『協う』2003年10月号 書評2
豊かな子育てコミュニティの形成をめざして
竹内 絹代
京都生活協同組合
組合員活動企画室
『子育て支援の現在
-豊かな子育てコミュニティの形成をめざして-』
垣内国光・櫻谷真理子編著
ミネルヴァ書房 2002年8月 2,600円+税
核家族の初代であろう私の親の世代は、 高度経済成長の時代の中で、 「家庭を守る」 役割り分担を担い、 子どもを産み育てていたでしょう。 その二代目であるわたしたちは、
わが子以外に子どもを抱くこともなく、 なぜ泣き叫ぶのかわからない子どもを抱きながら、 育児書のページを繰っていました。 そして、 もうすぐ三代目の親世代がやって来ます。
そういう、 子育てに悩んでいる当事者や、 地域の中で子育てコミュニティづくりをと考えておられる方々には、 おすすめの一冊です。
本書は、 「子育ての実態と育児支援政策」 「子育て支援の実践」 の2部構成となっており、 統計や豊かな実践事例が紹介されるものとなっています。 中で、
「乳幼児子育て支援の実態と課題」 として1996年7月に大阪市・四日市市・武豊町の地域で実施されたアンケート調査の結果報告は、 私の生協 (京都生協)
で2003年4月に実施したアンケートと大きな類似点がよみとれ、 今後の子育て当事者のニーズを知る上では、 大変参考になる報告になっています。
国の施策や地方自治体のとりくみについての記述も詳細です。 毎年のように、 国の政策がだされますが、 子どもが健やかに育つ権利が最優先されておらず、 人口減少危機論を機軸にした少子化対策の施策でしかありません。
また低賃金と不安定雇用という形で子どもがある程度成長した母親に労働力を依拠した労働政策、 そしてそれと一体となった保育政策、 さらに子どもを資源として捉える国の施策を詳らかにしており、
子育てとその環境に悩む当事者の気持ちを考えると怒りも覚えます。
一方、 揺らいでいる当事者に、 共感と理解、 支援ができる地域でのコミュニティづくりの大切さについても、 豊かに事例が紹介されています。 公立保育園の地域子育て支援と保健センターの連動から生まれた、
地域に根ざした保育センター事業から子育て支援課が設置された吹田市の例。 上福岡市では、 県の指導による突然のエンゼルプラン策定に対して、 市立保育園の
PTA 連合会が 「エンゼルプラン問題市民懇談会」 を作り、 粘り強い活動で、 市民の意見が反映した市エンゼルプランを実現した経験、 また、 愛知県での
「子どもの虐待防止ネットワーク」 による電話相談活動など、 具体的に報告されています。
子育てだけではなく、 くらしの術を身につける機会がなく、 習俗や文化が伝承されなくなり、 マニュアルどおりブレがなければ安心するご時世に、 本書は 「子育てに迷いや揺らぎは自然であり、
適度に揺らぐことは子どもにとっても望ましい影響を与える。」 と励ましを与えてくれます。