物販をしており、 1969年にはインテリア専従制が確立され、
1971年には500坪の総合展示場をつくった。 その後、 ハウジング部門の独立を経て1987年12月に子会社コープ住宅 (株) が設立され、 89年1月に住まいの事業部が発足して、
インテリア担当からハウジング担当へのシフトが進むこととなる。 95年の阪神・淡路大震災の1年後にハウジング事業の強化改革をスタートさせ、 コープ住宅を窓口とした元請け業務を始め、
現在に至っている。 営業担当が約70名で、 受注軒数は2万1500、 3万6000件であり、 受注高約67億と大口の改修を専門とする大手住宅メーカーを除くと、
リフォーム業界ではまさにトップに属する規模となっている。 ただし、 平均単価はリフォームに限るとわずか15万8千円と、 小口でもきめ細かく対応して経常利益をあげている状況がわかる。
ここで注目されるのは、 再受注率つまりリピーターが83%を占めていることであり、 工事終了後のアンケート結果 (図1) に見られるように、 きわめて、
満足度が高いことである。
この成功のポイントはどこにあるのか。 資料より筆者が読み取れることは、 第1に、 徹底して組合員の立場、 気持ちを大事にした接遇対策と業者指導を重視していることである。
具体的には、 業者に6つの約束事 (養生をきちんとすること。 挨拶をすること。 タバコの処理を適切に行うこと。 仕事中はラジオを聴かないこと。 整理・整頓をきちんとすること。
上履き下履きの区別をすること) を守らせ、 この約束事看板を現場に設置した。 また、 安全対策、 養生ネット、 現場周辺の掃除の徹底、 名札や制服・制帽の着用、
自己紹介の立て札の実施など、 従来の建築現場でみられるマナーの悪さを排し、 近隣との困りごとに丁寧に対応するという施策を採ることによって安心感を与えることとなった。
6つの約束事は必達課題であり、 その他の上記マナーを含めて業者に徹底するために、 ペナルティー制度を適用した。 接客対応に関しては一度の研修で済ませるのではなく、
日常の必達課題と位置づけて、 現在でも朝礼時の電話応対用語の復唱や営業部門では日時の約束時間の厳守と見積書の 「お届け日時」 の約束が追求されている。
第2は、 専門的知識の必要な積算・見積もりや現場監理は建築士を擁するコープ住宅が担って品質管理を行い“安全”を担保し、 組合員の声・要望を聞くことには柔軟な対応が苦手な建築職員よりも生協職員が担うというように、
それぞれが得意とする分野での機能分担を的確に行っていることである。 そして、 現場には一貫して生協の職員の姿が見え、 組合員が“安心”できる体制をとっている。
第3に、 エリア毎に協力工務店を確保し、 育てていることである。 どんなに腕が良くても、 あるいは安い工事単価で工事してくれる業者であっても、 現場への往復に時間がかかるようでは採算的にも、
また組合員のニーズからも成り立たない。 組合員は、 水道のパッキン一つの取り替え、 ガラス1枚の要請にも直ぐに来てくれる業者を求めている。 このような小修理に多額の工事費を取るわけにもいかないので、
こうした要求に応えるためには、 工務店の立地が自ずから制限される。 先に述べたように業者指導の徹底と同時に優良業者の表彰も行っている。
第4に、 アフターケアに努めていることである。 たとえば、 リピート率を高めるために、 リフォームメモリーを残し、 次のリピートへと結びつけている。
また、 OB 組合員を大切にしていることも重要である。
第5は、 現場を 「営業ステージ」 ときちんと位置づけ、 「安全・快適」 な施工現場の実現と同時に生産性の向上、 供給高の増進に結びつけていることである。
生協担当者は工事の完了時には完了検査と評価を聞き、 次回工事のお願いと組合員の紹介をあわせて行っている。 また、 その現場の周辺を訪問し、 見込み客の発掘を行い、
友の会へと組織している。
以上のような対応の結果、 先に述べたように組合員の満足度は高くなる。 では組合員は何故生協を選んだのであろうか。 興味深い結果が図2に現れている。 コープを選んだ理由は、
第1が 「アフターサービス、 安心」 の32.8%、 ついで 「価格、 信用」 の23.5%で、 いわゆる 「プラン、 提案力」 という設計の良さに関しては7.1%に過ぎない。
そして、 「生協担当者への信頼」 が18.7%と、 「工事の信頼」 の15.6%よりも上回っている。 つまり、 組合員は生協をまず“信頼”し、 いざというときの“安心”そして“価格”をもとに選んでいることがわかる。
「安全」 つまり工事の質への期待は、 33年間の実績、 高いリピート率が示すように、 当然適正になされているという前提で信頼感のなかにすでに含まれているようにみえる。
コープこうべのリフォーム事業はまさに、 地域の組合員にとって、 かつてのような地縁関係での信頼に代わる新しい地域の“信頼”できるハウスドクターとして定着している。
4. めいきん生協の取り組み
―生協運動と事業の統一―
設立8年目を迎えるめいきん生協住まいの事業部は事業高14億円とコープこうべ、 コープさいたまに次いで全国3位である。 東海の4つの生協 (めいきん生協、
コープぎふ、 コープみえ、 みかわ市民生協) で 「住まいの事業」 部門は25億円の事業高となる。
立ち上げは 「組合員の住まいの要望」 を聞くこと、 つまり 「住まいの相談会」 の開催から始まった。 96年に5カ所から始まり、 99年では26カ所に広げ、
5年間で1万人の組合員からの 「住まいの相談」 に対応した。 組合員数約20万人から見ると、 いかに多くの組合員が相談会に参加しているかがわかる。
組合員の相談内容は 「リフォーム」 40%、 「診断、 防蟻」 15%、 「新築建て替え」 9%、 「欠陥住宅」 5%、 その他31%である。 相談内容より、
「住まい」 について 「食」 と違って日常的には関心があまりもたれないが、 必要なときに必要な情報を得る上では、 相談するところや相談する人がすぐには見つからないという状況にあることが浮かび上がってくる。
組合員の基本的な要望は、 「どんなことでも安心して相談できるところを知りたい」 「どんな工事でも気軽に安心して頼める業者を知りたい」 ということにあった。
これをうけて、 めいきん生協は生協が住まい事業に取り組む役割は■相談の場作り、 ■情報公開の仕組み、 ■信頼できる業者の紹介、 ■組合員主義、 地域主義、
設計施工分離といった思想形成にあると考えた。 組合員の住まいの要望に継続して応えるためには、 「事業」 が必要になると考え、 情勢の変化と組合員の要望にそって、
年次計画を立て、 相談内容から明らかになった課題と情勢分析をにふまえて事業化を進めていった。
めいきん生協の特徴は、 第1に、 運動と事業を統一することにある。 生協運動を展開することで事業がついてくると磯部統括は語る。 具体的には、 暮らしの生協運動の柱として
「食と安全」 に対して 「住まいと健康」 と位置づけてきた。 今でこそ、 住まいに関しても“健康”、 “健康”と騒ぐようになり関心が高まってきたが、 めいきん生協は、
96年発足時よりこの問題の重要性を考えてきた。 関心のある組合員を中心に任意で 「住まいの研究会」 をつくり、 96年11月には 「住まいと健康を考えるシンポジウム」
を開催し、 翌年3月には田中恒子氏を講師として 「現在の暮らし方・住まい方を考える講演会」 を開いている。 98年度は 「住まいの健康大運動」 を事業部方針の
『全ての環』 と位置づけ、 ■シロアリ対策として薬剤に頼らない仕組みを全国に先駆けて開発、 ■地場の畳屋さんやい草生産者と提携し、 防虫シートや着色料不使用の畳を開発、
■建材の 「安心ガイドライン」 の作成と普及、 ■安心建材開発メーカーの組織化に取り組んだ。 以来、 98年には 「より安全、 安心な建材展示説明会」
を41社の参加の中で実施し、 同年10月には5年間の集大成として、 「健康めざし、 風土にやさしい住まい博」 を吹上ホールで開催し、 約3000人が参加した。
マスコミ各社の報道も反響の大きさをあらわしていた。
そして、 「暮らし方・住まい方の見直し」 が最大の課題であるという結論に到達した。 例えば、 アトピーの原因は 「食」 と共に 「住環境」 にも原因があることがわかってきた。
カビ・ダニの発生には換気と掃除が影響をおよぼし、 共働きと高気密な住まいが関係する。 このためには食生活の改善と共に 「暮らし方・住まい方の改善」 が求められてくる。
21世紀の国民病ともいわれる 「化学物質過敏症」 はまさに住まいの複合汚染問題でもある。
第2に、 組合員のニーズ把握に努め、 同時に暮らし方・住み方に対して生協側からも主張・提案を行うなど、 双方向でのコミュニケーションを徹底した。 相談会は組合員の個別ニーズに対応する情報提供の場でもあるが、
同時に組合員全体が、 今何を生協に求めているかを把握する上でも貴重な機会である。 また、 月1回発行する住まいの情報誌には物販的な商品価格を載せず、 生協の主張と情報を載せた。
「住まいの情報ステーション」 は提携を結ぶ施工業者の出資で 「事業協同組合」 として立ち上げたものであるが、 ここは、 暮らし方・住み方の見直し、 福祉や環境・健康を考えた暮らしの提案をコンセプトにした情報館となっている。
それは、 押しつけではなく、 考えさせ、 体験させる空間となっている。 確かに、 デザインやプラン、 設備の展示がスマートな住宅メーカーの展示場とはやや異なり、
ここは各空間が 「何故こうしたのだろう?」 「どうしてこの材、 設備を使うの?」 といちいちぶつかって考えさせる空間作りになっていた。 (図3)
第3に、 徹底して組合員の立場、 心を大切にすることを強調している。 相談会では直ぐには工事の依頼は受けず、 よく考えた上で判断するようにしている。
本当に必要な人は後で依頼の連絡を事業部にすることにしている。 スタッフは建築関係の資格を持っていないのである。 めいきん生協では施工と監理を分離し、 監理は提携契約した建築士に委任している。
アフターフォロー、 カスタマーチェックをめいきん生協が行う。 それでは生協が責任をもって、 質を保障できないのではないかと、 このやり方には異論を持つ人もいるかもしれない。
しかし、 筆者はある意味での卓見だと見る。
欠陥住宅は建築士という資格を持つ人がいるかどうかで発生するわけではない。 監理の基準を明確にし、 監理現場のプロである建築士をシステムとして擁することが重要である。
その建築士が外部の人間か内部の人間かは問題にならないであろう。 組合員からの信頼を得るためには、 実質として住宅の品質がどうであるのかということが問われる。
生協スタッフにはいずれにしても高い力量が要求され、 そのひとつとして建築関連の知識は重要ではあるが、 それは単に資格があるかないかではなく、 組合員の要求をキチンと汲み取れ、
業者に情報を公開させ、 説明責任を十分に果たさせたかどうか、 仕事を的確に遂行できたかどうかを判断できる能力を有することが重要と言えよう。
第4に、 地域課題を重視し、 他分野との協同を追求しようとしている。 例えば、 東海大地震が近い将来予測されている中で、 有料での住宅耐震診断の実施と耐震リフォーム活動。
医療関係者や研究者の最新情報を収集しながらホルムアルデヒドなどの室内環境汚染測定。 地域毎に医療・保健分野と連携した住宅改善、 高齢者のための福祉マンションとの連携などである。
そもそも 「地域ネットワーク事業体構想」 そのものが、 リスクの大きい住まい事業の中で、 いかに組合員の要望と運動そして地域課題を統一して実現するかという新しい<協同>のひとつの実験であるともいえよう。
第5に、 「健康」 「環境」 の課題にこだわったオルターナティブな政策提案、 生協らしい住まい事業をアグレッシブに提案しようとしている。 住まいをめぐる情勢分析、
「食と安全」 でこだわってきた生協の経験を 「住」 に活かすこととは何かを追求した事業展開でもあった。 ここには、 各専門家との学習会を重ね、 現地に学び、
最前線のシックハウス専門家国際会議にも出かけていき、 新しい情報を学ぼうとする熱きスタッフ達がいた。
ここで今考えられている提案が今後どのように具体化されていくのか目が離せない。
5. 21世紀、 生協住まい事業に求められるもの
●住まいにおける<安全><安心>とは
生協といえば 「食の安全・安心」 をそのキーコンセプトとして挙げる人が多い。
では、 生協における“住まい事業”とは何か? やはり、 そのキーは<安全><安心>にあると筆者は考える。 住宅産業はそもそも“クレーム”産業だといわれる。
現場での施工、 関わる職種の多さ、 職人の質の問題など個別性が高く、 また消費者側も経験・知識が少ないため、 全てを想定して契約できるわけではなく、 現場や材料が期待と異なり、
途中での変更もかなり多い。 材料の自然的な変化 (木材の乾燥収縮など) も少し時間を経てわかることが多い。 かつての出入りの職人達はそれを見込んで時期が来たら調節しに来たり、
台風や大雨の前、 正月前などには家の点検に足を運んできた。 また、 雑な、 質の悪い工事をするとその地域では仕事ができなくなっていた。 地縁的結びつきの強い地域社会のなかで<安全><安心>の信頼関係が築かれていたのである。
先にも述べたようにこの構造が変化し、 消費者は孤立し、 信頼できる業者を見つけることが難しくなってきた。 “住”をめぐる新たな<安全><安心>のシステムが求められているのである。
コープこうべは、 地域における消費者の課題に責任を持つ立場で、 いち早く、 この事業化に立ちあがってきた。 そして、 住における安全・安心とは何かを見事に示し、
トップになった今でも常に初心に立ち返って安全・安心を誠実に業務の中で貫いている。 全国の生協の中には、 リフォームのクレームが続出したので、 宣伝を中止したというところもあった。
上述したように、 住宅工事にはクレームが出やすいものだという前提に立って<安全><安心>を追求することが求められよう。 当初の品質管理と同時に、 アフターケアをきちんとするかどうかで、
消費者の業者への信頼は大きく異なる。
生協に期待する内容として、 京都府立大学の院生である将さんが京都生協組合員に対して4年前おこなった調査でも、 「アフターサービスや保証など安心できる」
が77%、 「要望がいいやすい」 が49%と上位にあがっていたのが注目された。 まさに、 一般の業者と異なる生協の良さはここにあらわれているといえよう。
クレームは改善のための薬であり、 これに対して誠実に対応できるかどうかの力量が特に求められてくる。 近年急速に供給高を伸ばしているみやぎ生協では、 「安全・安心を柱に展開してきました。
安全とは住宅建材から発生する有害物質からメンバーを守ること。 安心とは施工に対するものと、 施工後のアフターサービスフォローです。 できる限りわかりやすい見積りと工事説明を行う。
生協独自のアフターサービス基準証を作成して、 リフォームでは初めての工事保証をつけました。 勿論施工後の不具合には必ず対応しています」 とアンケート調査に回答を寄せている。
住における<安心>を構成する要素として適正な価格への期待は高い。 住の分野は専門的な知識を必要とし、 他とは単純に比較ができにくいだけに、 組合員は生協に期待するところがより大きい。
前述の京都生協組合員対象の調査でも、 生協を選んだ理由の第1位が 「価格が適正で信用できる」 ということであった。 適正価格という点で、 京都生協チーフの森野氏は
「現在は住宅工事コープ標準仕様に基づいて見積りを作成すると 『頑丈で耐久性のある工事』 の仕様になってしまい、 『安い工事』 や 『当面のまにあわせでよい工事』
という組合員のニーズを満たせない側面がある。 『松、 竹、 梅』 コースを用意し幅広い組合員のニーズに対応できる見積もり作成をおこなっていきたい」 と提案している。
●21世紀の住まい事業は“健康”・“環境”・“福祉”
今回寄せられた各生協アンケートや資料を読むと、 多くの生協は21世紀、 これからの住まい事業の課題を<健康><環境><福祉>にあると位置づけている。
ただし、 その具体的展開は、 各地域によって異なり、 様々な工夫が見られる。 例えば、 <健康><環境>を結びつけたおおさかパルコープは“コープの自然住宅”への取り組みを始め、
京都生協は府内産木材を利用した“コープ木の家”、 生協ひろしまは“エコリフォーム”に取り組もうとしている。 めいきん生協は先述のように先行して多くの試みを始めてきた。
21世紀の暮らしの課題は大きく言って、 この3つに集約されるであろう。
そして、 これらは単に住だけでも、 食だけでも実現されるものではない。 トータルに暮らしを考えることが今求められている。 生協内でも他分野との協働が重要である。
最後に、 日本生協連において“住”を一つの柱と位置づけて消費者の要求に応えることを強く望みたい。
また、 今回、 多くの生協からアンケートや資料のご協力があったことに対してお礼を言いたい。 分厚い資料やアンケートの数値を見たとき、 この忙しい折に、 丁寧に応えていただいたことにまず感激した。 それにもかかわらず、 それを紙面に十分に活かせなかったことをおわびしたい。 これは全く筆者の力不足であり、 いずれ、 この資料を何らかの形で活かし、 お返ししたいと考える。 また、 ヒアリングに応じ、 教えていただいたコープこうべの赤樫部長ならびにめいきん生協の磯部統括には厚くお礼を申し上げたい。
文責:上野勝代 (京都府立大学 人間環境学部教授)
図1 (コープこうべ 工事終了後アンケートより)
図2 (コープこうべ リフォームアンケートより)
図3