『協う』2003年6月号 コロキウム
「農」 と 「食」 の再生と地域農業振興
弘前大学農学生命科学部教授
神田 健策
はじめに
2001年9月にわが国で初めて発生した牛海綿状脳症 (BSE、 いわゆる狂牛病)、 これに対する行政の対策に乗じた大手食品会社の牛肉の偽装・不正表示、
続いて畜産関係業界の商品偽装・不正表示問題が大きな社会的関心を呼んだ。 さらに、 これらの問題は畜産物に限らず、 青果物・魚介類までに及び、 今日、 食品・農産物に対する国民・消費者の不信は一段と高まりを見せている。
特に、 商品偽装・不正示問題で深刻に受け止めなければならないのは、 この間何十年にも亘って多面的な形で発展してきた生協と農協の協同組合間提携・産消提携分野にも波及したことである。
筆者は2002年4月に、 たまたま日本農業市場学会のワークショップで豚肉偽装問題渦中の玉川農協を訪問したことがある。 その際、 関係者からは 「偽装があったとは知らなかった」
との説明を受けたが、 東都生協と茨城県玉川農協・匝瑳 (そうさ) 農産物供給センターが引き起こした産直豚肉の一件は生産者と消費者ともに心を痛める事件であった
(注1)。
生産者と消費者の農産物のバイパスとして始まり、 協同組合間提携として一定の発展をみせた産消提携 (産直、 産地直結、 協同組合間提携などの呼び方があるが、
以下、 産消提携とする) は、 大きな壁に直面したと言えるであろう。
今回、 編集部の方から、 「農と食」 のあり方が根本的に問われている中で、 「農業サイドから生協への注文」 「生産のサイドから消費への注文」 の要請があった。
その意図を今日の農業・農村が抱えている問題点と新たな動向を整理することとして受け止め、 特に、 わが国の重要な農業地域でもある東北農業・農村の動向に視点をあてることにして、
若干の問題提起を行うこととしたい。
一 BSE (狂牛病) ・食品偽装問題と
「『食』 と 『農』 の再生プラン」
2年前に発生した BSE 問題については、 農水相と厚労相の私的諮問機関として設置された 「BSE 問題に関する調査検討委員会」 の報告書 (2002年4月2日)
が問題点を詳しく指摘している。 この中で、 国の施策に 「重大な失政」 「政策判断の間違い」 があったことが明確に述べられている。 2000年から2001年にかけて行われた日本の
BSE 発生リスクを評価した EU 科学運営委員会から、 「発生の可能性がある」 と指摘されていたにもかかわらず、 農水省ではこれを 「あり得ないこと」
として否定し、 骨粉禁止勧告を受けながらも、 これを単なる 「行政指導」 で事足りるとしていたことが問題の発生要因であることを述べている。 また、 報告書の原案には、
問題発生の背景として 「政官癒着」 「農水族議員が政策に影響を及ぼした」 などの文言があったというが、 さすがにこれらは最終報告書では削られたようである。
また、 農水省は BSE 問題に引き続いて生じた一連の食品偽装問題について、 これを 「犯罪」 として企業の責任を追及したがこのことは当然の対応としても、
国の責任はもっと厳しく問われてしかるべきであろう。 中国からの 「毒菜」 とまで言われる輸入野菜などの基準値を超える 「農薬」 汚染の問題についても、
国の安全対策が明確にならなければ多くの国民は不安のままで生活をしなければならない事態にある。 このように国の食品行政のあいまいさが今日の食の安全問題を生んでいる大きな要因である。
しかし、 その後の経過をたどると国・農水省はこれらの問題発生を契機に、 わが国の農林水産行政を 「生産者から消費者に軸足を移す」 と表明するようになった。
このことは生産者サイドから見ると、 安全な農産物を安定的に確保するという点からして見過ごすことのできない問題を含んでいる。
農水省は先述の BSE 問題に関する調査検討委員会の 『報告書』 発表直後、 「『食』 と 『農』 の再生プラン」 (4月11日) を発表した。 このプランには、
「『食』 と 『農』 に関する様々な課題が顕在化している中で、 農林水産政策を大胆に見直し改革することにより、 『食』 と 『農』 を再生し、 国民の信頼を回復することが急務」
となってきたことにあるとその目的が述べられている。 そして、 そのための大項目として 「1. 食の安全と安心の確保」、 「2. 農業の構造改革を加速化」、
「3. 都市と農山漁村の共生・対流」 が掲げられ、 冒頭の 「食の安全と安心の確保」 では、 「消費者第一のフードシステムを確立」 するとして、 「食の安全と安心のための法整備と行政組織の構築」、
「『農場から食卓へ』 顔の見える関係の構築―トレーサビリティシステムの15年度導入―」、 「『食の安全国民会議』 の発足―みんなで考える 『食育』 と
『リスクコミュニケーション』 の推進―」、 「JAS 法改正で食品表示の信頼回復」 「新鮮でおいしい 『ブランド日本』 食品の提供」 が取り組み課題に上げられている。
このように 「『食』 と 『農』 の再生プラン」 の冒頭に 「食の安全と安心の確保」 が掲げられ、 「消費者の権利」 「消費者重視の改革」 が主張されていることが大きな目玉となっている。
もちろんこれらの施策が重要であることは論を俟たないが、 「食品安全行政組織の構築」 などを主張する一方で、 再生プランの 「2. 農業の構造改革を加速化」
の大項目では、 国内農業のあり方に関して 「農業経営の株式会社化」 や 「農地法の見直し」 が強調されている。 今回の偽装・不正表示問題を機会に、 最初に考えなければならないのは、
大量の農産物輸入により国内農業生産体制が弱体化している日本農業のあり方そのものについてである。 生産者サイドから見ると国内農業生産基盤を重視しない 「消費者対策」
は欺瞞であると考える。 世界のどこからでも輸入すれば良いという考え方に基づいた食料政策は余りにも近視眼的である。
「『食』 と 『農』 の再生プラン」 発表後、 国は食品安全基本法の制定、 農林水産省の食品安全委員会及び厚生労働省と共同した消費者との意見交換会
(食品に関するリスクコミュニケーション/牛肉のトレーサビリティなど) などが開催され、 消費者ニーズを積極的に取り込もうとしている。 このこと自体はこれまで国の行政が遅れていた課題であることから、
積極的に推進することについて異議を唱えものはいないであろう。 問題は、 生産者側の国内農業の実態である。
二 首相の 「食糧鎖国論」 発言と
農産物自由化体制
小泉首相は、 本年10月21日、 タイで開催されていたアジア太平洋経済協力会議 (APEC) 首脳会議後の記者会見において、 「農業鎖国は続けられない」
「外国農産物との競争に耐えられるよう農業構造改革は待ったなしだ」 の発言を行っている。 食料自給率が40%と砂漠国並みに低いわが国は、 1999年7月に新農業基本法
(食料・農業・農村基本法) を制定、 2000年3月に 「食料・農業・農村基本計画」 を閣議決定し、 その中で 「食料自給率の目標の意義と数値」 を示し、
「食料自給率の目標を掲げることは、 国民参加型の農業生産及び食料消費の両面にわたる取組の指針として重要な意義を有する」 として、 「食料として国民に供給される熱量の5割以上を国内生産で賄うことを目指す」
ことを表明とした。 そして、 当面は 「現状の40%弱を2010年には45%に引き上げる」 ことを具体的に明らかにした。
しかし、 今回の小泉発言は先の森内閣時代に決定された計画とはいえ、 わが国の食料自給率向上計画に水を差すものである。 最近、 発表された2002年の農業総産出額
(概算) は8兆9,261億円で、 最高時の1985年の11兆6,295億円から比べると23.4%のマイナスである。 この間、 不況続きとはいえ、 わが国農業・農村の停滞ぶりが伺えるであろう。
国は、 本年8月末から現状の 「食料・農業・農村基本計画」 を2005年の新計画策定に向けて検討を開始した。 農業鎖国発言直後の小泉首相の指示は11月21日の全閣僚で構成する
「食料・農業・農村政策推進本部」 で行われた。 農政改革として上げられているのは、 食料面では 「消費者と農業の距離を縮小」 「安全・安心でおいしい食料を合理的な価格で安定的に国民に提供し、
自給率を維持・向上」、 農業面では 「意欲と能力のあるプロ農業経営の高生産性型農業、 高付加価値型農業の展開」 「国境措置に過度に依存しない体制」 「部門によっては、
輸出も視野に」、 農業面では、 「健全で豊かな自然環境や景観を有する個性ある魅力的な農村」 「国民の求める新しいライフスタイルの実現」 があげられている。
筆者なりのポイントで言えば、 ■プロ農家への支援集中・重点化、 ■農地制度の見直しによる株式会社の農業参入、 ■環境や農地・水等の保全のための政策の確立、
■ 「食育」 の推進、 ■都市と農山漁村の交流加速などを実行するということであろう。 小泉首相は 「やる気と能力のある経営を後押しし、 消費者・生活者の視点に立って食の安全と信頼を確保することが必要」
と指示したという (注2)。
ここから見えることは WTO (世界貿易機関) や FTA (自由貿易協定) を促進する立場から、 農産物貿易の一層の自由化に対応できる国内農業体制づくりを整備することであり、
それを担える 「多様な担い手」 の参入を目論んでいる。 そのために、 農業経営の一層の規模拡大と株式会社の参入を構想しているのである。
三 農協の大型合併と日本の農協の行方
今後の産消提携、 都市と農村の交流の発展を考えるときに農協の動向についても検討をしておくことが必要である。 今から一昔前の1992年に出された 「新しい食料・農業・農村政策の方向」
(当時、 「新政策」 と呼ぶ) では、 10~20ヘクタール規模の稲作経営 (個別経営体15万戸、 組織経営体2万) を10年後の2002年に育成する政策が掲げられたが今日、
その10%も実現されていない。 依然としてわが国の農業は小規模家族経営によって営まれており、 独立自営の農業経営者が登場してきているとはいえ圧倒的多数の農業者にとって、
農産物の商品化のためには農民的な農協組織が不可欠であると考える。
本年10月末、 21世紀最初の第23回農協大会が開催された。 今大会では協議案に 「『農』 と 『共生』 の世紀づくりをめざして― JA 改革の断行―」
と題してとあるように、 特に、 JA 経済事業の改革に重点が置かれている。 この背景には、 わが国の農協はこの間大型合併が進められ、 現在 (2003年11月)
では931にまで減少しており、 3~4の自治体に1大型合併農協が存在することになっている。 今回の大会では、 「JA 改革の断行」 を図る 「具体的実践事項」
が強く押し出されているが、 これは合併にともなう経済効果の発揮が課題となっていることを意味している。
そして、 この間、 農協大会と農水省の関連動向をみると政府が農協のあり方に大きく関与する傾向が強まっていることがわかる。 特に、 1996年の住宅金融専門会社
(住専) 融資問題発生の頃から、 農水省は農協のあり方に強く介入し、 農協中央もそれに対応してきた。 まさしく農水省と農協中央が一体となって 「農協改革」
を進めてきたというのが近年の特徴であり、 ここにきて政府・財界による 「農協解体発言」 が、 経済財政諮問会議などにおいて述べられている。
例えば、 2002年12月12日の総合規制改革会議の 「規制改革の推進に関する第二次答申―経済活性化のために重点的に推進すべき規制改革―」 では、 「これまで農協は、
農政との密接な連携の下に、 我が国農業の展開に一定の役割を果たしてきたと考えるが、 国・都道府県・市町村の各段階に対応した巨大組織に発展する一方、 我が国農業は零細な生産構造から脱却できない深刻な状況を抱えており、
これまでの農協の事業運営の在り方や農協に対する行政関与等、 抜本的な見直しが必要になっている」 など、 わが国農業の構造改革や市場メカニズムの浸透が遅れているのは農協の存在そのものであるとまで言及している。
このようにわが国の農協系統組織は今日、 構造改革の厄介者として捨て去られようとし、 さらに農家の自主的な相互補助組織として発展してきた役割をも否定されようとしている。
そして、 農協中央の首脳部は、 WTO 体制下での 「歯止めなき農産物輸入」、 大量の輸入米を前提にした100万ヘクタールを超える減反の強制、 国の責任を放棄し農業団体に生産調整を押しつける
「米政策改革大綱」 の実施、 また株式会社の農地取得の緩和などにより、 羅針盤を見失っている。 この農協界が、 協同組合理念を回復することなしには産消提携の発展も不十分なものにとどまるであろう。
しかし、 一方では農村の各地において、 地元でとれたもの地元で消費する地産地消運動、 直売所などのファーマーズマーケットの進展、 持続循環型農業の追求、
女性・高齢者などを含む多様な農業者の登場など、 地域農業づくりともいうべき新たな協同の芽が各地で生まれている。 このような動きは農業つぶしが進行する中で、
生産者・消費者・地域住民による地域農業の再生への取り組みであり、 それは地域を守ろうとする熱意によって支えられている。 協同の回復を取りもどす様々な運動に注目することが重要である。
四 産消提携の課題と地域農業づくり
ここまで筆者は、 わが国の食料・農業・農村政策がいかにゆがんだ形で進められているかについて述べてきた。 このような状況の中で今回、 産消提携を否定するかのような食品偽装問題、
農と食の乖離が生まれているのである。 今一度、 産消提携の理念を振り返ってみることが必要である。
1980年代後半から、 産消提携が注目されだした背景には、 産直を中心とした新しい流通システムづくりがあった。 この時期の産直の展開はかっての 「流通短縮」
論やそれまでの少数の生産者と消費者グループのもとでの個別散発的な取り組みから一歩進み、 農協や生協など、 協同組合間同士の意識的な提携が進むようになったことが特徴的であった。
また、 産直運動の掲げるスローガンには、 「つくる人、 食べる人の顔が見える心のかよう産直」 「顔と暮らしの見える産直」 などに表現されているように地域農業のあり方に関わる問題意識を消費者が視野に入れ、
消費者大会や生協の総会などでは 「自主的な農業・食糧政策の確立」 「地域で生産できる安全な農産物を育て食べる運動」 などが決議されるなど、 注目できる運動も展開された。
しかし、 一方では生協組織が巨大化する中で実務的な産直取引のなかに様々な矛盾が発生してきたことも事実である。 この間の産直取引に関する調査をみると、
生産者・農協側からは 「経費にみあった価格での販売が困難である」 「需要にみあった供給品目の品揃えが困難である」 との回答が高く消費者側、 それも大規模生協ほど
「より安全な商品の供給」 を求める回答が高く出る傾向が見られた。
今回の産地偽装問題を契機に明らかになったことは、 消費者サイド (生協) の大型化と生産者の供給力量のアンバランスである。 この間の生協組合員数の増大の一方で、
産地側は担い手の減少などにより、 安定的に供給できる体制をとれなかったことである。 ましてや天候に左右される農産物や部位アンバランスが大量に生まれる畜産物において、
安定的に供給することは実際に極めて困難な課題であったであろう。 消費者と生産者が作り上げてきた産消提携事業の意義を否定することはできないが、 産消提携の発展のためには国内農業の健全な存在と生産者と消費者相互の信頼関係が必要である。
先述の玉川農協では、 養豚農家の生産者数は最大時の三桁から、 現在では一桁に減っていた。 この需給のアンバランスの点検が相互になされることが必要であった。
今回の食品偽装問題が我々に教えてくれたことは、 あらためて 「顔とくらしの見える」 関係を築くことであると考えたい。
そのように考えたとき、 地域に目をやれば新たな協同運動が澎湃として巻き起こっていることに気がつく (注3)。
第1に、 非合併・小規模農協の健闘である。 例えば、 最近では青森県野辺地町農協の産地形成と組合員活動、 山形県余目町農協の生活購買・加工事業活動が注目される。
大規模大型農協が大量流通・大量販売を志向し、 きめ細かなマーケティングができなくなる中で、 業務上面倒なことが多い、 産消提携事業から後退する傾向が強まっている。
数は極めて限定されるが、 そのような中で 「小さい農協の大きな実践」 が注目できる。
第2に、 澎湃として起きている各地の農産物直売活動の賑わいである。 直売所を通して、 農家女性の生き生きした活動が報告されている。 青森県弘前市内に属する未合併農協である津軽石川農協の道の駅
(サンフェスタいしかわ) では、 農産物の他、 豆腐・菓子・餅などの加工品販売で地域の活性化に貢献している。 週末や祝日などには3,000人の来客があり、
特産品のりんごの裾物が市場の3倍の値がついて売られ、 年間の総販売額は5億円を越えている。 東北地域には販売額が5億を越える直売店が他にも見られるようになった。
この背景には国内における農業破壊と食の安全性を求める国民の根強い要求があり、 新鮮、 安全、 手頃な価格の農産物に対する期待の高まりがある。 直売所などの賑わいは、
これまでの農協販売活動のあり方を問うているのである。
第3に、 生産者・消費者・地元業者がすすめている様々な協同運動の展開もみられる。 具体的には、 地元の食材を利用した学校給食運動、 転作大豆の生産・加工を・流通までを一貫して追及している大豆畑トラスト運動など、
地域農業を再認識する多様な地域農業づくりの事例が報告されている。 こうした地域農業づくりともいうべき新たな協同の芽が吹きつつあることに注目することがあらためて重要である。
生協運動側がこれらの地域農業づくりにこれからどのように関わっていくのか。 このことが問われているように思う。
五 終わりに
最後に国際的な動きに少し、 触れておきたい。
先般、 アメリカ農村部 (北部・五大湖周辺) を車で回る機会があった。 至る所に目にするのは 「Fresh」 (新鮮)、 「No Pesticide」
(殺虫剤不使用)、 「Organic」 (有機) などと書かれた看板や観光農園である。 こうした中で今日、 急速に増加しているのがファーマーズ・マーケットである。
ここでは趣味的な農業者から、 有機農業運動のグループである 「Community Supported Agriculture」 (地域社会が支える農業)
の一員らが、 有機栽培による新鮮な青果物を出荷し、 自ら販売している。 その地域のあるレストランのメニューに 「Support local farming.
Buy from the farmer's market. Buying local is fresher, healthier, just tastes
better.」 (地元農産物の購入は新鮮、 健康、 味が良く、 地域を支えるの意) の文言が書かれていた。 そして、 このような個人経営者の努力だけではなく、
最近では各州の農業部でも農業振興に様々な力を入れている。 アメリカの農村でも過疎・高齢化からの脱却のために農産物を中心にした地域おこし・祭りがいたるところで行われている。
農業振興を基礎とした地域おこしは、 これもまた日本の農村と共通するものと言える。
また、 この10月に中国農村部を訪れる機会があった。 中国政府は、 現在、 「三農 (農業・農村・農民) 問題」 が社会の安定と経済発展にとって重要な課題であると位置付け、
本格的な取り組みを進めつつある。 このような中国農業・農村・農民の現状と発展課題の中で最大の焦点となっているのは自主的自立的な農民組織の確立である。 今日、
「社会主義中国」 建設の象徴であった人民公社体制は崩壊し、 社会主義市場経済のもとで、 生産責任制が導入されている。 それ故、 多数の小規模零細農家が農産物販売を目指して市場と結びつくためには農民自身の合作組織
(=協同組合のこと) の設立が必要不可欠である。 そこで学ぶべき農民組織として熱い視線を送られているのがわが国の農協組織形態の導入である。
このように見てくると、 私たち自身が有機農業、 安全な食料の確保、 地産地消、 産消提携、 減農薬農産物の普及など、 新しい取り組みに光を当ててくことが重要である。
そのような中で、 国の 「食料・農業・農村政策」 の見直しをが迫ることが可能となるであろう。
注1) なお、 詳しくは 「2002年度 日本農業市場学会公開シンポジウム 『表示偽装』 問題と産直取引の再構築」 (特に、 中島紀一 「続発する食品偽装事件で表面化した生協産直事業の政策理論問題」)
日本農業市場学会編集 『農業市場研究』 第11巻第2号、 2002年12月号)。 及び、 大木茂 「生産者・消費者協同の新たな課題と可能性」 (日本協同組合学会編集
『協同組合研究』 第22巻第3号、 2003年3月号) を参照。
注2) 『日本農業新聞』 2003年11月22日
注3) 中嶋信・神田健策編 『21世紀食料・農業市場の展望』、 筑波書房、 2001年6月。 ここでは事例を要約して紹介しているが、 引用文献箇所は同上書
(神田稿) の注に示してある。
プロフィール
かんだ けんさく (農学博士)
<経歴>
1978年 北海道大学大学院農学研究科博士課程単位取得退学
1978~1984年 北見工業大学一般教育等 (人文) 講師・助教授
1984~1989年 弘前大学農学部助教授
1989年 弘前大学農学部教授
1990年 岩手大学大学院連合農学研究科主指導教官
1997年 弘前大学農学生命科学部教授
<所属>
農学生命科学部・地域環境科学科・地域資源経営学講座
<研究キーワード>
協同組合、 地域農業、 地域づくり、 地域経済、 地域連携、 国際交流、 りんご
<PR>
協同組合の運営でお困りの方は是非ご相談ください。
<論文・著書・訳書>
○ 『小さな農協の大きな実践―野辺地町農協50年史―』 (野辺地町農協、 1998年)
○ 『再編下の食料市場問題―生鮮食品を中心として―』 (共著、 筑波書房、 2000年)
○ 『ファーム・ファミリー・ビジネス』 (監訳、 筑波書房、 2000年)
○ 『地域づくりと農協改革―新たな協同の世紀を求めて』 (共著、 農文協、 2000年)
○ 『今日の食料・農業市場■ 21世紀食料・農業市場の展望 (共著、 筑波書房、 2001年)