『協う』2003年12月号 書評1

地域の内発的発展を担う農協は救世主となりえるか
庄司 俊作
同志社大学
人文科学研究所教授

 


『アメリカ新世代農協の挑戦』
クリストファー・D・メレット/ノーマン・ワルツァー編著
村田武/磯田宏監訳
家の光協会 2003年9月 2,400円+税

 研究者向けの本である。 本研究所研究委員の村田武・田中秀樹氏らによる、 先進諸国における農協の革新の比較研究をテーマとする共同研究の成果の一部として翻訳出版された。 アメリカの農協の、 1990年代以降の動きを紹介分析し、 新しいうねりの中に21世紀の農協の展望とその普遍性を論じている。 「農協改革」 が課題となっているわが国にとっても本書の問題提起は刺激的だ。 「実践的な専門書」 とされるゆえんである。
 件の主は 「新世代農協」 だ。 新世代というからには一方に 「伝統的農協」 がある。 新世代農協は域内農産物を原材料とする加工事業を事業の柱をする。 農産物に付加価値をつける加工事業によって域内雇用が生まれ、 またその利益が域内経済循環を潤す。 こうして地域振興に結びつく。 ところで、 組合員が加工施設に出荷できる農産物の数量は効率性原理によって制約され、 組合員資格は出荷権利を購入した生産者に限られる。 そこで、 事業構造に対応した特有の資金調達構造 (出荷権利株) と組合員資格 (制限的組合員制) が組織の特徴となる。
 新世代農協は1970年代終わりに登場し、 1990年代に本格的な展開を見る。 特に北ダコタ州、 ミネソタ州等北部大平原地域が多い。 中西部の諸州に広がり、 カナダにも生まれた。 1980年代農業不況の影響が最も深刻であった地域に多い。 これらの地域では州政府が新世代農協の育成による農村地域振興に重点的に取り組んできた経緯がある。
 経済のグローバル化は農業をめぐる国際的な市場競争を激化し、 工業の農村誘致による地域振興を困難にした。 価格政策等が縮小撤廃され農業所得は伸び悩み、 財政難のなか財政支援も期待し難くなった。 農山村地域の衰退が先進諸国に共通して進行した。 今や 「自律的・内発的な地域振興・開発の主体あるいはツール」 としての協同組合セクターが求められるに至った。 その芽を新世代農協に見て評価するのが翻訳者グループの立場だ。 国際農業協同組合運動の中で新世代農協は 「オルタナティブ」 となりうるとも言う。
 やや気になったのは、 新世代農協と家族農業経営との関係だ。 新世代農協が活発に活動しているのはアメリカで家族農業経営が根強い地域である。 多分、 新世代農協の活動は家族農業経営が主体となった、 危機に対する防衛の行動という側面がある。 だとすれば、 新世代農協を21世紀農協とする以上、 「新千年紀は…家族農業経営の消滅を見ることになろう」 (107ページ) とする将来展望は不可解だ。 もう一点、 新世代農協は移民大陸型農業というアメリカの特殊性と不可分のものだろう。 翻って日本の農協は農業の特殊性を反映した 「総合農協」 として展開してきた。 本書を踏まえ、 日本について新世代農協の適用可能性をどう考えるかも気になる点である。