『協う』2003年10月号 人モノ地域
子育ての楽しさをみんなに広げたい
-子育て中の親も子育てを応援しています-
つながりの中で子育てしよう 「宇治・子育てを楽しむ会」
少子化が叫ばれる昨今、 「子育て支援」 の言葉をよく目にするようになった。 子育て中の母親による 「子育てサークル」 は、 各地で活発に活動をしているが、
そうしたサークルとの接点もなく、 地域の中で孤立しひとり悩む母親も多い。
書店に並ぶ 「子育て情報誌」 は大都市圏中心の内容であったり、 行政から発信される情報は、 管轄ごとの縦割りで断片的にしか入手できず、 求める情報を手にするためには、
個々人が大変な努力を払わなければならない。
「子育て支援」 を考える場合、 個々の母親やサークルへの対応と同時に、 「子育て」 に関する地域に根ざした 「ネットワーク」 作りが重要となる。
そんな 「子育てネットワーク」 にとりくんでいる、 京都府宇治市の子育て支援グループ 「宇治・子育てを楽しむ会」 を訪れてみた。
きっかけは 「子育てを
楽しみたい」 という気持ち
「子育てを楽しむ会」 発足は1999年4月。 もともとのきっかけは、 宇治市内で子育てサークルに参加・運営するメンバーが出会い、 「親同士が助け合い、
その事によって楽しい子育てができたら・・・」 と 「子育てネットワークづくり」 への想いから始まった。
立ち上げ時のメンバーの一人は、 「会」 の趣旨を 「自分たちの子育てを楽しくしたい。 そして楽しむのなら、 他のお母さんにもその楽しさをわかちあいたい」
と説明してくれた。
また、 あるスタッフは 「楽しいことが好き。 お祭り意識で活動しているようなもの。 子育ての辛さの反動かもしれません」 と語ってくれた。
「子育てを楽しむ会」 のスタッフは、 総勢16名。 4年前の 「会」 立ち上げ時からのメンバーは僅か4名で、 あとはこの1~2年の間に参加してきた人ばかりである。
子どもの成長とともに 「卒業」 していき、 かわりに新しい子育て中の母親が集まってくる。
顔ぶれは多彩で助産師、 保育士、 ヘルパー、 歯科衛生士、 中学や高校教員などの有資格者もいる。 いずれの人たちも自らが子育て真っ最中の母親である。
有資格者を特に募集したわけではないという。 「楽しむ会」 の企画に参加した母親やホームページで活動を知った母親が、 「自分の経験を生かせそう」 「友達ができそう」
と集まってきた。
「楽しむ会」 のホームページの維持・管理も 「会」 を卒業した母親が、 引きつづき行なってくれている。
母親同士のきっかけづくり
「赤ちゃん広場」
活動を始めた当初は、 母親が集まれる場所すらなかったという。 独自に250名から集めたアンケートで、 「気軽に親子で集える場」 が求められていることを知り、
「じゃあ、 集まれる場所をつくろうよ」 となった。 「外に出たい」 「大人と話をしたい」 といちばん感じている0歳児の親を対象とした 「赤ちゃん広場」
が始められた。
9月に行われた 「赤ちゃん広場」 (7ヶ月~1歳対象) をのぞいてみた。 10時の受付時、 会場の部屋には35組の母子が集まっていた。
子育て仲間作りのポイントは、 居住地が近いこと、 子供の月齢が近いことという。 「広場」 の企画にも随所に工夫が施されていた。 A 5 の紙でつくられた
「名刺」。 参加者が 「居住地域」 「子供の名前、 月齢」 などを書き込むだけの簡単なものである。
赤ちゃんと一緒に身体を使って遊ぶ 「お楽しみタイム」 の中で、 「月齢」 「地域」 などの共通項でグループ作りのお遊びが行われた。 参加者は、 同じグループになった人と、
名刺交換を行う。 その場は数分の交流だが、 その後のフリータイムでは、 名刺交換したお母さん同士の輪があちこちに出来上がっていた。 この広場がきっかけで新しいサークルができた、
ということもあるそうだ。
参加者のひとりは 「保健所などの母親教室では、 お母さん同士の交流がしにくい。 この広場にはお友達を作るきっかけがある」 との感想を聞かせてくれた。
同じ子育て中の母親だから、 「きっかけ」 を欲しがっていることを踏まえた工夫をしているという。
助産師の資格をもつスタッフも 「“赤ちゃん広場”のフリータイムの時は、 お母さんからの質問や相談を良く受ける。 同じ母親として見てくれるからでしょうね」
という。
地域の子育て情報をひとつに
スタッフに共通するのは、 「宇治で子育てを楽しみたい」 という想い。
発足当時から、 地域のあちこちで育児サークルが活動したり、 子育て世帯が受けられるサービスや制度はあったものの、 問い合わせ先や利用方法は、 ひとり一人がいちいち調べなければならず、
気付かなければ知らないままという状況だった。 そこで2000年3月に宇治市内の子育てサークルや育児情報を集め、 展示した企画を開催。 ばらばらだった地域子育て情報を初めてひとつにまとめ上げ、
多くの子育て世代に知らせることができた。
この時に集めた情報は、 『宇治子育て情報誌』 として独自に発行もした。 この情報誌作成の経験はその後、 宇治市地域子育て支援基幹センターが発行する 『
0・1・2・3 さい 宇治子育て情報誌』 発行の際に、 協力団体としての参加にもつながり、 宇治市社協、 地域子育てサークル紹介などの情報が総合的に掲載された情報誌作りに生かされた。
「赤ちゃん広場」 の参加者からの質問やホームページの書き込みには、 「子育てサークル」 に関する問い合わせも多いという。 「楽しむ会」 では、 宇治市内のサークルと連絡を取り合いながら、
条件に合う所の紹介も行っている。 そのための情報 (活動内容、 メンバー募集の有無、 連絡方法など) は、 スタッフが分担しながら集めている。
また、 サークルからもメンバー募集や運営についての相談も受けるという。 その場合は、 現役で地域のサークル代表をつとめているスタッフが、 自身の経験や他サークルの情報をもとに相談に乗っている。
新しい試み
「フレンドリーサポート」
子育て中の母親の全てが、 場を求めて外に出られるわけではない。 また、 子育て中の不安や困難の多くは、 ちょっとしたアドバイスやお手伝いで解決することも多い。
そうした母親に対応できればと、 今年の9月から 「フレンドリーサポート」 の取り組みを始めた。
「フレンドリーサポート」 は、 「家事手伝いでもない、 ベビーシッターや保育の預かりでもない、 だけど必要だと思う産前産後 (場合により子育ての時期)
のサポート」 をめざす。
「平成15年度キリン財団福祉基金」 の助成事業に応募し、 財源を確保。 子育てサークルの代表者や大学の研究者の協力も得ながらの取り組みである。
本格的なサポート活動の開始に向け、 サポーター養成講座が6月から5回開催された。 受講生は 「少し先輩ママともう少し先輩ママ」 達。 「出産」 「子供の発達」
「相談・援助のあり方」 などを学んだ。
当面、 来年2月までの期間限定の取り組みとなるが、 「専門家ではないけれど、 同じ母親だからできるフレンドリーサポートのプロになりたい」 と強い意気込みで臨んでいる。
スタッフは、 これまでの 「参加」 を前提とした 「子育て支援」 から、 ひとり一人の家庭を対象とした新しい子育て支援のあり方として、 また、 こんなやり方だったら街に定着させられるのではと、
新しい取り組みへの意気込みを見せている。
◆◆◆
紙面の関係で充分な紹介ができなかったが、 「子育てを楽しむ会」 はホームページ上で父親参加のコーナーを設けたり、 子育て支援の関係機関・団体と連携した取り組みを行ったりと幅広い活動を行っている。
ぜひ一度、 ホームページをのぞいてみてほしい。
特筆すべき点は、 きっかけを求める人には場の提供を、 サークルを探している人には連絡先を紹介するなど、 コーディネーターとしての役割を発揮している点であろう。
すべてをお膳立てするのではなく、 当人が行動や判断をする余地を残した対応は、 子育て支援活動に取り組む多くの人に参考となるであろう。
<子育てを楽しむ会 HP>
http:■■homepage2.nifty.com■
maanet■ujikosodate■
文責/中川規生 (編集委員)