『協う』2003年10月号 視角
医療生協の子育て支援
椎野 智子
子どもの健康と子育て環境の変化
医療生協の病院や診療所に健診などで訪れる子どもたちの様子を聞くと、 夜遅くまで起きていて朝起きられない、 食事が不規則など、 生活習慣が乱れている子どもが多く見られます。
乳幼児期からの生活習慣の乱れは、 子どもの発達や健康に大きな影響を与えます。 小学生の肥満や生活習慣病などの問題も深刻です。 子どもの健康を守るためには、
大人も含めた生活全体の見直しや、 働き方の見直しも必要です。
子育てをする環境も大きく変わっています。 高度経済成長の中で都市化が進み、 昔の形の地域の連携が崩れていきました。 近所同士のつき合いも希薄となり、
気楽な反面、 助け合いのシステムは崩れていきました。 子育て中の親は、 実際に赤ちゃんにさわった経験もなく親になり、 マニュアル通りに行かない育児にひとりぼっちで悩むことが多くなってしまいました。
世の中は経済効率が求められ、 親たちには長時間労働、 リストラに対する不安、 将来への生活不安などから、 子どもたちとゆったりと接しながら育てられる環境はなくなっています。
情報や知識をたくさん持っている親でさえ子育てが大変なのが今の時代なのです。 ここに子育て支援の必要性があります。 今、 私たちは昔とは違った、 今の時代にあった子育てのための連携システムを構築していく必要があります。
安心して 「産み、 育て、 みとる」 まちづくり
医療生協が 「子育て支援」 を初めて本格的に運動課題に据えたのは、 現在3年目を迎えている第3次5ヵ年計画 「医療生協の未来をひらく21プラン」 です。
医療生協運動の中心的なスローガンは 「明るいまちづくり」 です。 「明るいまちづくり」 とはすなわち、 地域まるごと健康になることをめざし、 地域に
「保健・医療・福祉のネットワーク」 を形成して、 子どもから高齢者まで、 そこに住むすべての人々が安心して健やかにくらせるまちづくりです。 私たちは安心して
「産み、 育て、 みとる」 まちづくりと表現しています。
医療生協の子育て支援の可能性と今後の課題
医療生協は、 医療機関をもち、 医師、 看護師、 栄養士、 保育士などの専門家がいます。 また、 支部や班があり、 多世代の組合員が参加しています。
組合員の中には、 教育や保育の専門家もいます。 そんな医療生協の強みを活かせば、 様々な子育て支援が展開できると考えています。
第1には、 医療の分野、 例えば病後児 (病児) 保育や小児科、 産婦人科などでの子どもとその親の健康・保健活動にかかわる活動があげられます。 妊娠、
出産、 健診など、 医療機関の利用を通じて援助を行うことができます。 また、 母親学級、 子育て教室などで、 学習、 交流、 仲間づくりも行われています。
小中学生を対象に、 体験学習を中心とした保健学校なども開催しています。
第2には、 支部、 班の活動を中心とした組合員組織としての活動です。 全国に1800ある医療生協の支部では、 「夢マップ」 づくりにとりくんでいます。
まちを歩いて危険箇所を調べたり、 環境チェックをしたり、 医療機関・福祉施設、 公共施設を調べて地図をつくります。 その調べた結果をもとに、 願いや要求を書き出し、
自治体への要求づくりや支部の活動に活かしています。 この 「夢マップ」 づくりの中心テーマに子どもや子育てを位置付けた活動も生まれています。
第3に、 多世代の交流・協同です。 高齢者の茶話会に一般の組合員はもちろん、 地元の中学生がボランティアで参加したり、 子育て教室の間、 高校生が参加者の子どものお世話をしたり、
新しい多世代の交流が始まっています。 異世代のひとびとと触れ合い、 助け合える地域をつくることは、 地域で安心して子どもが育ち、 子育てできる地域づくりにつながっていくと思われます。
「次世代育成支援対策推進法」 に基づき、 来年度から地方自治体および一定の規模以上の企業では、 行動計画が作成されます。 その中で、 地域の人々が求める子育て支援の実効ある内容を盛り込ませ、
実行させていくことが大切になってきます。 また、 子どもや子育てについての地域の問題を一緒に考えることのできる、 他施設、 他団体とのネットワークづくりも今後の重要な課題です。
(参 考)
虹のブックレット No.57 『安心して子育てできるまちづくり』 日本生協連医療部会発行
「医療生協子育て支援学習交流集会報告集」 2003. 6 日本生協連医療部会
日本生活協同組合連合会 医療部会
しいの ともこ