『協う』2003年10月号 書評1
親を運転席に、 支援者は助手席に!
宮川 加奈子
京都大学大学院経済学研究科
修士課程
『子育て支援と NPO
-親を運転席に!支援職は助手席に!-』
原田正文著
朱鷺書房 2002年10月 2,300円+税
「子育て親支援」 という言葉を最近になって初めて知ったのだが、 なるほど、 と思わされた。 保育士をしている妹の話を聞いていると、 育児に対する相談を深刻に打ち明ける母親がいる一方で、
「うちの子はどうしてまだハサミを使えないの」 といった内容のお叱りをうける事も多くあり、 “子供”というよりは、 むしろ“保護者”の反応に毎日頭を抱えている様子である。
こうしたやりとりを聞くうちに、 “子育て”とは、 “親”とは、 “保育園の役割”とは…、 と疑問があふれていた。 「子育て親支援」 という言葉は、 “子育て”は親の役割で、
「支援者」 はあくまでも 「親」 を助けるのであり、 舵を取るのは 「親」 である事を端的に表している。 本書における筆者の主張もまさにこの通りであり、
親の自主性に焦点を当てている。
日本の子育て支援はトップダウンの施策であり、 1995年に国の子育て支援策 「エンゼルプラン」 が実施に移されてから活動は大きく広がり、 施設もぐんと増えた。
しかし、 これらの支援で子育てをめぐる諸問題が解決していくのだろうかと、 筆者は悲観的に見ている。 むしろせっかく育ちはじめていた親たちの自主的な 「グループ子育て」
の機運がそがれ、 より依存的で未熟な親を作るのではないか、 と危惧さえしている。 なぜトップダウンの政策に任す事が問題かということについて二点の指摘をしている。
一つに支援対象が 「すべての子育て家庭である」 という点がある。 「すべてを行政や専門職がお膳立てをし、 市民をお客さんとして招く」 という従来の仕事のスタイルは通用しないとし、
二つ目に、 現在求められている支援は 「子育てという、 日常の営みに対する支援」 であって、 従来の問題発生に対する処置的なモデルは通用しないと規定している。
これに対して今後の子育て支援のあり方として、 自然発生的に生まれてきた 「グループ子育て」 をさらに育てる方向での支援を提案している。 「親を運転席に、
支援者は助手席に!」 という副題は、 まさにその新しいスタイルの提案を象徴している。 主体はあくまでも親であり、 受身ではない自主的な活動を盛り上げる。
そして子育てを通じて親自身が育つようにサポートする事を目的としている。 そして、 これを支える団体として、 NPO の可能性を強く主張している。 実際に活動している
NPO の事例紹介も豊富であり、 母親たちの元気な姿をうかがう事ができる。 親となる人、 親である人、 すべてに読んでいただきたい一冊である。